【米国株インサイト】医療機器(後編):五大湖周辺でも大手メーカーが誕生

マサチューセッツ州は、バイオテクノロジーやライフサイエンスなどの産業集積地として世界的に知られています。医療機器大手メーカーの一角もマサチューセッツ州に拠点を置いており、前編ではサーモ・フィッシャー・サイエンティフィック(TMO)とボストン・サイエンティフィック(BSX)をご紹介しました。


一方、五大湖周辺は今でこそラストベルト(さびついた工業地帯)と呼ばれていますが、古くから工業が発達した地域で、複数の医療機器の大手メーカーが誕生しています。今回ご紹介するアボット・ラボラトリーズ(ABT)はイリノイ州シカゴが創業の地で、メドトロニック(MDT)はミネソタ州ミネアポリスで誕生しています。また、ストライカー(SYY)は、シカゴとデトロイトのほぼ中間に位置するミシガン州カラマズーで1941年に創業しました。後編ではこの3社を取り上げます。


アボット・ラボラトリーズ、ペースメーカーに強み

医薬品や医療機器を開発するアボット・ラボラトリーズの源流はシカゴの薬局にあります。薬局を所有する医師のウォレス・アボット氏が1888年に30歳でアルカロイドの顆粒を生産し、アボット・ラボラトリーズの歴史の第一歩を踏み出しました。


それから130年以上が経過し、アボット・ラボラトリーズはヘルスケア製品の世界的な大手に成長しています。現状で4つのセグメントに分かれており、最も売上高の規模が大きいのが医療機器部門です。



この部門では心臓疾患の治療に用いる機器が中心です。不整脈の治療に使うリズムデバイスでは体内に植込んで使用する心臓のペースメーカーや植込み型除細動器(ICD)が主力製品です。エレクトロフィジオロジーと呼ばれる分野では、細い管を用いて不整脈の原因となる異常な回路や部位を焼灼するカテーテルアブレーション治療で使うカテーテルに加え、心臓の状態を把握するのに役立つ3 次元マッピングシステムを開発しています。


このほか心臓疾患の領域では、左室補助人工心臓、肺動脈センサー、心臓疾患モニタリングシステム、急性機械的循環補助システムなどを提供。心血管疾患の分野では、狭心症や心筋梗塞の治療に利用する薬剤溶出型冠動脈ステント、血管アクセス部の止血デバイス、冠動脈バルーン拡張用のカテーテルなどを販売しています。


2023年12月期決算では、医療機器部門の売上高が前年比14.1%増の168億8700万ドル、営業利益が19.6%増の53億600万ドルと2桁の増収増益でした。全体に占める割合はそれぞれ42.1%、51.6%に達しています。


診断製品部門では検査・モニタリング装置や試薬を開発しています。肝炎やHIV、性病、インフルエンザなどの感染症を対象に検査・モニタリングの工程を全自動で処理する遺伝子解析システムなどを製品化しています。


免疫測定や輸血適合性検査など幅広い分野に対応しつつ、がんや心臓疾患、代謝疾患、甲状腺疾患、不妊症、神経系疾患などのスクリーニングや診断に使う装置も開発。インフルエンザやHIV、肝炎、マラリア、デング熱などの感染症に対応した検査キットも提供しています。


2023年12月期決算の診断製品部門の売上高は前年比39.4%減の99億8800万ドル、営業利益が63.4%減の24億3300万ドルで、全体に占める割合はそれぞれ24.9%、23.7%。同部門は新型コロナウイルスの流行で感染症診断の需要急増の恩恵を受けましたが、こうした要因が剥落したことで大幅な減収減益となりました。



栄養食品部門は、乳児用の粉ミルクやフォローアップミルク、大人用のプロテイン、栄養機能食品などを開発しています。アルギニンやグルタミンを配合したアミノ酸飲料の「アバンド」、液体タイプの経腸栄養剤「エンシュア」、栄養機能食品の「プルモケア」「グルセルナ」などを販売します。


栄養食品部門の売上高は9.3%増の81億5400万ドル、営業利益が88.8%増の13億3300万ドルで、全体に占める割合はそれぞれ20.3%、13.0%です。


医薬品部門は、消化器系、心血管・代謝系、婦人科系、中枢神経系、呼吸器系の疾患などの治療薬を開発しています。部門売上高は3.1%増の50億6600万ドル、営業利益は15.0%増の12億600万ドルで、全体に占める割合はそれぞれ12.6%、11.7%です。


