【米国株インサイト】ディスカウントストア(後編):ターゲット、PB商品でウォルマートと乱戦模様

最近の物価高はまず、ディスカウントストアの追い風となったようです。消費者の節約志向を背景に格安の商品の販売が伸びたためです。ただ、長引く物価高はディスカウントストア業界にとっても逆風で、行き過ぎた節約志向が中国系の越境EC(電子商取引)プラットフォームの台頭を招いたとみられています。


ただ、米国のディスカウント業界は長い歴史を持ち、厳しい環境を幾度も乗り切ってきました。前編ではコストコ・ホールセール(COST)とTJX(TJX)を取り上げました。後編ではディスカウントスーパーのターゲット(TGT)、ディスカウントストアのダラー・ゼネラル(DG)、そして1ドルショップのダラー・ツリー(DLTR)をご紹介します。


ターゲット、ディスカウントスーパーを展開

ターゲット(TGT)は米国でディスカウントスーパーを展開しています。2024年2月時点の店舗数は1956店です。競合はウォルマート(WMT)などの小売チェーンですが、ターゲットは主要顧客層として相対的に所得がやや高い層を想定しており、相対的にやや低い所得層を主要対象とするウォルマートと棲み分けを図っていたとされています。


ただ、物価高が続く中で主要対象が流動化し、客層を区分する垣根が低くなったとの見方も出ているようです。それを象徴するのが両者の戦略を反映するプライベートブランド(PB)商品の動向です。



ターゲットはPB商品に強みを持ち、報道によると、年間売上高が10億ドルを超えるブランドは12を数えます。PB商品の年間売上高は総額で300億ドルに達し、2024年1月期の売上高(1074億1200万ドル)の実に3割を占めます。


強みを持つこうした分野で2024年2月に新たに立ち上げたのが低価格の日用品ブランド「ディールワーシー」です。ハンドタオルやトイレットペーパー、ゴミ袋、コットンボールなどの消耗品をはじめ、歯ブラシ、デンタルフラス、充電ケーブルなどの日用品、靴下や下着などの衣料品を低価格で販売します。現状で400品目を扱っており、段階的に品目数を増やす計画です。


一方、ウォルマートは新たな食品のPB「ベターグッズ」を2024年4月に立ち上げています。「グレートバリュー」など従来のPBに比べて一段上の価格帯の製品を取り揃え、クオリティーを高めています。洗練されたパッケージデザインを採用し、「ウォルマートらしくない」「ターゲットっぽい」という評価がメディアで伝わっています。棲み分けという既存の垣根を越えて相手方の得意分野に攻め込むような乱戦模様になるのか、またはそれがどのように決着するのか要注目です。


ターゲットとウォルマートを比べた場合、大きな違いは売上高に占める食品・飲料の比率です。ターゲットの場合、2024年1月期決算の商品販売に占める食品・飲料の割合が23%にとどまっています。一方、ウォルマートの2024年1月期決算では一部で雑貨も交じりますが、食料雑貨の割合が60%に上ります。



ターゲットの商品販売に占める割合が最も高いのが美容・家庭用品で比率は30%です。この分類には美容製品、パーソナルケア製品、赤ちゃん用品、ペット用品などが含まれます。その次が食品・飲料の23%で、家具・家庭装飾品の17%、アパレル製品・小物の16%、家電や娯楽用品などを含むハードライン製品の15%が続きます。


ターゲットも米国のスーパーマーケットの例に漏れず、店舗は大型です。全店舗の売り場面積の合計を店舗数(1956店)で割った1店舗当たりの面積は12万5700平方フィート。ウォルマートの大型総合スーパー形態の店舗「スーパーセンター」の平均である17万8000平方フィートには及びませんが、十分に巨大です。


ダラー・ゼネラル、店舗数が2万店を突破

ダラー・ゼネラル(DG)は消耗品や雑貨のディスカウントストア「ダラー・ゼネラル」をチェーン展開しています。店名に反して1ドルショップではなく、3-10ドル程度の多様な商品を取り扱います。


店舗数は2024年5月初めの時点で2万149となり、ついに2万店を突破しました。米国の48州とメキシコに店舗を持ち、米国では南部、南西部、中西部、東部を中心に展開。全店舗の約8割が人口2万人以下の町に位置します。メキシコは2023年に1号店を出店しました。


1店舗当たりの売り場面積は平均で約7500平方フィート。新店舗は8500-9500平方フィートが基準となっています。これだけ店舗数が多いにもかかわらず、フランチャイズ方式やライセンス方式を採用せず、すべて直営方式で運営しています。



2024年1月期の取扱商品の分類をみると、消耗品が売上高の81.0%を占めています。このほかは季節商品が10.6%、家庭用品が5.6%、衣料品が2.8%の割合です。消耗品は紙製品などの日用品、パスタやシリアルなどの食品、店頭薬などのヘルスケア製品、シャンプーなどのトイレタリー製品と多様です。


ディスカウント製品の需要は大きく、1990年から2020年まで約30年にわたりダラー・ゼネラルの既存店売上高は前年比で増えていました。ただ、2021年にはパンデミックのあおりで連続記録が途切れています。


ダラー・ツリー、1商品の基準価格は1.25ドル

ダラー・ツリー(DLTR)は米国の48州とワシントンDC、カナダの5州でディスカウントストアをチェーン展開しています。店舗数は2024年5月初めの時点で1万6397。内訳は「ダラー・ツリー」が8520店、「ファミリー・ダラー」が7877店で、合わせて1万6397店に上ります。


店舗の形態は「ダラー・ツリー」が日本の百均に近い1ドルショップです。とは言っても2021年終盤に1商品の基準価格を1.25ドルに設定すると発表しており、厳密な意味合いで1ドルショップではなくなっています。


約35年にわたり1商品1ドルという原則を守ってきましたが、さすがに昨今の物価高には対応できませんでした。25%の大幅値上げで商品の幅は広がるという利点も出たそうです。


一方、ダラー・ツリーが2015年に買収した「ファミリー・ダラー」は、1商品の価格が1-10ドルのレンジで、「ダラー・ゼネラル」に近い価格帯です。実はダラー・ゼネラルも「ファミリー・ダラー」の買収に名乗りを上げていましたが、最終的にダラー・ツリーが買収を決めています。



ダラー・ツリーは業績面で苦戦しており、2024年1月期決算で9億9800万ドルの純損失を計上して赤字に転落しました。こうした厳しい環境を背景にダラー・ツリーは「ファミリー・ダラー」を手放す方針を示しています。2015年の買収から10年も経っていませんが、ダラー・ツリーの経営陣が売却かスピンオフ(分離上場)を検討すると発表しました。


「ダラー・ツリー」が郊外型の店舗で中所得層を主要対象に事業を展開する半面、「ファミリー・ダラー」が都市部の低所得層を主要対象にするなど事業形態の相違を理由に挙げています。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

島野 敬之の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております