経営危機の日産 系列企業の業績とサプライチェーンへの影響は

日産が立て直し策を矢継ぎ早に打ち出しています。新たに就任したイバン・エスピノーサ社長の下で、大規模なリストラを進める方針もその一環で、2万人の人員削減を進めるほか、世界で稼働している工場17カ所のうち7カ所を閉鎖する予定です。


報道などによれば、創業地である神奈川県にあり、同社の主力工場である追浜工場や、子会社である日産車体の本社がある神奈川県平塚市の湘南工場も含まれているとしています。


加えて、みなとみらい地区にある本社ビルも売却を検討と報じられています。さらにはスポンサードしているサッカーJ1の横浜F・マリノスについても、身売り説が浮上しています。


5月23日付の神奈川新聞の報道によれば、エスピノーサ社長は「私どもにとって大事な活動で、チームスピリットとモチベーションを維持する上でも重要だ。現状で何かストップをかける計画はない」とコメントしたようですが、ファンの方の不安を完全に払しょくするのは難しいでしょう。それほど日産本体が苦しい状況にあると言えます。


そして、苦しいのは日産だけではありません。日本の自動車産業は完成車メーカーだけでなく、さまざまな部品会社を含めた系列企業によってサプライチェーンを構築しています。


日産も前述した子会社の日産車体をはじめ、資本関係がなくとも取引が密接な取引先まで含めると2万近い企業によるサプライチェーンを構築しています。こうした企業の業績は足もとでどうなっているのでしょうか。


5月16日に帝国データバンクが公表した「日産自動車の全国サプライチェーン実態調査」によると、日産系列向けに売り上げのある企業は1万9016社。そのうち日産と直接取引を行う「Tier1」が1816社。Tier1と取引を行う「Tier2」は1万2120社、「Tier3以降」が5080社となっています。


これらの企業の売り上げ動向をみると、直近決算において増収だった企業の割合は前期から8.4ポイント低下の42.4%。減収となった企業の割合は3.7ポイント上昇して31.2%となりました。横ばいは4.8ポイント上昇の26.5%でした。


業種別でみると、Tier1では、受託開発ソフトウェア企業が91社で構成比は5.2%と最も高くなっています。次いで、自動車部品・付属品製造業が69社で構成比は4.0%。その他の事業サービス業が68社、同3.9%、精密機械器具卸売業が52社、同3.0%と続いています。


Tier2以降では、受託開発ソフトウェア業の割合が同様に高いですが、それとは別に金型・同部分品・付属品製造業や金属プレス製品製造業の割合が高くなってきます。


日産の業績が悪化している以上、サプライチェーンを構築する企業の業績も悪化する傾向にあること自体は驚きのある内容ではありません。しかし、今後も日産がリストラを加速させ、生産工場を統廃合していくなかで、取引先についても絞り込みが行われていくことは、避けられないでしょう。今まで以上にこうした企業の業績に影響が出る可能性があります。


日産車体<7222.T>のほか、取引先では東プレ<5975.T>、ユニプレス<5949.T>、パイオラックス<5988.T>、ユニバンス<7254.T>などなど、数多くの関連企業が存在します。株価はおおよそ3月末を底に切り返している動きが目立ちますが、日産の事業立て直しが進むなかで、サプライヤーも優勝劣敗が進み、生き残りをかけた激しい競争が繰り広げられることになりそうです。


日産車体日足チャート

東プレ日足チャート

ユニプレス日足チャート


ユニバンス日足チャート

日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

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