2024年9月2日に、自民党総裁選候補者の1人であるの石破茂氏が金融所得課税の強化について「実行したい」と発言したことが話題になりました。
岸田首相が引き上げの意向を示した際には株価が下がり、意見を変えたため金融所得課税の引き上げは見送りとなっていましたが今後はどうなるのでしょうか?
今回は金融所得課税の概要と改正案、2024年9月8日時点の自民党総裁選候補者の意見をお伝えしていきます。
金融所得課税とは
金融所得課税とは、預貯金の利子や上場株式などの配当金、譲渡所得(≒売却益)に対して課される税金で、税率は原則20.315%です。
所得税や消費税などと比較したイメージは以下の通りです。
預貯金の利子は口座から徴収され、証券会社の口座で「特定口座・源泉徴収あり」を選択している場合、配当金や売却益に対する税金も源泉徴収されます。
金融所得課税は、政府の税制調査会で近年見直しが議論されており2024年9月27日に行われる自民党の総裁選においても、候補者の金融所得課税についての発言や公約が注目されています。
2024年9月2日には、総裁選候補者の1人である自民党の石破茂元幹事長が首相に就任した場合の金融所得課税の強化について「実行したい」と発言したことが話題になりました。
「1億円の壁」と金融所得課税の見直し案
金融所得課税は源泉徴収ありを選択している場合、税率が20.315%です。
一方、所得税は課税対象額が大きくなればなるほど税率が上がる「累進課税制度」です。よって高所得者は、資産を金融商品に替え運用した方が税率の負担が軽減されます。
岸田総理は、以前から年間所得が1億円を超えると所得税の負担率が下がる「1億円の壁」の問題点を指摘してきました。
上の図を見ると所得1億円を境に、申告納税者の所得税負担率の割合が低くなる傾向にあります。
これは、①高所得者層ほど所得に占める株式など金融商品の譲渡所得の割合が高く、②金融所得の多くが分離課税(他の所得と合算して課税するのではなく、分離して課税する方式)の対象になっていることなどが原因と言われています。
岸田首相は2021年の総裁選で格差是正の一環として「金融所得課税の見直し」を公約に盛り込み、税率の引き上げに前向きな発言をしていました。
しかし、岸田首相が総裁選で勝利した後に株価が下落し「原因は金融所得課税の見直しでは」という指摘があったため「当面は触ることは考えていない」と発言しました。
金融所得課税の見直し案
金融所得課税の見直し案の1つに「金融所得課税の一体化」があります。
金融所得課税の一体化とは、金融商品の課税を他の所得と区分し所得と損失とを合算(相殺)することを認めることで、金融商品間の課税の公平性・中立性を図り、投資家にとって簡素で分かりやすい税制の実現を目指すことです。(出典:金融庁「資料(金融所得課税の一体化)」
言い換えると、金融商品間の損益通算(損失と利益を合算する)の範囲を拡大することを指します。金融商品間の損益通算は、2016年の改正で上場株式等と特定公社債等が加えられました。
一方でデリバティブ取引・預貯金などについては、未だ損益通算が認められていません。
金融所得課税を引き上げのメリット・デメリット
金融所得課税を引き上げることで、課税方式によっては上記のような「1億円の壁」が是正され税負担の3原則(公平性・中立性・簡素性)のうち「垂直的公平(担税力のある人により大きな負担を求めること)」が確保されるというメリットが生まれるでしょう。
一方で、高所得者が海外に行ってしまう可能性がある、国民の関心が投資から離れてしまうデメリットなどが予想されます。
自民党総裁選候補者の金融所得課税についての見解
2024年の自民党総裁選候補者が、金融所得課税に対して示した見解は以下の通りです。
出典:時事通信社「金融所得課税巡り賛否 石破氏、「超富裕層」向け主張―自民総裁選」
※2024年9月8日時点の情報を元に作成していますので、現在の情報とは異なる可能性があります。
まとめ
金融所得課税が引き上げられると、個人投資家にとって税金の負担が重くなり「投資離れ」が起きてしまう恐れがあります。
今回の自民党総裁選では、候補者の外交・環境問題・少子化などに対する政策に加え金融所得課税についての発言にも注目していきましょう。