東証が市場改革の進捗を発表 グロース市場の今後に注目

東京証券取引所は、2024年5月21日、市場区分見直し後の状況と 今後のフォローアップに関する資料を発表しました。


同資料は2024年4月で市場区分見直しから2年が経過したことを受け、市場区分見直しの実効性向上に向けた各種施策を実施してきた現状と今後について主要なポイントをまとめたものです。


わたしたち投資家も、この2年、東証の市場改革とその一環である市場区分の見直しについては、日々変化を見てきました。


当初は旧1部市場からの移行先にプライム市場を選択する企業がほとんどを占め、市場区分見直しの意味がないと批判されたりもしましたが、2023年1月に上場維持基準に関する経過措置の終了時期を明確化し、2025年3月以後に到来する基準日から本来の上場維持基準の適用を開始。1年間の改善期間を 経ても基準に適合しなかった場合、監理銘柄・整理銘柄指定(原則6カ月間)を経て上場廃止にすることを決めました。


それと同時にプライム市 場上場会社に対してスタンダード市場再選択の機会を提供。再選択期間である2023年4月から9月の間に、177社がスタンダード市場を再選択し、旧1部市場からスタンダード市場に移行した会社は合計で515社となっています。


一方で約40%(209社)は引き続き基準未達のままとなっているほか、あらたに136社が追加され現在の経過措置適用会社は345社となっています。今後は基準未達企業に対し、改善期間の終了を意識した取り組みやコーポレートアクションの検討を進めるよう、東証が企業とのコミュニケーションを強化する方針のようです。



企業価値向上に向けた取り組みについては、市場でも特に大きな反応があった分野です。東証では、2023年3月、プライム市場・スタンダード市場(グロース市場は除く)の全上場会社を対象に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請を実施しました。いわゆるPBR1倍割れの是正も同要請に含まれます。


この結果、2024年4月末時点で、プライム市場の69%、スタンダード市場の28%の企業が対応を公表。企業側からは自社株買いや増配など、株主還元を意識した取り組みが本当に増えました。これが株価の押し上げ要因になった面は大きいと個人的には思います。


今後、対応が進むと想定されるものでは、英文開示が挙げられます。プライム市場では、2025年4月から、重要な会社情報について日本語と同時に英語での開示を行う努力義務が新設されます。また、決算情報および適時開示については、日本語と同時の英文開示を義務化されます。


2024年3月末時点で、プライム市場の英文開示実施率は98.2%。決算短信の英文開示率は91.8%に達していますが、スタンダード市場は同31.9%、グロース市場は同30.2%となっており、差が大きい状況です。この点については、東証では文開示の促進に向けたセミナー開催や事例紹介を実施。また、英文開示に関連する情報を集約した英文開示ポータルサイト「JPX English Disclosure GATE」を開設し、英文開示様式例や日英対訳集、英文開示に関するノウハウをまとめたハンドブックなど、上場会社の実務の参考となるコンテンツを提供するなどの取り組みを進めています。


最後にグロース市場の状況についても議論が進んでいます。足もとグロース指数は年初来安値圏で推移。指数が低調なのにはさまざまな要因がありますが、投資家にとって魅力的な市場になっていないという面もあるかと思います。


それでも、年間約100社が東証に新規上場するなかで、その約70%がグロース市場を選択しており、上場を目指す企業の受け皿として同市場の役割は非常に重要です。上場時の時価総額や資金調達額が小規模にとどまっていることなどは課題として認識されており、これに対して、機関投資家への情報発信支援、上場基準の見直し、プロ向け市場の活用などを含めて継続的に検討されることになっています。


市場がより魅力的なものに整備されていくことは投資家にとってもメリットがあります。前述しましたが東証によるPBR1倍割れ是正の要請は間違いなく、企業の姿勢を変え、株価を押し上げる要因となりました。足もとグロース指数が軟調に推移している要因の一つに、グロース市場は同要請の対象外だったこともあるでしょう。


成長を優先する段階では株主還元に注力することは難しい面などが考慮されてのことですが、改善が進む市場がある一方で、何も変わらないまま取り残されていては、投資家の資金はやってきません。東証には、グロース市場の改革にもより力を発揮してもらいたいと思います。


日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

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