今回はこれまでみてきたベータ(β)値と、最近よく話題になるレバレッジ型ETF(上場投資信託)の関係、そして市場に与える影響についてみていこうと思います。
レバレッジ
レバレッジとは「てこの原理」という意味であり、金融業界では一般に「少ない投資金額で大きな取引を行なうこと」を表します。
例えば、100万円の資金を担保として、1000万円の取引を行うような場合は、レバレッジ10倍となります。
1000万円の取引をして、それが10%下落し900万円となれば、100万円の損、つまり元手の100万円がなくなってしまいます。このようにレバレッジをかけた取引は、極めて「ハイリスク・ハイリターン」となります。
対面証券に比べてネット証券の信用取引開始のハードルが低いことや、FX取引が増えてきたことなどにより、レバレッジをかけた取引を行いやすくなっていると感じます。なお、レバレッジ型ファンドは、レバレッジをかけた取引としてはリスクは低いです。だからこそ、ここまで人気が出たと考えられます。
レバレッジ型ファンド
レバレッジ型ファンドは、ブル型とベア型に分類されます。 ブル型は基準となる指標(日経平均株価やTOPIXなど)が上昇すれば儲かる。 逆に、ベア型は基準となる指標が下落すれば儲かります。
また、レバレッジをかけていますので基準とする指標の動きよりも大きな動きになるという特徴があります。
レバレッジ型ETF
レバレッジ型ファンドには、ETF(上場投資信託)もあります。レバレッジ型ETFは株式と同様に市場で売買できますので、短期の値幅取り(デイトレードなど)にも利用できます。
レバレッジ型ETFで売買が活況となっている銘柄には、「NEXT FUNDS 日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信(1570)(以下、日経レバ)」 や「NEXT FUNDS 日経平均ダブルインバース・インデックス連動型上場投信(1357)(以下、日経ダブルインバース)」があります。
日経レバはブル型で2倍、日経ダブルインバースはベア型で2倍です。日経平均株価が10%上昇すれば日経レバは20%上昇することが見込まれ、日経平均株価が10%下落すれば日経ダブルインバースは20%上昇することが見込まれるということです。
したがって、日経平均株価が上昇すると予想するなら日経レバを、下落すると予想するなら日経ダブルインバースを購入すればよいことになります。
レバレッジ型ETFとベータ値
【知っておきたいリスクの話】第2回「TOPIXを基準に保有株のリスクを知る」において、ベータ(β)値を紹介しました。
そこでは、「β値がほぼ1の銘柄の動きはTOPIXと近くなります。TOPIXが10%上昇すればその銘柄も10%上昇、TOPIX が10%下落すればその銘柄は10%下落する」というイメージを紹介しました。
上記のTOPIXを日経平均株価に置き換え、レバレッジをかけてみましょう(β値を1から2に変更)。さらに、β値がマイナスであれば株価指数と逆の動きをことになるということを考慮すると以下のようになります。
- 日経平均株価により算出したβ値が2の銘柄の動きは、日経平均株価が10%上昇すればその銘柄は20%上昇、日経平均株価が10%下落すればその銘柄は20%下落するイメージ
- 日経平均株価により算出したβ値が-2の銘柄の動きは、日経平均株価が10%上昇すればその銘柄は20%下落、日経平均株価が10%下落すればその銘柄は20%上昇するイメージ
となります。これをみると、日経レバのβ値は2であり、日経ダブルインバースのβ値は-2であると予想できます。
日経レバと日経ダブルインバースのβ値
では、実際の日経レバと日経ダブルインバースのβ値を確認してみましょう。日経レバの日経平均に対するβ値(180日で算出)は1.98(2022年9月8日時点)、日経ダブルインバースの日経平均に対するβ値(180日で算出)は-1.99(2022年9月8日時点)でした。
予想通り、日経平均のブル2倍のβ値は約2、日経平均のベア2倍のβ値は約-2でした。なお、日経平均のブル3倍であればβ値は約3、日経平均のベア3倍であればβ値は約-3になります。
レバレッジ型ETFが市場をかく乱?
日経レバの日経平均に対するβ値(180日で算出)は1.98(2022年9月8日時点)でした。本来であればβ値は2としたいのですが、日々の値動きなどにより若干の乖離が出てしまいます。
レバレッジ型ETFは先物取引などを利用して目標とする値動き(β値)となるよう、リバランス(資産の再配分)を行います。リバランスでは、相場上昇時には大引けにかけて先物買い需要が発生し、下落時には先物売り需要が発生するとされています。相場が大きく変動した場合において、大引けにかけてさらに値幅が拡大する要因となりえますので、注意が必要です。