中国株を始めるためのキーワード。今回は中国で急速に発展している人型ロボット産業いついて紹介します。
中国で人型ロボット産業が急速に発展し、大きな注目を集めています。今年4月には北京で人型ロボットが参加するハーフマラソン大会が開催され、5月には浙江省杭州市で世界初の格闘大会が開かれるなど、その存在感は増すばかりです。製造業はもちろんのこと、医療・介護、家庭サービス、教育訓練といった分野での応用が期待されており、長期的な成長の可能性を秘めています。労働力不足や高齢化といった社会課題の解決策としても、その役割に期待が寄せられています。
政策支援が成長を加速、産業ファンドも続々登場
中国政府の強力な政策支援が、この産業の成長に拍車をかけています。2023年に中国工業情報化部が発表した「人型ロボットの革新的な発展に関する指導意見」では、2025年までに革新的な基盤体系を構築し、2027年までには安全で信頼性の高い産業チェーンを確立、さらに国際競争力を持つ産業エコシステムの形成を目指すという目標が掲げられました。今年の「政府活動報告」でも、「人工知能+」の推進が明記され、ロボットやAI端末を含む次世代製品の開発が重点分野として指定されています。
地方政府による支援策の発表や、産業ファンドの創設も活発化しています。北京市は今年2月、「人型ロボットのイノベーションと産業育成に関する行動計画(2025-27年)」を公表し、家庭サービスや高齢者介護、医療・健康分野を中心に人間と共生するロボットの研究開発を加速させるとともに、人とロボットのインタラクションに関する理論構築などを盛り込みました。深セン市は5月、「人工知能・人型ロボット産業ファンド」(規模20億元)と「AI端末産業投資ファンド」(同50億元)の設立を発表し、ロボット本体、関連部品、応用システムへの投資に充てる計画です。『証券日報』のまとめによると、少なくとも10以上の地方政府が産業ファンドを立ち上げており、中には100億元規模に達するケースもあります。
ハード・ソフト両面で飛躍的進展、世界市場を牽引する可能性も
中国の人型ロボット産業は現在、ハードウェアとソフトウェアの両面で目覚ましい進展を遂げています。JPモルガン・アセット・マネジメントは、部品製造やシステム統合において中国企業が世界的な優位性を持つと評価しています。さらに、ソフトウェア面ではDeepSeekといった中国発の大規模AIモデルが登場しており、アルゴリズム、ビッグデータ、汎用ハードウェアプラットフォームという三要素を兼ね備えた中国企業が、今後世界的な競争を主導する可能性があるとの見方を示しています。
産業化の進展と政策支援を受け、IT大手から新興企業まで、幅広いプレーヤーが人型ロボット市場への参入を急いでいます。杭州宇樹科技や深セン市衆ケイ機器人科技など、近年台頭してきた新興ロボットメーカーは生産体制を構築しつつあり、量産体制への動きも出始めています。テンセント(00700)やファーウェイ(華為技術)も技術開発や実証実験に積極的に乗り出しています。
他業種からの参入も目立ちます。自動車大手の広州汽車集団(02238/601238)は、業界初の可変型車輪脚構造を持つ人型ロボット「GoMate」の開発を進めており、2025年には部品の量産とデモ導入、2026年には小規模な完成品の生産を計画しています。また、上海証券取引所のハイテク新興企業向け市場「科創板」に上場する科徳数控(688305)は、運動制御やバランス調整に用いられる小脳系制御技術を、人型ロボットに応用可能な汎用アルゴリズムとして開発中です。部品や制御ソフトウェアに強みを持つ企業が、その技術を横展開することで、エコシステム全体の構築を視野に入れていることがうかがえます。
■課題山積も中長期的な成長に期待
人型ロボット産業の将来性が注目される一方で、克服すべき課題も少なくありません。中国信通院が2024年に発表した「人型ロボット産業発展研究報告」では、人型ロボットを「Lv1」から「Lv5」に分類しており、現在の製品レベルはLv1に位置づけられ、2028年ごろまでは全能型ロボットもこの水準にとどまるとされています。技術的には、自律制御、複雑な感知・認識能力、高度な意思決定機能の実装が依然として大きな壁となっており、特に高性能センサーや高効率バッテリーなどの開発は商用化の成否を左右する要因となります。さらに、マンマシンインタラクションの安全性や信頼性、柔軟な制御技術の確立も不可欠です。
それでも、中長期的な成長への期待は非常に大きいと言えるでしょう。「人型ロボット産業発展研究報告」では、2040年から2045年には人型ロボットがLv4に達し、産業・サービス現場での広範な活用が始まり、市場規模が5000億から1兆元に達するとの見通しを示しています。2045年以降にはLv5への移行とともに、稼働台数が1億台を突破すると予想されており、家庭を含む全産業分野に普及し、市場規模は10兆元規模に拡大すると試算されています。
人型ロボットの進化は、私たちの生活や社会にどのような変化をもたらすのでしょうか。この大きな変革は、新たな投資テーマとしても注目され続けていくことでしょう。