2024年10月1日にあらたな自民党総裁の石破茂氏が内閣総理大臣に指名され、石破政権が発足しました。防衛大臣を歴任するなど防衛・外交領域に造詣の深い新総理のもと、注目されているのが「アジア版NATO」です。NATOは北大西洋条約機構の略称で、ロシアに代表される仮想敵国に対する欧州の連合体を指します。NATOのアジア版とは、どのような意味合いを有しているのでしょうか。
アジア版NATOとは
アジア版NATOは、アジア各国で共通した仮想敵国において、集団的自衛権をもとに共同防衛を整備する考え方です。ロシアがウクライナ侵攻を継続していますが、アメリカやNATOがウクライナと共同戦線を張らないのは、ウクライナがNATOに加入していないから、という説があります(関連国が正式に認めたものではありません)。
翻ってアジアを見てみると、中国による強制的な外交姿勢が懸念されています。アジア版NATOは中国を念頭に、アジア各国やインド、アメリカが防衛線を貼り、対応しようという考え方です。
石破政権の発足により注目されましたが、石破氏による勇み足の発信とも報じられています。噛み砕くと、アジア版NATOは2つの問題があります。
集団的自衛権の問題
ひとつは集団的自衛権の問題です。2024年現在、日本国憲法は「国際法上の集団的自衛権の存在は認められるが、憲法で許される自衛権は個別的自衛権までで、集団的自衛権は行使できない」とされています。
一方、外国に武力攻撃を受けた際に適用される「武力攻撃事態法」では集団的自自衛権の行使条件として、ほかに手段がないこと、最小限の反撃に留まることが規定されています。自衛の延長として関連法が定められているとはいえ、集団的自衛権は憲法違反になる恐れがあります。
そのなかで軍事権を有するアジアの国家とアジア版NATOの関係を築くことはそもそも可能なのか、絵に書いた餅にならないかという指摘があります。
各国における中国との距離感
アジア版NATOの仮想敵国を仮に中国としたときに、各国の中国の距離感にも違いがあります。政治的連帯であるQUAD(クアッド:日米豪印)をアジア版NATOの土台とするという意見もありますが、インドは既に中国と国境を接しており、いわば個別に向き合っている状況です。これまで限定的な武力衝突も発生したなか、敢えて複数国で組んで枠組みを再整備する必要はありません。オーストラリアが中国に持つ緊張感とは、明らかに温度感が異なるものでしょう。
このような背景と、アメリカ当局のネガティブな反応から、アジア版NATOはすぐに進展するものではないと考えられます。ただ、アメリカは2024年11月に大統領選を控えており、アジアへの関わり方が現在の民主党政権から継続するか、大転換する可能性もあります。そこまでを見越して日本の新政権が発信したとしたら、投資家としても反応しておきたいところです。
アジア版NATOの議論による防衛株への影響
2024年の春から夏にかけて、三菱重工(7011)をはじめとした防衛株が注目されました。緊迫状況が長期化したこと(コンセンサスになったこと)とロケット実験の結果で落ち込みましたが、投資家が気になるのはアジア版NATOが防衛株にどのような影響を与えるかという視点です。2024年における三菱重工のチャートを見てみましょう。
2023年夏から右肩上がりだったところに、2024年6月以降の世界情勢の悪化を受け急伸します。そのあとロケット実験の結果などを受け調整局面に入るものの、2024年夏以降再び上昇基調に入っています。
防衛株視点でもアジア版NATOは時期尚早
他国との協調も土台段階であり、そもそも憲法改正を必要とするアジア版NATOは、いまだ防衛株をはじめとした株式相場においても、時期尚早のテーマといえるでしょう。
ただ、欧州や中東アジアを見ていると、東アジアにおける国家間の緊張リスクは軽視できません。決して中東を対岸の火事と呼べる状況ではありません。東アジアにおける戦争・外交リスクが、これから緊迫化することはあれど、緩やかになる可能性は考えられないと考えれば、防衛費用も右肩上がりで上がっている領域が、投資家にとって「プラス」であることも事実といえます。長期的な視点で見ると、将来的な存在感を期待して防衛株を所有しておくことは、ひとつの考え方といえるでしょう。
とはいえ、中東アジアから報じられるニュースは、目を覆いたくなるものばかりです。長い歴史からどちらの国・勢力が正しい、間違っているというのは既に難しいかもしれませんが、せめて物事が解決に向かうことを祈念したいものです。