OTC類似薬の保険外措置とメデュケーション税制

現役世代であれば医療費総額に対し、3割の負担で済む「保険適用」。医療機関においては医師の行う医療行為だけではなく、処方箋のもとで受け取れる医薬品についても保険が適用されます。一方、ドラッグストアで購入できる「かぜ薬」や「胃腸薬」はOTC医薬品と呼ばれる市販薬です。この関係性が変化しようとしています。


OTC類似薬の一部に保険適用除外の議論

2025年5月に政府は経済財政運営の指針である「骨太の方針」を閣議決定しました。このなかで、OTC医薬品に準じ、処方箋発行によって購入できる「OTC類似薬」を保険外適用とする方針を固めました。保険適用見直しは、現役世代の社会保険料の負担軽減を目的としています。


OTC類似薬は胃腸薬や湿布

OTC類似薬は風邪薬や胃腸薬、湿布などが該当します。なお今回の方針では具体的な対象品目を定義せず、慢性疾患を抱える人や患者の負担を考慮しながら検討するとしています。OTC類似薬を保険適用外にすることで、年間で3200億円の社会保険の削減効果が見込まれると試算されています。


適用除外のメリットとデメリット

OTC類似薬の保険適用除外は社会保険料の削減のほか、世代間の不満を軽減するといった目的もあります。SNSなどを見ると、現役世代に対する社会保険料の不満が増大しています。自分たちの世代にとって必要であればともかく、OTC類似薬の保険適用によって恩恵を受けるのは主に医療機関の受診機会が多い高齢者世代です。今回の措置は、現役世代重視策の一環といえるでしょう。


年金制度を含む負担感のなかで「現役世代は負担し、将来の現役世代の負担によって恩恵を受ける」といわれても、少子化や経済成長率などによってこの前提が維持されるとは限りません。今回の適用除外がスピード感を持って決まったことからも、現役世代の不満感が政権にとって看過できないものとされたことは間違いありません。


一方で世代に限らないデメリットも懸念されています。医療機関を経ても医薬品の自己負担額が変わらなくなるため、「医療機関の受診控え」が増加する恐れがあります。医師は患者の口述のみならず、さまざまな視点から病状の判断をします。病院の診療代が惜しいばかりに、自分で病状を判断してしまうリスクです。



知名度の低いセルフメディケーション税制

OTC類似薬が保険適用除外となった場合、せめてもの負担軽減に活用したいのが「セルフメディケーション税制」です。1年中に自己もしくは生計を一にする配偶者、その他の親族のために12,000円を超える対象医薬品を購入した場合は、税制を利用することができます。


医療機関へ支払った金額が対象になる「医療費控除」はよく知られていますが、セルフメディケーション税制は2017年の制度誕生以降も低い知名度が続いています。医療用から転用された医薬品である「スイッチOTC医薬品」が対象でしたが、2022年に風邪、アレルギー、腰痛・関節痛・肩こりを治療する「OTC医薬品」が対象となり、利便性が拡大しました(セルフメディケーション税制は医療費控除との併用不可)。


2025年6月現在、保険適用されるOTC類似薬は、ドラッグストアなどで購入することはできません。ただOTC類似薬には、処方箋無しで購入できるOTC医薬品・スイッチOTC医薬品と重複するものも数多くあります。


我々はまず、現状のこの仕組みを知ると同時に、どうすれば自分たちの負担を最小限にできるのかを考える必要があります。セルフメデュケーション税制は「生計を一にする家族」とあるように、医薬品利用の機会が多い高齢者にこそ利用価値が高い仕組みです。



わかりづらい制度設計は再考を

セルフメデュケーション税制の知名度が低い理由のひとつに、「わかりづらい制度設計」があります。この制度を利用するには「予防接種や健康診断の受診など『健康のための一定の取組』をしている必要」があります。


ただ、実際に税制適用を申請する確定申告の場において、当該取組を行ったことを明らかにする書類の添付または掲示は不要です。一方で「税務署から証明を求められる場合があるため、確定申告期限から5年間、関連書類を自宅等で保管して欲しい」という定めがあり、必要なのか不要なのか立ち位置が明らかではありません。


これからOTC類似薬の保険外適用によって再注目を浴びる制度のため、このあたりのわかりづらい制度設計には再考が必要でしょう。また医療機関の利用である医療費控除と、ドラッグストアの利用によるセルフメディケーション税制が、なぜ併用不可なのか、納得のいく説明がありません。物価高騰に加え「手取りを増やす」という政策が歓迎される風潮のなか、税制控除は最大限に活用されるべきだと考えます。


いずれにしても「現役世代の尊重」が重視されていくことは、日本の活力を取り戻す意味でも大事な流れです。我々のようなファイナンシャルプランナーの職業は、仕組みを噛み砕いて伝えながら、今回の閣議決定が国会審議を経てどのようにまとまっていくのかを注視したいと思います。


独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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