メドトロニック、世界最大級の医療機器メーカー

メディカル(医療)とエレクトロニック(電子工学)という単語を組み合わせたメドトロニックは世界最大級の医療機器メーカーです。1949年に設立されており、2024年は創業75周年に当たります。


1957年に世界初の電池式ペースメーカーを開発した実績を持つだけに、今も心血管疾患の治療に使う医療機器に強みを持ちます。セグメントは心血管、神経科学、医療外科、糖尿病の4つです。


心血管部門はこの中で最も売上高が多く、2024年4月期決算の売上高は前年比2.7%増の118億3100万ドル、営業利益は1.1%減の44億7400万ドルで、全体に占める割合はそれぞれ36.6%、37.3%です。


この部門は不静脈や心不全の診断、治療、管理に利用する心臓のペースメーカーや植込み型除細動器(ICD)、心臓再同期療法デバイス(CRT‐D)、さらに細い管を用いて不整脈の原因となる異常な回路や部位を焼灼するカテーテルアブレーション治療で使うカテーテルやマッピングシステムを提供する事業が主力です。


また、大動脈弁狭窄症の患者を対象とする経カテーテル大動脈弁置換術用デバイス、患者の動脈内に移植する特殊な人工血管(ステントグラフト)なども開発。狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患の治療に使う医療機器も提供しています。


神経科学部門の対象になるのは、脳神経・脊椎疾患や筋骨格障害、神経血管疾患、急性虚血性脳卒中、耳鼻咽喉科の疾患、過活動膀胱、尿閉、本態性振戦、てんかん、ジストニアといった分野で、治療に使う医療機器や手術で利用する術中ナビゲーションシステムなどを開発しています。2024年4月期決算の売上高は前年比5.0%増の94億600万ドル、営業利益は6.1%増の39億4000万ドルで、全体に占める割合はそれぞれ29.1%、32.9%です。



医療外科部門では、外科治療に使う製品の開発と販売を手掛けます。外科用ステープラーや血管シーリング機器、創傷閉鎖製品、ロボット支援手術システム、内視鏡モジュールなどの製品群を持ちます。2024年4月期決算の売上高は前年比5.4%増の84億1700万ドル、営業利益は4.0%増31億7000万ドルで、全体に占める割合はそれぞれ26.0%、26.5%です。


糖尿病部門では、患者が自らインスリンを注入するインスリンポンプや血糖値モニタリング・システムなどを提供します。2024年4月期決算の売上高は前年比10.0%増の24億8800万ドル、営業利益は2.9%増の3億9400万ドルで、全体に占める割合はそれぞれ7.7%、3.3%です。


ストライカー、手術支援システムや内視鏡を開発

ストライカーは医療機器の大手です。主力部門は医療外科&脳神経技術、そして整形外科&脊椎治療に分かれています。医療外科&脳神経技術では、3D画像モニターとロボットアームを組み合わせた手術支援システム、内視鏡と通信システム、患者の緊急搬送に使うストレッチャー、整形外科用の使い捨て製品、急性虚血性脳卒中の低侵襲治療用製品、脳神経外科の治療で使う手術用の機器などの開発と製造を手掛けています。


医療外科&脳神経技術部門は2023年12月期の売上高が前年比11.5%増の118億3600万ドル、営業利益が21.9%増の33億3600万ドルです。全体に占める割合はそれぞれ57.7%、58.2%です。この部門の中ではストレッチャーや整形外科用の使い捨て製品などのメディカル事業の売上高が34億5900万ドルで最も多く、内視鏡事業(30億3300万ドル)、手術支援システムなどの装置事業(25億6900万ドル)がこれに続きます。


整形外科&脊椎治療部門では、人工関節などのインプラント製品を開発しています。外傷や四肢損傷の治療に使う製品をはじめ、股関節、膝、肩、脊椎などのインプラント製品が主力です。



また、整形外科領域の手術支援ロボット「Makoシステム」も開発しています。このシステムではコンピューター断層(CT)撮影画像をベースに手術の計画を策定し、ロボットアームを使って人工関節手術を支援します。


整形外科&脊椎治療部門は2023年12月期の売上高が前年比10.5%増の86億6200万ドル、営業利益が4.5%増の23億9900万ドルです。全体に占める割合はそれぞれ42.3%、41.8%です。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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