信用買い残9000億円減 株価急落で「追証」売り

東京証券取引所が8月14日に発表した、同月9日申し込み時点の信用取引の買い残高は(2市場合計)は、前週比9086億円減の3兆9634億円となりました。額にして1兆円に迫る規模。トレーダーズウェブに記録が残っている2001年以降では、減少額は過去最大となります。


また、減少率では19%となり、こちらも東日本大震災直後の2011年3月以来約13年ぶりの大きさになったようです。



信用買い残・売り残の推移(単位 億円)

東証公表データよりDZHFR作成



同週は8月5日に4000円超の下落とブラックマンデーを超える史上最大の下げ幅を記録。急速に進む株安を受けて、損益が悪化した個人投資家の売りが膨らんだとの指摘が複数の報道で見られました。


もともと、5日場中にも、市場関係者からは「信用取引で保有している株の損失を受けて、耐えられなくなった個人投資家の投げとみられる売りが出ているのではないか」との指摘がありましたが、実際に数字が公表されたことで、この指摘が的を得ていたことが明らかになったわけですね。


信用買い残については、わずか1カ月ほど前の7月上旬、日経平均株価がまさに史上最高値を更新し4万2000円台まで上昇するなかで、4兆9000億円台にまで積み上がっていました。そして高値からやや調整した(今となっては可愛いと言えるほどの下げ幅でしたが)7月下旬には、押し目買いに動いた投資家により4兆9800億円台にまで膨れ上がっていたわけです。


この信用買い残の水準も2006年以来、18年ぶりとなる規模でした。市場関係者の間では、ここから決算発表が本格化するシーズンとなるなかで、企業業績次第でこの信用買いの決済による売りから相場のかく乱要因につながるリスクがある、と指摘する向きもありましたが、そうはいってもあそこまでの下げを想定していたわけではなかったでしょう。


信用取引でレバレッジをかけた取引をしている場合、株価が急落した場合には追い証や実際に追証にはならなくともそれを回避するために損失を覚悟で売らざるを得ないと言う状況が発生します。例えば、自己資金100万円であれば信用取引により最大300万円分まで取引を行うことができます。そうして購入した銘柄の株価が買値から約33%下落してしまったとしましょう。この場合に評価額は300万円から200万円となり、100万円の含み損となります。自己資金が100万円しかないのに100万円の含み損となってしまえばもう資金はゼロです。


33%しか下落していないはずなのに資金は100%減少してしまう。レバレッジをかけた取引をしている場合はこうしたことが起きえます。「かなり下落したけど、もうすぐ底かもしれないからもう少しの間、保有したまま耐えよう」とはいきません。前述してきたように、8月の相場急落局面では、こうした取引の投げが相当数出たはずです。1週間で9000億円もの買い残減少とは、そういう数字です。


14日に発表された東証のデータでは全体の信用買い残だけでなく、個別株の買い残の増減も公表されています。そのなかで、信用買い残が大きく減少したものをランキングにすると下記のようになります。


単位:千株

コード 銘柄名  買い残 先週比

------------------------------------------------

 1 9432 NTT  210747 -21118

 2 8306 三菱UFJ  57544 -15965

 3 7011 三菱重   26326  -9898

 4 7211 三菱自   15857  -9474

 5 9501 東電力HD  49308  -7776

 6 7201 日産自   36271  -6723

 7 3861 王子HD   6081  -5609

 8 6178 日本郵政  4282  -5207

 9 4689 LINEヤフー  16811  -4857

10 4755 楽天G   41523  -4839



個人投資家に人気のNTTや、2024年に大きく上昇してきた三菱UFJ、三菱重工業などが上位となっており、それだけ信用取引で買われていたことがわかります。


とはいえ、これだけの信用買い残が減少したということは、需給面での整理が進んだということにもなります。どうしても売らなければならない人の売りが一巡したとなれば、そこから相場が反発に向かうことも自然な流れと言えるでしょう。いったんセリングクライマックスを迎えたことで、6日以降の日経平均が底打ち反発し、足もとでは36000円台後半まで戻していることはご存じの通りです。


この戻り局面のなかで、投資家は再び強気に信用による買いを入れているのでしょうか。翌週分のデータにも注目してみたいと思います。


日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

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