昨今では証券口座の乗っ取り被害が問題視されています。主な手法は「フィッシング」と呼ばれるもので、実在のサービスや企業をかたって偽のメールやSMS(携帯電話のショートメッセージ)で偽サイトに誘導し、IDやパスワードなどの情報を盗んだり、マルウェアに感染させたりする手口です。
今回のフィッシングでは偽サイトが精巧に作られており、一見見分けがつかないとのことです。フィッシングだけでなく、自力でパスワードを解読されてしまうケースもあるもよう。報道によれば被害にあったのは大手証券8社にある口座で、少なくとも国内100社の株価が操作されたようです。筆者も仕事柄さまざまな銘柄の値動きを見ますが、このごろは短時間で不自然な急騰急落となる銘柄が散見されます。
見ている瞬間は確たる証拠がありませんが、もしかしてこの銘柄も?と疑ってしまいそうになります。4月18日の金融庁発表では、2月からのおよそ3カ月で不正売買額はなんと954億円。その後も続いていると考えると、被害額は1000億円を優に超えてきそうです。現金を直接奪う手法ではなく手口も巧妙で、資金がどこに消えていったのか辿ることが困難なのも厄介なところです。
歴史的に見ると時代背景を映した投資被害は定期的に発生しており、金額は大小さまざまではありますが、大規模な事件も少なくありません。昨今の乗っ取り被害とはちょっと違いますが、今回は過去にどのような投資被害の事件が起きたのか、振り返ってみようと思います。
日本で起きた投資被害事件
日本で起きた事件のなかで、被害が大きかったものを5つピックアップしてみました。
安愚楽牧場事件(2011年)
和牛の飼育に出資すれば高配当が得られると謳い、多くの投資家を集めた事件です。一方で実態は自転車操業であり、出資金は新規投資家からの資金で賄われていました。2011年に経営破綻し、負債総額は約4330億円。約7万人の投資家が被害を受けました。
天下一家の会事件(1967年~1978年)
実業家の内村健一が主宰したねずみ講で、会員を増やすことで莫大な資金を集めました。会員は新規会員を勧誘し、資金を上位会員に送金する仕組みです。最終的に約112万人が参加し、被害額は約1896億円。1978年に内村は有罪判決を受け、その後95年に死去しました。
豊田商事事件(1980年代)
金地金の販売を装った詐欺を行い、全国で数万人が被害に遭った事件です。契約者には「純金ファミリー契約証券」を渡し、実際の金は引き渡されませんでした。1985年、会長の永野一男がマスコミの目前で刺殺される事件が発生し、社会的に大きな衝撃を与えたことで有名です。被害総額は約2000億円と推定されています。
積水ハウス地面師詐欺事件(2017年)
偽の土地所有者を名乗る地面師グループに騙され、土地購入代金として約55億円を支払いました。事件の舞台となった東京都品川区の旅館「海喜館」は、所有者が売却を拒んでいたにもかかわらず、偽造書類を用いた詐欺が行われました。事件は警察の捜査により発覚し、逮捕者が出ました。Netflixのドラマ「地面師たち」の基となった事件でもあります。
円天事件(2000年代)
日本の投資詐欺事件の中でも特に悪質なものの一つと言われます。首謀したエル・アンド・ジー(L&G)が投資家に対し、「1口100万円を預ければ、3か月ごとに9万円の配当を支払い、1年後には元本を返金する」と説明。約5万人の会員から総額1280億円を集めました。実態のない電子マネー「円天」を利用し「使っても減らないお金」として宣伝されましたが、実際には新規投資家の資金を既存投資家への配当に充てるポンジ・スキームといわれる手法の事件です。
ふとした隙に注意
投資詐欺は「高利回り」や「元本保証」といった必ず儲かることを謳い文句した例が多く、みんなやっているから大丈夫そうという雰囲気も被害が拡大する要因の1つではないかと感じます。
昨今ではSNSが普及していることもあってか、怪しい投稿が目立ちます。「絶対に上がる株」「詳細はDM(ダイレクトメッセージ)で」「●●買っている人はヤバイ」など、好奇心や焦燥感を煽るような投稿があったら注意したいですね。日本語が怪しい投稿も要警戒です。
出所:警視庁ホームページ R7年は1~3月分
このように警鐘を鳴らしている筆者自身も、ふとした瞬間に詐欺に引っかかる可能性はあります。事後対応では取り返しがつかないこともあるので、未然防止のために何をするべきか、個々人の対策も重要ですね。