このコラムでも、再三にわたって投資詐欺に注意をして頂くようお伝えしておりますが、2024年前半、投資詐欺は急増しました。また、詐欺というと高齢者か若者が引っ掛かるものだと思われがちですが、SNS型投資詐欺の被害は、50歳代・60歳代が多いのが特徴です。
新NISAブームの陰にSNS型投資詐欺?
2024年の年明けと同時に制度が新しくなった、少額投資非課税制度(NISA)。2024年前半は、「猫も杓子も新NISA」という風潮で、それまで関心がなかった人たちから「投資デビューを果たした」という声を多く聞きました。
そのようなムードが影響しているのかいないのか、2024年はSNS型投資詐欺の被害は急増しています【グラフ1】。
SNS型投資詐欺とは、SNS等を通じて、対面せずにやりとりを重ねながら関係を深めて信用させ、投資目的のお金や投資利益などをだまし取る手口です。
WEBサイトやSNSに、著名人の名前や顔写真を悪用したり、「必ずもうかる投資方法を教えます」などのオイシイ話が掲載されていたりする投資広告を見たことはありませんか? 個別のメッセージやグループチャットなどに誘導され、投資話のやりとりをメッセージで繰り返し、信用させたところで「投資金」や「手数料」などを振り込ませる――これがSNS型投資詐欺です。
しかも、一度で終わることばかりではありません。詐欺に気づくまで何度も振り込んでしまい、被害額が高額になることもあるようです。
男性は「フェイスブック」「LINE」「インスタグラム」、女性は「インスタグラム」
警察庁が公表している「令和6年9月末におけるSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」では、2024年1月~9月末の手口などの詳細が報告されています。
これによると、2024年1月~9月末におけるSNS型投資詐欺の被害認知件数5,092件のうち、男性が被害に遭った件数は2,757件で全体の54.1%、女性は2,332件で45.8%、法人が3件で0.1%となっています。
きっかけ(最初の接触)は、被害者の性別を問わずほぼ同じような状況です。最も多かったのは「バナー等広告」で、男性41.8%、女性53.6%。次が「ダイレクトメッセージ」で、男性31.6%、女性23.5%。次が「グループ招待」で、男性8.2%、女性7.5%となっています。
なお、最も多い「バナー等広告」と次の「ダイレクトメッセージ」のツールとしては、多い順に
「インスタグラム」「フェイスブック」で、この2つのツールで約半数を占めています。
ただし、当初接触したツールは男女で特徴が異なります。男性は、多い順に「フェイスブック」(19.6%)、「LINE」(19.2%)、「インスタグラム」(17.4%)。男性の被害者はこの3つのツールがほぼ同じなのに対し、女性は「インスタグラム」(32.8%)が圧倒的。次に「LINE」(17.6%)、「フェイスブック」(11.4%)と並びます。男女ともに、上位3つのツールで約3分の2を占めています。
一度接触すると、その後の連絡手段はほとんどが「LINE」。詐欺行為が行われた主な連絡手段には、男女合計の91.8%で「LINE」が使われています。お金の受け渡しは、被害件数の87.6%が振込でした。
男女ともに被害が多いのは50歳代・60歳代
詐欺というと高齢者や若者がターゲット、と思われるかもしれません。ですが、SNS型投資詐欺の場合は被害者の年齢層が50歳代・60歳代に多くなっています【グラフ2】。
あくまでも筆者(50歳代)の想像ですが、スマートフォンの操作に不慣れな世代で、それなりに利用しているものの若い世代に比べSNSでの経験値が低いことが影響しているのではないでしょうか。
筆者は、年に10校程度のペースで、外部講師として大学や高校で金融経済教育の授業を行う機会があります。学生・生徒さんたちの生の声を伺う機会と、同世代の友人・知人との会話を通して感じることは、やはり50歳代・60歳代はSNS等の扱いに疎いと言わざるを得ません。
また、若い世代は金融経済教育を受ける機会が増えているのに対し、社会人は自分から関心を寄せてセミナーに参加したり動画を視聴したりしなければ投資に触れる機会はあまりありません。そのような状況で、物価が上がって家計が以前より厳しくなったり、老後が不安になったりすることが頭をかすめ、オイシイ話に飛びついてしまっているのではないか、と想像します。
紹介した警視庁の調査には、被害に遭った要因などは報告されておらず、あくまでも同世代である筆者の想像でしかありませんが、的外れな見立てではないと思います。
これらのことから、みなさんは「ほら見たことか。投資は危ないものなんだよ」とお思いでしょうか。むしろ筆者は逆だと思っています。金融や投資の正しい知識を持っていれば、不適切な勧誘行為には気がつきやすいものです。日ごろから投資に慣れ親しみ、リスクから逃げずに向き合い、投資の世界の常識に触れることで、いざという時の判断力が身につくのではないでしょうか。
【参考】「令和6年9月末におけるSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」(警察庁)