今回の外国為替見通しでは、ユーロドル相場(EUR/USD)に焦点を当てて解説します。欧州連合(EU)と米国の間で貿易協定が合意に至ったことで、世界的な貿易紛争は回避されました。テクニカル分析の観点からも、ユーロドルの長期的な下落トレンドが転換する可能性が高まっており、今後の動向が注目されます。ただし、直近では調整リスクにも留意が必要です。
2025年現在のユーロドル相場の現状:年初の安値から買い戻し優勢
ユーロドルは2024年10月以降下げ基調が続いていましたが、2025年1月13日の1.0178ドルを安値として売りが一服しました。2月初旬には再び下値を探る動きが見られたものの、1月安値の手前で下げ渋り、買い戻しへと転換。
今年の4月以降は買いの勢いがさらに強まり、7月1日には一時1.1829ドルまで上昇する場面も見られました。この動向は、ユーロドルが短期的に上昇トレンドにあることを示唆しています。
今後のユーロドル相場の焦点:米欧間の貿易協定成立と金融政策への注目
今後のユーロドル相場を占う上で注目されていた欧米間の関税交渉は、7月27日に合意が成立しました。トランプ米大統領は7月12日にEUからの輸入品に対して、4月に宣言した相互関税率(20%)を上回る一律30%の関税を課す方針を示していましたが、最終的には15%の関税率となりました。
これにより、世界最大の貿易規模を誇る欧米間の貿易戦争はひとまず回避。今後は正式決定となった関税(8月1日から)が欧米経済にどのように波及していくかを見極めるフェーズに入ったと考えてよいでしょう。この貿易協定は、ユーロドルの為替レートに安定をもたらす可能性があります。
これに伴い、今後のユーロドル相場の注目材料は、欧米両国の金融政策へと移行していく見込み。欧米金融政策の方向性の違いがユーロドルに与える影響を注視する必要があります。欧州中央銀行(ECB)は2024年6月からの緩和サイクルで政策金利を4.50%から2.15%まで引き下げてきましたが、市場では現状の水準でECBの利下げは打ち止めとなる可能性が出てきたとの声も聞かれます。
一方、米連邦準備理事会(FRB)は金融緩和方向ながらも、足もとでは利下げを急がない慎重姿勢を維持しています。この方針に対してトランプ米大統領は執拗に利下げを要求しており、パウエルFRB議長が今後どのような姿勢を示すのか、FRB内での早期利下げ支持派が拡大するかなどが注目を集めるでしょう。これらの金融政策の動向が、ユーロドル予測の重要な鍵となります。
ユーロドルの月足分析:長期下落トレンド転換への足掛かり
ユーロドルの月足チャートを見ると、前回の解説(4月30日)からの経過で、5月中旬にかけて1.1065ドルまで調整売りに押される場面がありました。
その際には、理想的な調整目処であった2023年7月高値(1.1276ドル、チャート上の黄色実線)を下抜けたものの、次の目処であった2008年からの下降トレンドライン(チャート上の青色実線)がサポートとして機能したことが確認できました。これにより、ユーロドルの相場反転への足掛かりはできたと考えてよさそうです。
ただし、2008年からの長期に渡る下落トレンドが完全に転換したと判断するには、やはり直近高値(2021年1月高値の1.2349ドル、チャート上の丸で囲った部分)の上抜けなど、もう一押しが欲しいところ。
チャート下部の「DMI」で確認しても、現在は+DI>-DI(上昇トレンド)になっているものの、トレンドの強さを示すADXはまだ低水準にあり、足もとの上昇トレンドがしっかりしたものではないことを示唆しています。
ユーロドルの週足分析:押し目買いを進める際の下値目処
もう少し短期的な視点で、今後のユーロドルの見通しを確認していきます。
週足のユーロドルチャートを見ると、月足分析で紹介したように2008年からの下落トレンドが転換したと仮定した場合、現在は2022年9月安値を起点とする上昇トレンド(チャート上の黄色実線)にあることが分かります。
この上昇トレンドラインを基に「チャネルライン」を引いてみると、前回チャネルラインで頭を抑えられたのが2023年7月、そして今回も6月末に再びチャネルラインが上値の目処として意識された格好となりました。
2023年7月のケースでは、その後の調整幅は約800bpほど。今年の7月1日につけた直近高値1.1829ドルから同程度の調整が入った場合、1.1000ドル付近まで下押し余地があると予想されます。同水準付近には今年の5月12日につけた直近安値1.1065ドル付近も控えているため、その辺りが当面の下値目処となるでしょう。中長期的な押し目買いを進める際の目処としても利用できそうです。
今後の取引材料・変動要因をチェック:米金融政策やジャクソンホール会議に注目
最後に、今後1カ月間のユーロドルに関する重要イベントも確認しておきましょう。注目は本日(7月30日)まで開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)です。市場予想では政策金利は据え置きとなっており、今回のFOMCではメンバーの金利見通し(ドット・チャート)は公表されないため、声明文とパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の会見がポイントになります。
一方で、欧州中央銀行(ECB)ですが、期間内には金融政策決定理事会は予定されていません(次回は9月11日)。ただし、例年各国の中銀関係者が集まり、市場の注目を集める米ジャクソンホール会議が今年も8月21-23日の日程で開催されるため、ラガルドECB総裁が会議に出席した際には注意しておきましょう。
その他の経済指標・イベント等は以下の通りです。これらのイベントは、ユーロドルの為替レートに影響を与える可能性があります。
今後1カ月の重要イベント
- 7月29-30日 米国 米連邦公開市場委員会(FOMC)
- 7月31日 米国 6月PCEコア・デフレーター
- 8月1日 ユーロ圏 7月消費者物価指数(HICP、速報値)
- 8月1日 米国 7月米雇用統計
- 8月12日 米国 7月消費者物価指数(CPI)
- 8月21-23日 米国 ジャクソンホール会議