2024年の夏も猛暑が続いています。1898年の観測開始以来「最も暑い夏」となった2023年ですが、翌年もまた、記録を更新するような暑さが続いています。ここまで暑いと、日本で当然の仕事習慣・生活習慣とされてきた従来のスタイルが見直されるのは必然です。筆者が最も期待するのは、欧州各国のような「バケーション文化」の誕生です。
日本に「シン・避暑地」は定着するか
日本にも猛暑の都市部を回避して、平均気温の低い避暑地に滞在する需要はあります。明治時代から別荘地としても名高い日光や那須(栃木県)、上高地(長野県)などは関連産業も成長しています。ただ欧米にあるような社会全体で歩調を合わせたような長期滞在にはなっていないことは、お盆になると交通機関が大混雑をすることが立証しています。また、長期滞在に必要な別荘が高価であることも、長期休暇が日本全体に広がらない理由です。
一方で2020年に発生した新型コロナ以降、日本ではリモートワークが定着しました。敢えて日常生活と夏季休暇を区分けしなくても、平時から避暑地で生活をすることは可能になりました。インフラは整備されてきており、あとは文化の醸成を待つタイミングといえるでしょうか。
「バケーション文化」が拡大されれば、それに応じて別荘供給を拡大したり、ライトな宿泊施設を準備できたところが需要を受け入れ、いわば「シン・避暑地」として新たに評価されたりすることになるでしょう。
既存の避暑地で難しい点は、利用者にとってコストパフォーマンスの良い「シン・避暑地」への転換が、既存顧客の足を遠のかせる要因になるかもしれないという点です。既存顧客をある意味「捨てて」まで、新規顧客を取りにいけるでしょうか。
あたらしい避暑地候補に期待したい
そこで現状は避暑地としては客観的評価を確立していない新規候補に期待したいものです。たとえば千葉県の勝浦はタンタン麺で有名ですが、首都圏の大半が30℃を大きく超えるなかでも20℃台に抑えられることが少しずつ知られてきています。海岸線がすぐに深くなることで冷たい水が確保できることと、強い南風が吹くことでその水が水面まで循環しやすい点が理由のようです。
実際に勝浦は温泉やリゾートホテルが続々とオープンし、あたらしい観光需要の開拓に成功しています。このような例はほかにもあり、人口減に悩む自治体の起爆剤となっていくことでしょう。
いかに「ほかにはない特徴」をアピールするか
勝浦の涼しさが海水温度と南風によるものは独自性となりますが、この2つの条件が揃わなくても避暑地になることはできます。山梨県や長野県の山岳部などは、これから再評価の対象になるでしょう。
新東名高速沿いに隠れた避暑地候補が
そのなかで筆者が注目しているのが「新東名高速道路」です。大動脈といえる東名高速道路の混雑緩和のため、多くの路線において東名と並行する形で建設されてきました。
地図上で新東名の路線を確認すると、静岡県北部を中心に観光地としてポテンシャルを秘める山岳部を高速路線が走っていることに気がつきます。東京へはおよそ2時間から3時間といったところでしょうか。飛行機や新幹線に要する時間とコストを考えれば、充分に検討に値する距離です。また既存の東名高速や国道1号線(東海道線)とも併走しているため、都市部へのアクセスの良さを維持しながら、今後の観光地化に期待することができます。同様に首都圏をぐるりと取り囲む圏央道なども、今後の新規開通が予定されています。
これらの地域には「シン・避暑地」としての競合が待っています。首都圏が35℃に苦しむなかで涼を求める人が押し寄せたとして、どれだけ需要を受け止め、次年度以降も自分たちの場所を避暑地として選んでもらうことができるか。もし滞在地域などを別荘ではなく、賃貸形式などで提供しているのなら、別荘地という「ハード」が無いだけ競合との競争は熾烈です。
既に取り組んでいる自治体も多いとは思いますが、「避暑地+教育」など避暑地+αといった付加価値をつけて、差別化を実現することができるでしょう。
対象は日本人か来日客か
このような避暑地には、思い切って日本人顧客層ではなく、訪日客を対象に振り切ってブランディングするところも増えてきました。北海道のニセコなど、ラーメンやカツ丼が2,000円前後するという相場が特徴的に報じられていますが、その価格で売れるのは需要と供給が成り立っている証拠です。コスパのいい「シン・避暑地」にとって、敢えて訪日客対象のビジネスを選択する自治体も一定程度認められるでしょう。
進化論で有名なダーウィンは、「最も強い者が生き残るのではなく、最も変化に対応した者が生き残る」と書き残しました。観光立国である日本はこの後、どのような付加価値を生み出し、生き残っていくのでしょうか。