物価に追いつく賃上げ、にもかかわらず……

「野菜が高い」「値上がりして外食を控えている」などの嘆く声をよく聞きます。物価が上がる中で、以前と同じ量の買い物をしていれば支出額は増えるはずですが、消費者が買い物を控えていると、実質的な消費支出は減少します。


この状況は、基本的には経済の停滞といえます。では、2024年の家計の収支はどうだったのでしょうか。総務省「家計調査」の結果を見てみましょう。


2024年も続いた節約志向


物価が上昇していた2024年、人々は節約志向だったといえます。家計調査の「総世帯」における2024年平均の消費支出は、1世帯当たり月額250,929円で前年比1.5%の増加だったものの、実質ではマイナス1.6%となりました。


家計支出の「実質増減率」は、物価の変動による影響を取り除いて比較しています。物価が上昇しているのに実質がマイナスという状況は、消費者がモノやサービスの購入量を減らしたことを示しています。これに対し、「名目増減率」は、実際の支出額の増減率です。


家計調査では、調査世帯が全国の世帯の縮図となるよう、全国約9,000世帯を無作為に抽出して、毎月、家計の収入や支出、貯蓄などの状況を調べています。冒頭に紹介した「総世帯」のほか、「二人以上の世帯」と「単身世帯」に分かれています。


二人以上の世帯の2024年平均の消費支出は月額300,243円で2.1%の増加でしたが、やはり実質ではマイナス1.1%でした。実質減少は2年連続です。単身世帯の消費支出は169,547円で1.1%増、同様に実質ではマイナス2.0%でした。


なお、二人以上の世帯のうち、勤労者世帯は55.0%、個人営業などの世帯は10.6%、無職世帯は34.4%です(2024年平均)。


5年連続実質マイナスの「食料」、2024年は実質12.4%増の「教育」 


2024年の消費支出実質マイナスに影響を及ぼした品目は、前年比実質4.1%減少の「交通・通信」や実質6.8%減少の「光熱・水道」、実質3.6%減少の「教養娯楽」です。これらの中で特に影響した項目は、「交通・通信」の自動車等関係費、通信など、「光熱・水道」の電気代、ガス代など、「教養娯楽」では教養娯楽サービス、書籍・他の印刷物などでした。


また、2024年の前年比実質マイナスへの影響は相対的に小さかったものの、「食料」は5年連続で実質減少となりました。「家具・家事用品」も4年連続の実質減少で、日常的に購入する商品に対して、長らく財布のひもを固く絞っている様子が伺えます。


「食料」では特に野菜・海藻、果物などが減少し、「家具・家事用品」では室内装備・装飾品、家庭用耐久財などの購が減りました。


一方、前年比実質増加となった品目は「教育」で、なんと実質12.4%増。授業料等、補習教育などが増えました。「保健医療」も実質2.6%増で、保健医療サービス、保健医療用品・器具などへの支出が増加しました。


勤労者世帯の支出が実質増加に転じる


このように、2024年平均で見ると実質マイナスだった消費支出ですが、少しだけ変化が見られます。


四半期ベースの実質増減率は、「二人以上の世帯のうちの勤労者世帯」が一歩抜け出したように感じられます。2023年7~9月期を底に減少率が徐々に小さくなり、2024年10~12月期は実質増加に転じました【グラフ1】。



満を持して実質プラスの世界へ! という瞬間に来ています。消費支出の実質増加とは、物価上昇分以上に支出をしているということです。賃上げが背中を押しているのでしょうか。


勤労者世帯の収入が増えたものの


では、次は勤労者世帯の収入を見てみましょう。


勤労者世帯の実収入は、2024年平均で1世帯当たり月額542,886円。前年に比べて3.9%増、実質でも0.7%の増加となりました。2023年は前年比実質6.0%減で、物価に大きく負けていましたが、ようやく物価上昇に追いつきました。


二人以上の世帯における勤労者世帯の2024年平均実収入は、1世帯当たり月額636,155円で、前年比4.6%増でした。こちらも実質1.4%増となりました。


今春も引き続き賃上げムード。このまま安定的な物価上昇と賃金上昇の好循環になるのでしょうか、期待が高まります。


ところが、です。実態は、消費にお金が回っていません【グラフ2】。



確かに実収入は増加傾向です。しかし消費支出はほぼ横ばい。あろうことか、収入アップと同じようなペースで金融資産純増額も増えているのです。老後など将来の不安や万が一のときの備えとして、確かに金融資産は大切です。けれども消費にお金が回っていないこの状況は、切なさを感じます。


お金は経済の血液。サラサラ流れますように。


【関連サイト】『家計調査』(総務省)

ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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