2024年のインサイダー取引の事例、金融庁出向中の公務員や東証社員に疑いが

2024年10月19日に金融庁に出向中の裁判官、10月23日には東京証券取引所の社員がインサイダー取引の疑いで調査を受けていることが発覚しました。


民間の金融機関だけではなく、金融庁の出向中の職員、日本取引所グループ傘下の東京証券取引所の社員までインサイダーの疑いがあるという衝撃の事例が相次いでいます。


インサイダー取引の概要と件数の推移、2024年10月に報道されたインサイダー取引または取引の疑いがある事例を解説していきます。


インサイダー取引とは?課徴金勧告件数・課徴金額の推移

インサイダー取引とは、上場会社の社員など会社関係者が職務で株価にも関係する「重要事実」を知り、公表前に該当する企業の株式などを売買することを指します。

売買する金融商品は、株式だけではなく投資信託やETF・社債・REITなども含まれます。


「重要事実」とは、例えば会社が新株発行を決定した、決算予想値に大幅な修正が生じることなどです。

金融商品取引法ではインサイダー取引規制に違反した場合、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金といった刑事罰と課徴金の勧告が可能です。


証券取引等監視委員会事務局の「2023年度金融商品取引法における課徴金事例集~不公正取引編~」では、インサイダー取引や相場操縦など「不公正取引」の疑いがあるものに対して調査を実施し、法令違反が認められたものは課徴金勧告を 17 件行っています。 

課徴金勧告とは、法令違反を行った企業・団体などに対して証券取引等監視委員会が課徴金の納付を命じるよう金融庁や内閣総理大臣などに勧告することです。


インサイダー取引規制による課徴金勧告件数・課徴金額の推移を見てみましょう。

 

出典:証券取引等監視委員会事務局「2023年度金融商品取引法における課徴金事例集 ~不公正取引編~」


具体的な勧告の一覧は以下の通りです。

 

課徴金額が最も多い事案は、株式会社ZOZOの中国子会社の役職員が元ZOZOの社員から同社の株式の公開買い付けに関する事実を聞き、公表する前に株式を買い付けた件です。

情報提供者は、主に民間企業の(元)社員や会社関係者などです。

しかし2024年10月には、公務員や東京証券取引所の社員がインサイダー取引の疑いがあるという報道が2件続きました。


2024年10月に報道された2件のインサイダー事例


金融庁出向中の裁判官がインサイダー取引の疑い

東京証券取引所の社員がインサイダー取引の疑い



1.金融庁出向中の裁判官がインサイダー取引の疑い

2024年10月19日、金融庁に出向中の裁判官が業務で知った企業の内部情報をもとに取引を繰り返した疑いがあるとして、証券取引等監視委員会が金融商品取引法違反容疑で強制調査に乗り出したことが分かりました。


最高裁判所は主に任官10年未満の裁判官に対して、さまざまな経験を積ませるために各省庁への出向を行っています。インサイダー取引の疑いがある裁判官(30代男性)も、4月に異動になり金融庁企業開示課課長補佐として出向していました。


30代男性は、TOB(株式公開買い付け)を行う企業の有価証券報告書といった書類の審査などを担当しており、情報をもとに自身の口座において複数の銘柄でインサイダー取引を行った疑いがあります。


インサイダー取引で得た利益は、4月には10万円超程度でしたが4カ月後には100万円超に急増しており総額では数百万円規模に上る可能性があります。


TOBによるインサイダー取引は、2023年度の事案で最も多く2020年に最多だった「新株等発行」を上回っています。

2005年度の課徴金制度導入後以降の累計件数も103件と最多です。なお、2番目に多いのは「業務提携・解消」の66件、次いで「業績予想等の修正(59件)」、「新株等発行(56件)」です。

金融庁は該当職員を異動させ、「厳正に対処していく」とコメントしています。



2.東京証券取引所の社員がインサイダー取引の疑い

2024年10月23日には、東京証券取引所の社員がインサイダー取引に関与した疑いで、証券取引等監視委員会から金融商品取引法違反(取引推奨)容疑で強制調査を受けていたことが発覚しました。


調査を受けたのは20代の男性社員で、金融庁に出向した職員と同様に「企業のTOB(株式公開買い付け)に関する未公表情報)をもとに親族に株取引を勧め、親族が複数回の取引を行った結果、数十万円の利益を得ていたことが分かりました。


該当の社員は、投資判断上重要な情報を提供する「適時開示」などを担当する東京証券取引所の上場部開示業務室に所属していました。


東京証券取引所は日本取引所グループの傘下にありますが、2018年に当時の最高経営責任者(CEO)が社内規則で取引が禁止されている上場インフラファンドを購入し、減俸処分を受けたことがありました。


今回の件により、個人投資家に直接的な影響が生じるわけではありません。

しかし今回のような事案が増えることで、投資にマイナスなイメージを抱く人が増える恐れがあります。


新NISAで投資をする人が増え、インサイダー取引など不公正取引が多くなる可能性があります。今後も動向を注視していきましょう。


ファイナンシャル・プランナー/ライター

田中 あさみ

大学在学中に2級FP技能士の資格を取得。会社員を経て独立し、金融・投資・相続・法律などの記事を執筆している。 自身でも米国株やETF・投資信託等を運用中。

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