投資信託のリスクの大きさを知る

最近の金融市場は上下動が大きく、ちょっとしたきっかけで株価や為替、金利などが大きく上がったり下がったりしています。頭では投資にリスクがあることがわかっていても、この夏以降のような価格変動に見舞われると、投資を始めたばかりの方は驚いているのではないでしょうか。


もし、投資している金融商品がだいたいどの程度の値動きをするものなのかが予測できていたら、少しは不安も和らぐことでしょう。今回は、投資信託の運用報告やレポートなどに示されている、リスク情報の見方をお伝えします。


リスクとは


金融の世界でのリスクは、「想定していた結果とのズレ」を指しています。日常生活で損失や危険をリスクと呼んでいるのとは、ややニュアンスが異なります。金融商品のリスクの大小は、想定する運用利回りや過去の平均騰落率(リターン)などと、実際の運用結果とのズレの大きさで表されます。


投資信託の基準価額が日々変動するのは「価格変動リスク」があるからです。価格変動リスクの原因はさまざまです。例えば、為替相場の変動(為替変動リスク)や、投資先の財務状況の変化(信用リスク)、運用対象の国の政治情勢や経済の悪化(カントリーリスクまたは地政学リスク)など。これらのリスクが影響して投信の運用対象の時価が上下するため、投信の純資産が増えたり減ったりして基準価額が変動するのです。


リスクは数値で表される


投信のようにリスクのある金融商品は、運用の結果、どれだけのリターンが得られるかが不透明です。この不透明さがリスクで、その程度は可能性の確率で示されます。


投信の情報サイトなどでは、投信ごとのリスクが数字や記号で示され、同じようなタイプの他の投信と比較するのに便利です。一般的に、価格変動リスクの大きさは、リターンの振れ幅を示す「標準偏差」を使います。


「学生の時に倣った記憶があるな、何だっけ?」と思うかもしれませんね。過去の平均リターンを中心として、上下に値動きした範囲が「標準偏差」という数値です。この値が大きいほど、リスクが高いことを意味します。


では、単純化したグラフを使った【図】で説明しましょう。リターン年利5%、リスクの大きさ(標準偏差)が年10%で正規分布に従うという金融商品があるとします。これを平たく言うと「過去の平均リターンが年利5%で、5%より良い場合も悪い場合もあり、どの程度良くてどの程度悪いかは確率的に上下にきれいに分布し、平均からのブレ幅が10%の金融商品」となります。



上の【図】の金融商品を1年間運用すると、リターンは下記のように推定できます。


・5%の損失~15%の利益になる可能性が68.3%

・15%の損失~25%の利益になる可能性が95.4%

・25%の損失~35%の利益になる可能性が99.7%


損失の水準に着目すると、「-15%ぐらい下がるのはよくあることで、ほとんどないかもしれないけれど、最悪の場合-25%ぐらい下落することもある」といえます。


そこまで下がる可能性があると知り、投資家である皆さんは「この損失に自分は耐えられるだろうか」と考えれば良いわけです。また、暴落時などに「過去のデータからすると、このぐらいの損失があってもおかしくないのだ」と確認できれば、不安な気持ちも少し和らぐかもしれません。


リスクに対してうまく運用できたかを見る「シャープ・レシオ」


投資をするからには、「リスクに見合うリターンが得られているかどうか」という視点も重要です。


「大きなリスクを背負ってドキドキしながら運用したのに、リターンはあまり大きくなかった」となっては、がっかりしてしまいます。反対に、「低めのリスクで投資したけれど、高いリターンが得られた」という場合は、リスクに対して運用効率が良かったといえます。


この、リスクの大小とリターンの関係を数値化した尺度を「シャープ・レシオ」といいます。


「シャープ・レシオ」という言葉だけを聞くと難しそうと感じるかもしれませんが、無駄なリスクを取りたくない方には重要な指標です。同じリスクの下で投信を比較できるという優れものです。


シャープ・レシオは、リスク1単位に対してどれだけ儲かったかを見るために、リターンをリスクで割った尺度です。数値が大きければ、うまく運用をしていることを示しています。「同じ程度のリスクで、より高いリターンの投信はどれか」と探したり、「同じリターンでも、保有中の値動きが激しい銘柄と値動きが小さめの銘柄」を見分けたりできます。


シャープ・レシオは、投信の情報サイトや、投信の販売会社(証券会社や銀行)のWEBサイト内の個別の投信情報のページに、騰落率や純資産残高などと一緒に掲載されていることが多いです。


本来、計算に使うリターンは、運用利回りから国債などの利回りを引きますが、低金利の下では国債利回りを無視して計算されることも多いようです。リスクは前述した標準偏差が使われます。計算に使う基準日や期間などは、情報提供会社によって違うこともあります。


なお、リスクを比較する場合は、同じ運用対象や同じ運用方針の投信同士で比べましょう。例えば、値上がり益を追求する投信と高配当利回りの株式投信ではリスクの取り方が異なります。そうでなければ、比較する意味がないからです。


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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