生成AIに潜むリスクとは?投資して大丈夫?

2022年11月にOpenAI社がChatGPTをリリースして以来、巨大テック企業の生成AIへの投資額が急増しています。


今後、生成AI市場の規模は2027年に想定で1,200億ドル(2022年の+66%)に上ると推定されています。個人投資家で生成AI銘柄に投資している方もいらっしゃるでしょう。


しかし、「企業の生成AIへの投資額が将来的にリターンを得られるのか」といった課題に加え、生成AIはクリエイターの著作権を侵害する恐れがあり、さまざまな団体が法整備などを訴えています。

今回は生成AIに潜むリスクと、生成AI銘柄投資への投資について解説していきます。


大手企業のAIへの投資額が急増

アメリカ・スタンフォード大学の推計によると、人工知能(AI)に対する2023年における各国の民間投資額で、アメリカが第1位で672億2000万ドル(約10兆円)であることが分かりました。

なお、日本は12位で6億8000万ドル(約10億円)です。


総務省「2024年(令和6年)版 情報通信白書」によると、生成AIの市場規模は2027年には想定で1,200億ドルと言われています。


 

出典:総務省「2024年(令和6年)版 情報通信白書」


なお、2023における世界の生成AI市場規模についての主な団体・企業の記述は以下の通りです。


このまま想定通りに生成AI市場が成長すると、十分なリターンを得られると考えられますが、まだ投資額に対してリターンは少ない状況と予測されます。


「投資した分十分なリターンを得られるのか」といった課題に加え、生成AIは声優やイラストレーターなど、クリエイターの一部から批判の声があがっています。


生成AIと著作権

多くのクリエイターからは「著作物をAIに学習させ、作成させるのは著作権侵害ではないか」という指摘があります。


そもそも著作権の対象となる「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義されています。(著作権法第2条1項)


例えば筆者が書いている、この文章も「著作物」です。

小説や詩・音楽・絵画・建築物などを始め、舞踏や振り付け、コンピューターのプログラムなども著作物となります。

著作物を創作した時点で、著作者は自動的に「著作権・著作者人格権」を取得し、「著作権者」となります。

さらに、著作権・著作者人格権は以下のようにさまざまな権利に分類されます。

 

出典:文化庁「2023年度著作権セミナーAIと著作権」


著作物を利用する際には、著作者の許諾を得ることが原則です。

この文章をサイトに載せるにあたって、筆者は契約を結び著作権を譲渡していますので権利は侵害されていません。


生成AIは、なぜ「著作権侵害の恐れがある」のでしょうか?


生成AIの学習段階での著作物の利用は著作権侵害にならない?

AI開発・学習段階と、著作物との関係について文化庁が公表した資料は以下の通りです。

 

出典:文化庁「2023年度著作権セミナーAIと著作権」


開発・学習段階では、著作物の複製(Web上のデータの収集)・譲渡・作成した学習用データセットをWeb上で公開(公衆送信)することが、著作権法で問題になります。

しかし、2018年の著作権法改正により第30条の4が導入され「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用行為」は、基本的に著作権者の許可なく利用できるようになりました。


つまり、AI開発のための情報解析は法的に著作権侵害には該当しないと解釈されます。

ただし、生成AIの普及とともに、クリエイターを中心として法整備や適切な対応を取るよう訴える動きが広がっています。


生成AIと著作権に関する疑問の声、キャンペーン


一般社団法人日本新聞協会の声明

声優有志26人のキャンペーン

「知的財産推進計画2024」の策定に向けた意見募集で寄せられた声 


1.一般社団法人日本新聞協会の声明

一般社団法人日本新聞協会は、2024年7月17日にホームページで「生成AIサービスを提供する事業者に対し、報道コンテンツを利用する場合は著作権者の許諾を得ること、またサービスのリリースは正確性、信頼性を十分に確保した上で行うよう」声明を出しました。


同法人は、生成AIサービスが著作権法の「軽微利用」規定の要件を満たしておらず「著作権侵害に該当する事例が多い」「報道機関に著しい不利益が生じることは容易に推測できます」と述べています。


加えて、生成AIの報道コンテンツ利用は独占禁止法に抵触することも言及されており、声明の最後は「生成AI事業者や公正取引委員会は海外の動向も踏まえて、適切な対応をとるよう求めます」と結ばれています。


2.声優有志26人のキャンペーン

2024年10月16日には、声優有志の会26名がYouTubeで「NO MORE 無断生成AI」という啓発動画の予告編を公開しました。


声優有志の会は、自身の声や表現が無断でAI学習・生成・公開されたことに対して問題提起を行っています。

音声分野の生成AI活用は「TTS(Text to Speech)」などの音声合成を中心に、人間を模倣できるクオリティの出力が可能です。


有志の会のプレスリリースでは、無断使用に対して「悲しみ傷つく人がいます」という訴えもあります。

「悲しみ傷つく」という訴えは、著作権人格権(著作者だけが持つことができる権利)に言及されたものと考えられます。


3.「知的財産推進計画2024」の策定に向けた意見募集で寄せられた声 

内閣の知的財産戦略本部が「知的財産推進計画2024」の策定に向け、募集した意見の中には「生成 AI の学習では著作権者の許諾を必要とすべき」「著作者を守ってほしい」という意見が個人・法人を問わず多く見受けられました。



生成AI銘柄に投資しても大丈夫?

生成AIは今後市場規模が拡大すると予測される一方で、上記のようにクリエイターがAI学習を「無断使用」と訴える声もあります。


生成AI銘柄のような新興産業は、ハイリスク・ハイリターンの傾向があります。

「リスクを軽減したいけど生成AIに投資したい」という方は、生成AIだけではなく他の事業も営む企業に投資してみてはいかがでしょうか。


投資する際には、「企業がどのくらい生成AIに投資しているのか」「仮に生成AI事業で失敗しても主力の事業でカバーできるのか」などを踏まえ、IR情報をチェックし検討しましょう。


「ハイリスクでも構わないので、投資したい」という方はOpenAI社のような生成AIを主な事業とする銘柄への投資を考えてみましょう。


生成AI銘柄だけではなく、投資は個人のリスク許容度が重要な要素の1つです。リスク許容度に関しては、こちらの記事も参考にしましょう。


ファイナンシャル・プランナー/ライター

田中 あさみ

大学在学中に2級FP技能士の資格を取得。会社員を経て独立し、金融・投資・相続・法律などの記事を執筆している。 自身でも米国株やETF・投資信託等を運用中。

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