【米国株インサイト】外食チェーン(後編):ヤム・ブランズ、KFCやタコベルをフランチャイズ中心に展開

2024年8月には米国の外食チェーン業界で経営者の引き抜きが大きな波紋を広げました。渦中の人物はメキシコ料理のファストフード・チェーン、チポトレ・メキシカン・グリル(CMG)の最高経営責任者(CEO)と会長を兼任していたブライアン・ニコル氏。業績の伸び悩みで株価が低迷していたコーヒーショップチェーン、スターバックス(SBUX)が次期CEOとして白羽の矢を立て、引き抜きを決めたのです。


ニコル氏は2018年にチポトレ・メキシカン・グリルのCEOに就任し、経営改革を進めて業績を立て直し、株価を大幅に引き上げた実績を持ちます。ちなみにブライアン・ニコル氏は以前、ヤム・ブランズ(YUM)のタコベル事業のCEOでした。メキシコ料理のファストフード事業での経験がチポトレ・メキシカン・グリルでの成功につながったと言えそうです。今回はそのヤム・ブランズからご紹介します。


ヤム・ブランズ、155カ国で5万8700店を展開

ヤム・ブランズは国内外でファストフードをチェーン展開しています。フライドチキンのKFC、メキシコ料理のタコベル、ピザのピザハット、ハンバーガーのハビット・バーガー・グリルという4つのブランドを持ち、フランチャイズ主体のビジネスを手掛けています。


2023年12月末時点の店舗数は155カ国で計5万8708店です。内訳はKFCが2万9900店、タコベルが8564店、ピザハットが1万9866店、ハビット・バーガー・グリルが378店です。フランチャイズ店の割合はKFCとピザハットがそれぞれ約99%、タコベルが94%と直営店が極めて少ない状態。ハビット・バーガー・グリルは19%と低く、現状では直営店の割合が大きいです。


加盟店に当たるフランチャイジーは約1500に上ります。特定の地域などのフランチャイズ権を一括して供与するマスターフランチャイズ制度も手掛け、供与先の代表格は香港市場に上場するヤム・チャイナです。2016年にヤム・ブランズからスピンオフしたヤム・チャイナの出店数(2023年12月末時点)は、KFCが1万296店、ピザハットが3312店、タコベルが120店です。


ヤム・ブランズはフランチャイズ料や広告関連収入で売上高を立てており、直営店の運営を中心とする外食チェーンに比べ、店舗数の割に売上高が少ないのが特徴です。2023年12月期決算の売上高は前年比3.4%増の70億7600万ドル、純利益は20.5%増の15億9700万ドルでした。



セグメント別ではKFCの売上高が0.1%減の28億3000万ドル、営業利益が8.8%増の13億400万ドルで、全体に占める割合はそれぞれ40.0%、49.4%です。タコベルは売上高が8.4%増の26億4100万ドル、、営業利益が11.1%増の9億4400万ドルで、全体に占める割合はそれぞれ37.3%、35.8%です。


ピザハットは売上高が1.5%増の10億1900万ドル、営業利益が1.0%増の3億9100万ドルで、全体に占める割合はそれぞれ14.4%、14.8%です。ハビット・バーガー・グリルは売上高が3.4%増の5億8600万ドル、営業損失が1400万ドル(前年は2400万ドルの損失)でした。


ダッチ・ブロス、ドライブスルー中心に急成長

ダッチ・ブロス(BROS)はコーヒーショップ・チェーンを運営しています。「Dutch Bros Inc.」という社名を直訳すれば「オランダ兄弟会社」。オランダからの移民を祖先に持つデーン・ボーズマ氏とトラビス・ボーズマ氏の兄弟が1992年に立ち上げました。ロゴマークはオランダを象徴する風車です。


米国でコーヒーチェーンを成功させるのは難しいとされていますが、ダッチ・ブロスの事業展開の大きな特徴のひとつはドライブスルーを中心とする店づくりです。ドライブスルー中心であれば、こじんまりとした店舗でのオペレーションが可能で、初期投資が抑えられますし、広い座席がある店舗に比べれば固定費も安く済みます。



クルマでの来店を前提にしているため商圏も広く、いい事ずくめともいえそうですが、広範な商圏ゆえに来店するためのモチベーションを顧客に持ってもらう必要も出てきます。ダッチブロスはわざわざ来店するだけの価値を魅力的なドリンクで提供しているといえそうです。


メニューはフレーバーコーヒーが中心で、スターバックスのフラペチーノに類似するような商品も多いようです。人気商品のひとつを例に挙げると、キャラメルマキアートの「ゴールデンイーグル」があります。ブレンドコーヒーにバニラシロップとキャラメルソースを入れ、ホイップクリームとキャラメルソースを載せるというまさにゴールデンなドリンクです。


ラージサイズは1000キロカロリーに達し、ダイエット中の人が卒倒しそうな水準ですが、こうしたドリンクに目がない米国人が多いのも事実です。ドライブスルー中心の店舗構成と顧客を呼び寄せる吸引力の強いメニュー。このふたつがダッチブロスの経営を支えているようです。



ユニークな経営戦略の成果で事業は着実に成長し、店舗数も拡大しています。店舗数は2019年末の370店から2020年末に441店、2021年末に538店、2022年末に671店、2023年末に831店に増えています。


特に直営店の伸びが顕著で、フランチャイズ店は2019年末に252店、2020年末に259店、2021年末に267店、2022年末に275店、2023年末に289店と大きく伸びていません。逆に直営店は2019年末から順に118店→182店→271店→396店→542店と急増しています。


マクドナルド、外食チェーンで時価総額最大

マクドナルド(MCD)は米国市場に上場する外食チェーンの中で時価総額が最も大きい企業です。店舗は2023年12月末時点で4万1822に上り、100カ国以上に進出しています。直営店の数は国内外合わせて2142店で、約95%がフランチャイズ店です。


2023年12月期決算は売上高が前年比10.0%増の254億9400万ドル、純利益が37.1%増の84億6900万ドルでした。セグメントは米国市場、国際運営市場、国際ライセンス市場に分かれており、米国市場部門の売上高は10.2%増の105億6800万ドル、営業利益は10.9%増の56億9400万ドルで、全体に占める割合はそれぞれ41.5%、48.9%です。



国際運営市場部門はオーストラリアやカナダ、フランス、ドイツ、英国などで直営またはフランチャイズを通じて事業を展開しています。2023年12月期決算は売上高が9.6%増の123億8200万ドル、営業利益が48.5%増の58億3200万ドルで、全体に占める割合はそれぞれ48.6%、50.1%。国際ライセンス市場部門は日本や中国など連結対象にならない地域も含むセグメントで、売上高は10.7%増の25億4300万ドル、営業利益が60.9%減の1億2000万ドルです。全体に占める割合はそれぞれ10.0%、1.0%でした。


マクドナルドは引き続き店舗網の増強を進める方針で、2024年には1600店の純増を目指します。中期的には2027年までに世界全体で5万店を達成する目標を掲げています。


中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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