「信用取引はやめとけ」投資初心者に向けて、経験者が情報発信するのを見かけます。
植田日銀が2024年7月31日の金融政策決定会合で、政策金利の0.25%引き上げを発表してから、急激な円高と株価暴落を招きました。
当時のSNSでは信用取引で大きく損を出した投資家の報告がタイムラインを流れ、市場の混乱がどれほど大きかったかが伺えます。
ただし、信用取引の危険性について、あまり知られていないのも事実です。
そこで本記事では信用取引の基本的な仕組みと「信用取引はやめとけ」と言われる理由について解説します。
信用取引とは何か?基本的な仕組みと特徴
信用取引とは、投資家が証券会社から株式を借りて売買する取引方法のことです。通常の株式投資と異なり、自分の資金や株券を担保にして大きな利益を狙えます。
株式投資と大きく異なる点は、以下のとおりです。
・最大約3.3倍のレバレッジをかけて取引できる
・信用売りから取引に入れて下落相場でも利益を出せる
・6ヶ月以内に決済する必要がある
最大約3.3倍のレバレッジをかけて取引できる
信用取引における最大の特徴は、レバレッジを活用して手持ちの資金以上の大きな売買ができることです。
自己資金の最大約3.3倍まで取引できるので、100万円の元手があれば約330万円分の株式を売買できます。
レバレッジ効果によって、小さな相場変動でも大きな利益を得ることも可能です。例えば、100万円分の資金を担保に330万円分の株式を購入し株価が5%上昇した場合、利益は約16.5万円となります。
これは元の投資額100万円に対して16.5%のリターンに相当する計算です。ただし、レバレッジは大きなリターンを得られる反面、リスクも比例して上昇するのがデメリット。
相場が逆方向に動いた場合、損失も同様に拡大するので、徹底したリスク管理が重要です。
信用売りから取引に入れて下落相場でも利益を出せる
信用取引における2つ目の大きな特徴は「信用売り」ができることです。信用売りとは、株価が下落すると予想した証券会社から株式を借りて売り、後で買い戻して返却する取引方法のことです。
例えば、ある銘柄の株価が1,000円だと仮定します。このあと株価が下がると予想し、1,000円で信用売りします。その後、株価が800円に下落した場合、800円で買い戻して決済すれば、1株あたり200円の利益が得られるのです。
「信用売り」は、相場が下落している局面でも利益を追求できるのがメリット。ただし、株価が上昇した場合は損失が発生するため、相場全体を見通す慎重な判断が必要です。
原則として6ヶ月以内に決済する必要がある
信用取引は期限が決められており、原則として6ヶ月以内に決済しなければなりません。したがって、信用取引自体が長期投資に向かず、短~中期のトレードで利益を出す手法なのです。
取引開始から6ヶ月を迎えた場合は、証券会社のシステムで強制決済されます。ただし、6ヶ月の期限を超えて信用取引を継続したい場合は「一般信用取引」を利用するのも1つの方法です。
ただし、手数料が少し高めに設定されているので、どの時間軸で信用取引するかは事前に検討しておかなければいけません。
上記3点以外にも、借りた株や資金に対してコストが発生するのが信用取引の特徴です。
なぜ「信用取引はやめとけ」と言われるのか?3つの危険性を解説
「信用取引はやめとけ」と言われる理由については、投資資金以上のマイナスが発生するリスクを負う点が挙げられます。
詳細については、以下3つのとおりです。
・大きな損失を出す可能性がある
・強制決済(ロスカット)によりマイナスが確定する
・追加保証金(追証)発生のリスク
大きな損失を出す可能性がある
信用取引が「やめておけ」と言われる最大の理由は、大きな損失を出す可能性があることです。レバレッジをかけて取引すると、相場の小さな変動でも資産に大きな影響を与える可能性があります。
例えば、100万円の資金で300万円分(レバレッジ3倍)の株式を購入した場合を考えてみましょう。購入した銘柄の株価が20%下落すると60万円の損失が発生します。これは元の投資額の60%に相当し、自己資金の大半を失うリスクがあります。
レバレッジをかけた取引は投資資金を大きく減らす可能性があり、経験の浅い人が信用取引を始めるときはリスク管理を徹底しなければいけません。
強制決済(ロスカット)によりマイナスが確定する
信用取引では、委託保証金維持率が一定水準を下回ったときに、証券会社が強制的に決済する「ロスカット」が発生します。
委託保証金維持率とは、信用取引する際に投資家が証券会社に預ける保証金に対する割合のことです。たとえば、300万円を取引するとき、委託保証金率が30%なら最低でも90万円を保証金として預けておかなければいけません。
ロスカットが発生するのは主に相場が急激に変動した場合であり、一時的にマイナスが膨らみ委託保証金率が減り続けると強制決済される可能性があります。
長期的にみて値上がりが期待できる銘柄なら、一時的に値下がりしても保有し続けて株価上昇を待つ戦略も取れますが、ロスカットされると自動で損切りされる訳です。
ロスカットは投資家が大きな損失を出さないように設定されたルールですが、予想していないタイミングで決済され損失を確定させてしまうリスクも含んでいます。
追証(追加保証金)発生のリスク
信用取引では、損失が大きくなったときに「追証(追加保証金)」を求められるリスクがあります。追証とは、証拠金維持率が一定水準を下回った場合に、証券会社へ追加の資金を支払わないといけない制度です。
たとえば、100万円の委託保証金で1,600円の銘柄を2,000株(320万円分)信用買いをしたとします。
その後株価が25%下落し1,200円になったと仮定すると、損失額は80万円です。損失額は委託保証金から差し引かれるので、委託保証金が100万円-80万円=20万円まで減りました。
委託保証金維持率は30%なので、320万円分の信用買いをしていると約96万円が保証金として必要になり、96万円-20万円の76万円を追加で入金しなくてはいけません。
なお、76万円を入金すると引き続き取引が可能ですが、その後も株価が下がればまた評価損が出て追証が発生します。追証のループから抜け出せなくなると、損失がどんどん拡大していき、支払いが難しくなるケースも出てきます。
初心者が信用取引を始めてみる時はレバレッジをかけないのが大切
本記事では「信用取引はやめとけ」と言われる理由を解説してきました。しかしながら、下落相場でも利益を出せるのは信用取引のメリットであり、一概に悪いものと決め付けるのは早計だと筆者は考えます。
信用取引で大きく損失を出す人の共通点には、許容できるリスクを超えた金額でトレードしている点が挙げられます。
そこで初心者が始めるなら、レバレッジをかけずにトレードするのがおすすめです。また投資額も生活費を除いた余剰資金だけを投入すれば、過度にリスクを背負う必要がなくなります。
信用取引に興味がある人は、少額から始めてみるのはいかがでしょうか。