オリンピックが再び日本で開催される可能性はあるのか

フランスのパリで開催された夏季オリンピックが閉幕しました。開催中の8月4日、国際オリンピック委員会(IOC)のデュビ五輪統括部長が日本メディアの取材に応じ、「遠くない将来、日本が再び五輪を開く可能性がある」と言及しました。2021年の東京五輪は感動的だったものの、そのあと発生した汚職事件が解決したとは言い難く、日本国民の多くは複雑な感情で発言を受け止めています。


札幌市による誘致活動はどうなったのか

北海道の札幌市は、1972年に一度冬季五輪を開催しています。その際に建設した既存施設や、2002年のサッカーW杯に向けて建設した札幌ドームを活用し、当初2030年の招致を目指して活動していました。


ただ2021年に開催された東京五輪において汚職事件が発生し、影響を受けた形で市民の開催支持が低下します。2023年12月、IOCは2038年大会まで優先対話(優先開催地を選定し、IOCと優先的に開催交渉を行う)ことが決定しました。そして2030年はフランスのアルプス地方、2034年はアメリカのソルトレークシティ・ユタでの開催が決定しています。



今後も基本的には優先対話が行われ、開催地が絞られていくのでしょう。優先対話は汚職などが起こりにくいとされますが、そもそも選考過程が極めて不透明という側面もあります。実際に2032年ブリスベンの選考においては、対立候補とされたドイツが選考の不透明さに対し苦情を申し立てたという話も聞こえています。


日本においては札幌市による招致活動のほか、2024年段階で招致に動いている自治体はありません。いずれにしても2021年の汚職事件が重しとなり、市民の支持を得られない格好です。当初のデュビ統括部長の発言は具体的な開催都市という段階ではなく、あくまで招致活動が再び盛り上がることを希望したに過ぎません。


優先開催地と夏冬ともに見られるアジア諸国の存在感


あらためて今後の開催地を見ていきましょう。

ヨーロッパ・アメリカ・アジアで周回的に開催されていることがわかります。ここに経済発展の著しい中国やインド、五輪開催経験のないアフリカやトルコなどが存在感を示すならば、日本が「市民の低支持のなか強行して」開催機運を上げることは難しいといえるでしょう。(なお一部報道によると、2036年の夏季五輪はインドのアフマダーバードが有力との報道があります)。


とはいえオリンピックが著しい経済効果をもたらすのも事実です。なぜ、IOCの役員から将来的な開催希望が伝えられたのでしょうか。


五輪に求められる「開催ノウハウがある」ということ

それでも日本が尊重される最大の理由は、蓄積した開催ノウハウがあるということです。1964年の東京、札幌、1998年の長野を経て、2021年に二度目の東京五輪が開催されました。


五輪に求められる開催ノウハウは膨張しています。テロ対策などの警備のほか、円滑な開催が細部まで求められます。2024年のパリ大会も、公平とは言えない審判のジャッジや競技運営が発覚し、大きな問題になりました。


もちろん今回のパリもはじめての開催ではありません。それでもIOCは、五輪を開催することで国勢浮揚を願う勢いよりも、これまで開始してきた安定感を求めるものと考えられます。そう考えれば日本で開催する流れも、ひとつの選択肢ではあるのでしょう。



候補地はどこになるのか

ただ懸念は、再度日本で開催するときの開催地はどこになるのかという問題です。東京は既に2度開催しています。大阪や名古屋にとっても、万博への反対意見などを見ると、スムーズに開催の支持は広がらないと考えられます。夏ならば世界水泳などの開催実績がある福岡市や広島市が有力でしょうか。


冬ならば長野市に実施経験があるため、新潟市などと共催の形になることはあります。今後の冬季五輪を見ても「コルティナダンベッツォ+〇〇」や「ソルトレークシティ+〇〇」といった開催地+αで招致が成功しているためです。札幌市は北海道という地理上共済は難しいですが、この形の共催は陸路で移動可能という条件が設定されているわけではないため、支持率を抜きにして札幌市+東北地方(2011年からの復興)という選択肢もそう外れたものではないでしょう。


再び日本で開催されるには、2021年の客観的な振り返りが必須であることは論を待たないものです。ただ一方で国力の減少が予測される状況においては、五輪に限らず大規模なイベントの開催が有効であるという見解もあります。現段階で開催地の決まっていない2038年以降の開催に向けて、日本国内がどのような世論になっていくのか、注視したいと思います。


独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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