ファーストリテイリング 初の日経ウエート上限超過

8月相場の初日、日経平均は大幅な下げとなりました。下げ幅は終値で975.49円安でしたが、場中には下げ幅が一時1300円を超える場面もありました。つい先日のこととなる7月25日にも終値で下げ幅が1285.34円となる日がありましたが、一時とはいえそれを超える下げ幅が、こんなにも短い間隔で起こるとは非常にボラタイルな地合いであることを改めて認識させられます。


ちなみに、日経平均の指数に関する情報を公開している公式サイト「日経平均プロフィル」に公開されている範囲のデータでは、前述の7月25日の下げ幅1285.34円というのは、下落幅で過去9位に入る記録となっています。ちなみに1位は1987年10月20日の3836.48円。いわゆるブラックマンデーといわれる米国市場の大暴落を受けての翌日の値動きということになります。


さて、話を戻して8月1日の値動きですが、こうした記録ほどの下落にはならなかったものの、記憶にはとても残る値動きであったことは間違いないでしょう。日銀金融政策決定会合の結果を受けて、翌日にこれほど大きく動いたのは、結果そのものよりもその後の植田総裁の会見で、さらなる利上げもあり得ると受け取れる発言があったからからだと思われますが、利上げで恩恵がある立場である銀行株まで下げるという、まさに全面安の展開となりました。


ありとあらゆる銘柄、しかも多くの人に知られる大型の国際優良株が5%や10%もの下落となるなかでは、結果的に大きく目立つことはありませんでしたが、日経平均寄与度の高いファーストリテイリング<9983.T>も大きく売られることとなりました。




ファーストリテイリング<9983.T> 日足チャート


日経平均が大幅安となっているのだから、指数寄与度の高いファーストリテイリングが売らることには違和感はありません。しかし、同銘柄が売られたのは決して日銀による利上げの影響だけではなかったと私は考えています。


その理由は7月31日が日経平均構成銘柄のウエートに上限を設ける「ウエートキャップ」の判定日だったからです。ファーストリテイリングは前述したように非常に指数寄与度の高い銘柄です。この銘柄が大きく変動するだけで日経平均と言う指数そのものを左右してしまうほどの影響力があると言っても過言ではありません。そこで東証はこうした銘柄の影響力を抑えるため、2022年に「ウエートキャップ」を導入しました。


これにより、指数としての分散効果や指標性の維持、向上を図るため、ウエート(構成比率)が著しく高い構成銘柄に対して、当該ウエートが一定の水準以下となるよう新たに「キャップ調整比率」を設けて、定期見直しごとに調整を行うこととしたのです。


定期見直しの基準日時点のウエートがキャップ水準を超えた銘柄に対しては、キャップ調整比率(0.9)が設定されます。また、対象となった銘柄にすでにキャップ調整比率が設定されていた場合は、同比率をさらに0.1引き下げることになります。


7月31日はこの判定を行う基準日でした。同日時点でウエートが10%を超えていた場合、キャップ調整比率が適用されることとなっていましたが、同日の終値でこの上限である10%を超えました。


これがどういう意味を持つかというと、たんに指数算出にあたっての計算が変わるだけではありません。指数の動きに連動したパフォーマンスをめざすパッシブファンドは、これまで保有してきたファーストリテイリングの株式について、指数に連動しなくなる0.1の部分を売却する必要が出てくるからです。


指数との連動をめざすわけですから、これはパッシブファンドとしては当然のことですが、例えば決算が大幅な減収減益だったとか、なにか悪い材料が出たわけでもないのに、いきなり大量の売りが出ることになると言われると、ほかの株保有者は困りますよね。なのでパッシブファンドが売ることになるのであれば、自分も先に売ってしまおうという先回りの売りが8月1日の市場では一定程度出たものと思われます。


次の日経平均の定期見直しが10月からですから、9月末の大引けでパッシブファンドによるリバランスの売り需要が発生すると想定されます。ある証券会社の試算では、ファストリ株の売りの規模は3000億円以上になりそうだとも言われています。普段の売買代金は数百億円程度ですから、需給面で大きなインパクトになるでしょう。


為替などの外部環境の影響もあり、厳しい地合いとなっていますが、日経平均はこうしたテクニカルの要因もあり、今後もしばらく厳しい展開が続く可能性があります。同社の株価の動向に注目していきたいです。


日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

斎藤 裕昭の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております