日銀マイナス金利解除で不動産価格はどうなる?

日銀は3月19日、金融政策決定会合でマイナス金利政策の解除を決定しました。2016年の導入以来、8年の間続いてきた同制度が解除されたことは報道などでも大きく取り上げられました。


また、それと同時にイールドカーブコントロール(YCC)の廃止と、ETFなどその他資産買い入れの廃止などについても決めています。YCCについては、2023年の柔軟化措置によって、既に形骸化しており、ETFの買い入れについても、直近で前場TOPIXが2%以上下げた局面でも買い入れがなかったことで、予想されていた内容でもありました。


マイナス金利の解除と併せて、公表文では「現時点の経済・物価見通しを前提にすれば、当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている」と、当面は追加の政策金利の引き上げを行わない考えを示しています。この点についても、事前に植田日銀総裁がさまざまな場で発言してきた通りの方針であり、金融市場の安定化を狙ったものだと考えられます。


日銀のマイナス金利解除、つまり実質的な利上げになりますが、これを受けて一部メディアでは、住宅ローン変動金利が上昇し、ローン負担が重くなる可能性について指摘が散見されます。ある番組では、今後1年間で0.25%の利上げが4回ずつ実施され、2026年には今より政策金利が2%上昇するとの試算を挙げているものがありました。


かりに金利が2%上昇した場合、5000万円のローンを組んでいた人では年間100万円の負担増となります。これは家計にとっても大きな影響が出ることでしょう。とはいえ、前述したように日銀はしばらくは追加の政策金利の引き上げを行わないと言っているわけですから、急激に金利が上昇する可能性は限りなくゼロに近いと言えます。もちろん、今後数年、あるいは十数年という期間で考えた場合では、同程度の金利上昇はあり得る話ですが、前述の試算はさすがに大げさだと言わざるを得ません。


では、実際に今後、金利はどうなるのでしょうか。そして不動産価格はどうなるのでしょう。予想は少し難しいですが、あくまで教科書的な話としては、金利上昇局面が訪れるとした場合、不動産の収益価格や融資の減額を通じて不動産価格が下がる可能性がある、と言えます。


繰り返しになりますが、今すぐ金利が急上昇する、という可能性は低いです。ですが、日銀が言うように賃金と物価が相乗的に上昇する好循環りが見通せる状況が今後も続いた場合、2%物価安定目標の達成とともに現在の緩和的な状況は徐々に引き締められ、通常の状態に戻っていくことになると思います。


直近のマンション価格動向


不動産経済研究所が発表した2024年2月の首都圏マンション販売の動向によれば、首都圏のマンション発売戸数は前年同月比27.6%減、平均価格は同5.1%の上昇となりました。


また、東日本レインズによると、2024年2月の首都圏中古マンションの成約件数は前年同月比3.4%増、成約価格は同11.5%増となっています。


日銀によるマイナス金利解除は3月だったわけですから、それより前である2月の価格は関係ないと思われるかもしれませんが、年初から今年は3月あるいは4月にはマイナス金利が解除される、との見通しが市場ではコンセンサスとなっていました。その点から、すでに影響は表れ始めていると考えたほうがよいでしょう。


首都圏のマンション価格は新築、中古ともに価格は上昇しており、一見好調が持続しているように見えます。しかし、前述したように2月の新築マンションの販売戸数は減少。成約件数が増加した中古マンションも、在庫件数を見てみると2月は前年同月から6.4%増加しており、リーマンショック以降で過去最高の水準にあります。


マイナス金利解除で不動産価格が下がるかもしれないから、今買うよりもう少し様子を見よう、という意識が購入希望者のなかにあることが一定程度影響しているものと思われます。


価格帯では、1億円以上するような実需以外に資産価値としても購入需要のあるような物件は、引き続き堅調に推移すると予想します。インフレヘッジなどの目的からも、こうした価格帯の不動産、特にマンションには外国人などの資金が向かいやすく、価格はむしろ今後も上昇していく可能性があるでしょう。一方で資産目的ではなく実需向けについては、金利上昇時の影響を受けやすい可能性があります。


東日本レインズが公表している資料によれば、実際に1億円以上の物件の成約率は直近でも変化はありませんが、価格が下がるほど成約率が低下している傾向にあります。特に3000万円から5000万円の価格帯で低下傾向が顕著となっており、今後価格低下圧力が強まってくるかもしれません。


日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

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