産業競争力や経済安全保障の観点で半導体産業への注目が高まる中、半導体製造装置セクターの役割が大きくなっています。先端の半導体製造装置がなければ、先端の半導体を量産することは不可能で、高度な技術を持つ製造装置メーカーの重要性は一段と高まりそうです。
前編ではアプライド・マテリアルズ(AMAT)とASMLホールディング(ASML)を取り上げました。後編ではラム・リサーチ(LRCX)、ケーエルエー(KLAC)、アクセリス・テクノロジーズ(ACLS)の3銘柄をご紹介します。
ラム・リサーチ、成膜・エッチング工程の装置に強み
ラム・リサーチは半導体製造装置の世界的な大手です。不揮発性メモリーやDRAM、ロジックデバイスなどを生産する半導体メーカーに製造装置を提供しています。主に成膜工程、エッチング工程、洗浄工程で使用する機器の開発と製造を手掛けます。
半導体デバイスの材料となる誘電膜(絶縁膜)と金属(導体)の薄膜層を形成する成膜工程では、材料や成膜手段に応じた製造装置のシリーズがあります。集積回路(IC)内の素子を接続する電線を作る電解めっきデポジション(ECD)では「SABREシリーズ」と呼ぶ製品群を展開しています。
このほか化学気相成長(CVD)や原子層堆積法(ALD)と呼ばれる手法での薄膜形成では「ALTUSシリーズ」という製品群を持ちます。また、プラズマや高密度プラズマを用いて絶縁膜を形成するのに利用するプラズマCVDや高密度プラズマCVDでは「VECTOR」「Striker」「SPEED」の各シリーズを投入しています。CVD成膜装置では世界的な大手です。
エッチング工程では「反応性イオンエッチング」という技術を用いる製造装置を「Kiyoシリーズ」「Versysシリーズ」「Flexシリーズ」「Vantexシリーズ」という製品群で提供。エッチング装置の市場シェアで世界トップです。
洗浄工程では、後続の工程で不具合の原因になり得る不要物質を除去し、ウエハーの表面の状態を整えます。工程間でクリーニングを実施するケースも多く、不良率を引き下げる効果があります。製品群のシリーズには「EOS」「Da Vinci」「Coronus」などがあります。
主要顧客はマイクロン・テクノロジーズ(MU)、サムスン電子、台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC)、SKハイニックスなどです。中国の紫光集団傘下の長江存儲科技は2021年6月期と2022年の6月期に主要顧客にリストアップされましたが、2023年6月期以降は外れています。
1980年にラム・リサーチを創業したデイビット・ラム氏は中国生まれ。経済発展の発展と先端技術の開発を背景に中国で半導体製造装置の需要は高いのですが、米国政府は対中規制の一環として半導体製造装置の対中輸出に制限を設けています。
こうした流れの中でラム・リサーチの2023年6月期決算では中国向けの売上高が前年比17.5%減の44億6300万ドルに落ち込みました。ただ、2024年6月期には中国向けが前年比41.0%増の62億9400万ドルに急拡大しています。
ケーエルエー、検査測定装置の世界大手
ケーエルエーは半導体検査測定装置の世界的な大手です。半導体製造のさまざまな工程で製品に欠陥がないかを検査し、製品の品質を確保できているかどうかを測定する装置を提供します。
シリコンウエハーの製造工程で使う欠陥検査装置では、表面の異物や欠陥の有無、超微小な凹凸の程度、ウエハー自体の厚さの均一性などを精査します。「ウエハーサイト」「サーフスキャン」といった検査装置が主力製品です。
ウエハーの表面に回路パターンが転写される前(パターンなし)と後(パターンあり)のウエハー欠陥検査装置は半導体メーカーが製造工程で使います。表面・裏側の異物やパターンの欠陥を検知して報告することで早い段階での対応を促し、歩留まりの改善につなげます。
ウエハーの計測装置では、回路パターンの精密な寸法や薄膜の厚さ、層間アライメント、パターン配置、表面形状、電気光学特性などを精密に測定します。半導体製造工程の厳密な管理や生産性の改善に役立てます。また、レチクル(フォトマスク)の検査・計測装置では、レチクルの欠陥やパターン配置エラーなどを検知し、分析します。
このほか化学プロセス制御装置は、大規模集積回路(LSI)やプリント基板(PCB)の製造工程で利用するめっき液や洗浄液の成分のモニタリングなどをサポートしています。プロセス制御装置のデータに基づき品質の改善に結びつけることが可能です。
ケーエルエー・コーポレーションの2024年6月期決算では、前述のような検査・測定装置を中核とする半導体プロセス制御部門が売上高の89.0%、粗利益の92.7%を占める主力事業です。
このほか高機能半導体デバイスの真空成膜装置や精密エッチング装置などで構成する特殊半導体プロセス部門は売上高の5.4%、粗利益の4.7%を占めます。PCB・ディスプレイ・コンポーネント検査部門はそれぞれ5.6%、2.6%です。
地域別の売上高比率は中国が42.8%で最大です。台湾が17.7%、北米が10.9%、日本が9.8%、韓国が9.2%でこれに続いています。売上高の10%を超える主要顧客は台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC)だけで、2023年まではサムスン電子が加わっていましたが、外れています。
アクセリス・テクノロジーズ、イオン注入装置を開発
アクセリス・テクノロジーズは半導体製造工程で重要なイオン注入装置の開発と製造を手掛けています。イオン注入は特定の不純物原子をイオン化し、ウエハーに注入する工程で、ウエハーに導電性をもたらします。
広範にイオン注入装置を開発、製造しているのは世界でもアクセリス・テクノロジーズとアプライド・マテリアルズだけで、両社は世界市場で競合しています。
特にアクセリス・テクノロジーズはイオン注入装置に特化しており、2023年12月期の売上高に占める割合は98.3%。専業メーカーといえそうです。製品群は高電流イオン注入装置、高エネルギーイオン注入装置、中電流イオン注入装置に分類されています。
地域別売上高の比率はアジア太平洋が71.8%で最大です。北米が15.5%、欧州が12.8%で続いています。