【米国株インサイト】25年IPO銘柄(前編):コアウィーブ、生成AI企業に計算資源を提供

米国の新規株式公開(IPO)が順調に回復しています。2020-21年のIPOブームの後、2022年には米国株式相場が冷え込み、IPO市場も厳冬期を迎えましたが、2023年以降は着実に復調しています。2025年は1-9月期の新規上場件数が161件、総調達額が308億ドルに達し、3カ月を残して2024年通年の実績を上回りました。今回は2025年に上場した主要銘柄を見ていきたいと思います。


コアウィーブ、2025年を象徴する新規上場銘柄

コアウィーブ(CRWV)は人工知能(AI)の開発に必要な計算資源をテック大手に提供してます。自社で運営する大規模なデータセンターにエヌビディア(NVDA)のGPU(画像処理装置)を導入し、クラウドを通じてAIの学習に使う計算リソースを販売しているのです。


主要な顧客にはマクロソフト(MSFT)、アイビーエム(IBM)、メタ・プラットフォームズ(META)、オープンAI、コーヒアなど生成AIのトップ企業が名を連ねています。こうした企業は大規模なデータセンターのリソースを自社で保有するハイパースケーラーと呼ばれていますが、計算資源の不足を補うため、あるいは巨額投資のリスクを軽減するためにコアウィーブからリソースの提供を受けています。



コアウィーブがナスダック市場に上場したのは2025年3月です。2025年はご存知のように生成AI用のデータセンター投資が大きな注目を集めており、時価総額などの面でも2025年を代表する新規株式公開(IPO)だったと言えそうです。


米国には暗号資産マイニングのためのデータセンターを運営し、AIブームに乗って転身した企業が散見されますが、コアウィーブもそうした企業のひとつです。ただ、上場前からエヌビディアの出資を受けており、最先端のGPUを優先的に調達できるという強みを持ちます。


2024年末時点で運営するデータセンターは32カ所、導入したGPUは25万を超えています。さらに2025年5月にはデータセンターのホスティング事業を手掛けるアプライド・デジタル(APLD)からデータセンターを借り受けるリース契約を結ぶなどビジネスの拡大に向けて攻めの姿勢を維持してます。



業績もこうした姿勢を反映し、売上高が大きく伸びてます。2025年7-9月期決算は売上高が前年同期の2.3倍に当たる13億6500万ドルに急増。純損失は1億1000万ドルにとどまり、前年同期の3億8900万ドルから3分の1以下に縮小しています。


一方、懸案はAIセクター全体の問題とみられていますが、過剰投資です。特にコアウィーブは高額な最先端のGPUを調達し、それ自体が競争力の源泉になるというビジネスモデルなので、投資を止めるわけにはいきません。


GPUを担保に借入金を膨らませているようで、2025年7-9月期の借入金の利払い費用が前年同期実績の約3倍に当たる3億1100万ドルに急増しました。競争力を維持しつつ金利負担を減らすという難題に取り組む必要がありそうです。


セールポイント、包括的なIDセキュリティーを提供

セールポイント(SAIL)は、法人向けに包括的なアイデンティティー(ID)・セキュリティー・ソリューションを提供しています。組織のリソースにアクセスできる権限を管理すると同時に可視化する機能を通じ、不正アクセスや悪用の防止を目指す顧客の取り組みをサポートします。


サイバー攻撃の脅威は年を追うごとに高まっており、ハッカー集団が不正に取得したユーザー名やパスワードを通じ、機密性の高いアプリケーションやデータにアクセスするケースも増えているようです。


セールポイントはこうした脅威に対応するためIDセキュリティーに特化し、人工知能(AI)などの最新技術を利用したプラットフォーム「セールポイント・アトラス」を展開しています。顧客にはアトラス上で「アイデンティティー・セキュリティー・クラウド」と呼ぶSaaSをソリューションとして提供し、成果を上げています。



このソリューションでは、従業員や請負業者、ビジネスパートナーなど組織内外の利用者が組織との関係がなくなるまでのライフサイクル全体を管理するのが特徴です。従業員の場合は入社、異動、退職の各プロセスを自動化し、適切なタイミングで適切なアクセス権限を付与します。安全かつ費用対効果の高い方法で管理し、セキュリティ部門やIT部門の負担軽減を目指します。


また、アクセス権限を体系的に定義・管理するアクセスモデリング、属性や履歴を含む膨大な量のデータを解析して改善につなげるアナリティクス、組織内のコンプライアンス活動を可視化するコンプライアンス管理といった機能も提供します。



さらにデータアクセスのセキュリティーやパスワード管理、アクセス権限の可視化と職務分担のモニタリングを通じたアクセスリスク管理、パソコンなどのマシンにIDを付与して管理するマシン・アイデンティティー・セキュリティーなども手掛けています。


顧客は60を超える国・地域に点在し、2025年1月末時点で2975の企業や組織にサービスを提供しています。競合にはアイデンティティー・ソリューションを提供するテック大手に加え、サイバーアーク(CYBR)やオクタ(OKTA)を挙げていますが、同業のオクタとはID管理などの分野で提携しています。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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