ショック!個人投資家に人気の株主優待を廃止したサイゼリヤの思惑

100株で2000円の食事券を廃止


7月10日、主に個人投資家にとって重要な、そしてショックな出来事がありました。サイゼリヤが株主優待を廃止するという開示です。


いまさら説明するまでもないかもしれませんが、同社はイタリアンレストラン「サイゼリヤ」をチェーン展開している外食企業です。低価格でちゃんとおいしいメニューが強みで、国内外で数多くの店を出店しています。近年では中国への出店に注力しており、海外事業の利益が同社の収益の柱となっています。


株主優待は100株の保有で、同店で使える食事券2000円分(保有株数に応じて最大2万円分まで)がもらえるというもの。個人投資家に人気の優待で、これを目当てに同社株を保有しているという人も少なくありません。


その同社が、前述したように7月10日に2024年8月期第3四半期決算と併せて、株主優待の廃止を発表しました。個人投資家になかには「なぜ」と思った方や「まさか」と思った方など、さまざまな思いがあったことでしょう。


一般論として、株主優待を廃止する企業のなかには業績不振を要因に挙げるところもあります。そのため、同社も人件費高、物価高のなかで、低価格のメニューを提供し続けるのもなかなか苦しいものがあるのだろう、業績が厳しいのであれば廃止もやむなしと思った方もいるかもしれませんが、実際には発表された業績は非常に好調でした。


2024年8月期第3四半期決算の売上高は、前年同期比23.6%増の1633億円。営業利益は同2.8倍の100.7億円と大幅な増収増益でした。しかも、上期までは海外が稼ぎ頭となる一方で、国内事業の収益性の低下が問題となっていましたが、3Q累計時点ではその国内事業の収益性も改善してきており、かなりポジティブな印象です。


であれば、業績は堅調なのに優待を廃止するなんて株主を軽視している、けしからんことだ、と言いたくなるところですが、同社は、むしろ株主のことを考えた上での株主優待廃止だったと理由を説明しています。


発表資料によれば、「株主の皆様への公平な利益還元のあり方という観点から、慎重に協議した結果、配当による利益還元に集約することが適切であると判断」したとあります。同時に配当予想の増額修正を実施しており、従来1株当たり18円としていた2024年8月期の期末配当予想を同25円に増額しました。


サイゼリヤの食事券をもらっても、例えば近所に店がないなどの理由で使用できない株主もいることでしょう。その意味で、株主であれば等しくもらえる配当に集約するというのは確かに公平な株主還元と言えると思います。


また還元額についても、増配のほうがより株主に手厚くなっています。同社の発行済株式5227万2342株から自己株式333万5552円を引いた4893万6790株分について7円配当を増額する費用は3.4億円となります。一方で同社の株主数(2023年8月期末時点)が約5万人であることから、これに食事券2000円分とすると約1億円です。前述したように保有株数に応じて2万円までもらえるので、実際にはこれより大きな額になるはずではありますが、そこは自社の店舗で使用する食事券ですから実際の経費は増配に必要な額よりもずっと少なくなるでしょう。


とはいえ、100株保有の株主にとっては、増額される700円分の配当(さらにそこから20%の税金が引かれる)よりも、2000円の食事券の方が魅力、というのも納得できる話です。そのため、株主優待の廃止を受けて、発表翌日の11日の東京市場では、同社株価は安いところで前日比9%安まで売り込まれる場面がありました。



サイゼリヤ 7月11日の日中足チャート


ですが、上記チャートをみるとわかるとおり、寄り付き直後がこの日の安値となっており、その後は徐々に下げ幅を縮める展開となりました。大きく売られた水準での株価であれば、同社株を欲しいという人がたくさんいたことの証左であり、業績の改善ぶりなどを見ても、ここまで売られる内容ではなかったと個人的にも思います。


株主優待は個人にとって、その株が欲しいと思わせる魅力的なものが多いです。ですが、それだけを投資判断にして株を買ったり売ったりするのは、投資の本質からは外れている面があるという見方もできるでしょう。新NISAなどで投資が盛り上がり、新たに株式投資を始める人も増えているからこそ、改めてなぜ企業に投資をするのか、その理由を考えてみるのも良いかもしれません。


日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

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