中国株の銘柄選び

意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(5) 不思議な味の中華ジャンクフード「辣条(ラーティアオ)」

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。そんな場合は、身近にある上場企業に投資してみるというのも一つの手です。そこで今回は、意外と身近にある中国株というテーマで、身近にある中国株の銘柄を紹介したいと思います。日本でも意外と中国株銘柄の商品やサービスを探すことができます。今回もファミリー型ディスカウントストア「MEGAドン・キホーテ」の店内で中国株銘柄を探してみました。


衛龍美味の「大麺筋辣条(BIG LATIAO)」



今回見つけたのは、衛龍美味(ウェイロン・デリシャス:09985)の「大麺筋辣条(BIG LATIAO)」です。名前を見ても、パッケージを見ても、どんな味なのか想像しにくいかもしれません。パッケージに唐辛子がデザインされているので、辛そうなことだけは伝わってきます。


「大麺筋(だいめんきん)」は、別名「辣条(ラーティアオ)」とも呼ばれ、小麦粉から抽出したグルテンに唐辛子や調味料、香料などを加えて加工した食品を指します。さまざまな調味料を配合した独特の味に加え、歯ごたえのあるモチっとした食感。初めて食べた人は「何これ?」となるかもしれません。閉め切った部屋で食べると、調味料のにおいがしばらく部屋に充満します。


「辣条(ラーティアオ)」は歯ごたえのあるモチっとした食感に特徴がある


筆者が食べてみた感想としては、ビールのおつまみといった印象ですが、中国では値段が安くて手軽な食べ物であることから、子供の駄菓子、それもジャンクフード的な扱いのようです。原料だけで言うと小麦から抽出したグルテンなので、日本の「お麩」に当たりますが、乾燥していない状態のため食感はまったく違います。食べたときにジュワ~と染み出してくる辛さと旨味、そしてその独特の食感は、人によって好き嫌いは分かれると思いますが、病みつきになる人も出てきそうです。


2001年に河南省で創業、地元の特産品で勝負


衛龍美味は、劉衛平会長が2001年に設立した菓子メーカーです。劉衛平氏は1978年に湖南省岳陽市平江県に生まれます。家庭は貧しく、小さなころから地元の特産品である「醤乾」(大豆を主成分とする味付けした干し豆腐)をつくる手伝いをし、天秤棒を担いでは十数キロの山道を歩き、近隣の街で「醤乾」を売り歩いていました。高校を卒業すると大学へは進学せず、地元を離れて広州の工場で働き始めます。


するとその翌年の1998年、地元の平江県で洪水が発生。原料である大豆価格が高騰します。製造コストが跳ね上がり、地元経済は大打撃を受けます。大豆で「醤乾」をつくっても採算割れになってしまいます。そこで地元の人々は、大豆を原料とすることを諦め、小麦で代用ができないか考えます。小麦からグルテンを抽出し、同じような製法でつくり出したのが「辣条」でした。


大豆に比べて製造コストが安く抑えられることから、平江県では「辣条」をつくる人が増えていきます。劉衛平氏はこれをチャンスと捉え、地元の新たな特産となった「辣条」で起業を決意します。2001年のことでした。創業の地には、豚肉加工で成功を収めていた河南双匯投資発展(000895)が本社を構える河南省ルイ河を選びます。創業当初はすべてを一人でこなさなければならず、朝から晩まで働き詰めの毎日を送ります。街に出ては、夜遅く人通りがなくなるまで「辣条」を売り歩いたといいます。


出所:衛龍美味ホームページ


2022年12月に香港証券取引所に上場


その後、事業が軌道に乗り、なんとか貯めた資金で製造機械を導入し、自動化を進めます。同時に販路開拓も進め、スーパーなどに置いてもらえるようになると売り上げが拡大。著名人を起用するなどして宣伝を強化し、パッケージのデザインもSNS(交流サイト)受けを意識したものに変更します。するとSNSを通じて「辣条」の人気が全国に拡散していきます。小規模な「辣条」メーカーが次々と脱落していくなか、「天猫」や「京東」などを通じたオンライン販売にも力を入れ、全国で販売を伸ばしていきました。そして、2022年12月に香港証券取引所に上場。IPOに当たってはテンセント(00700)、ジャック・マー氏らが設立した雲鋒基金などが出資しました。衛龍美味に対する期待の高さがうかがえます。


衛龍美味のミッションは「世界中の人々に中国の味を好きになってもらうこと」。味覚は人それぞれなので大変なミッションですが、調査会社フロスト&サリバンによると、衛龍美味はスパイシースナック菓子で2021年に国内シェア6.2%で1位を獲得。中国では若年層、特にZ世代を中心に人気を集めています。果たして海外でも中国の味が受け入れられるかどうか?どこかで衛龍美味の商品を見かけたら、どんな味なのか是非確かめてみてください。


衛龍美味の商品ラインアップ 出所:衛龍美味ホームページ


まとめ:今回見つけた身近な中国株銘柄


今回見つけた身近な中国株銘柄は衛龍美味(09985)の1銘柄で、香港証券取引所メインボードに上場しています。


【河南省本拠の食品メーカー】河南省に本社を置く食品メーカーで、主にスパイシーな風味のスナック菓子を生産する。スパイシーなスナック菓子のメーカーでは小売販売額ベースで国内最大手(21年)。主力製品は小麦粉を主な原料とする「大麺筋」「麻辣棒」、野菜を使う「魔芋爽」「風吃海帯」、豆を加工した「軟豆皮」など。主に若者層をターゲットに製品を開発する。河南省に生産拠点を置く。


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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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