【米国株インサイト】不動産サービス(後編):産業の懐は深く、テック系も存在感

米国では商業や工業物件への投資が盛んで、S&P500の不動産セクターに採用されている銘柄では不動産投資信託(REIT)が時価総額の上位を占めています。といっても運外部の運用会社がポートフォリオの入れ替えを請け負う信託型ではなく、自己で管理・運用を手掛ける会社型が多いようです。


自ら不動産権益を買い取ったり、売却したりするため、いわゆる不動産投資会社に近い事業形態ですが、何がREITと不動産投資会社を区別するかというと、米国の場合、それは税制です。REITでは課税対象利益の90%以上を配当として投資家に分配するといった特定の条件をクリアすれば税制の優遇措置が受けられるのです。


時価総額上位のREITは、携帯電話の通信基地局や放送タワーなどの不動産で運用するアメリカン・タワー(AMT)、主にデータセンターに投資するエクイニクス(EQIX)、老人ホームや医療機関などヘルスケア関連の不動産に投資するウェルタワー(WELL)、ショッピングセンターなどの商業施設の不動産で運用するサイモン・プロパティー・グループ(SPG)などそれぞれ強みを持つ分野が異なります。


米国は不動産セクターの懐も深く、多様なプレーヤーが多様なサービスを提供しています。今回はREITではなく、不動産サービスのCBREグループ(CBRE)と商業用主体の不動産テックであるコスター・グループ(CSGP)をご紹介します。


CBREグループ、不動産サービスの世界的な大手

CBREグループは不動産サービスの世界的な大手です。S&P500に採用されており、不動産セクターでは上位を独占するREITを除けば時価総額が最大の銘柄です。世界100カ国以上の不動産所有者や投資家、居住者、テナントにサービスを提供しています。


2023年12月期決算は売上高が前年比3.6%増の319億4900万ドル、純利益が29.9%減の9億8600万ドルです。利益率の高い事業の売上高が減り、全体の採算が悪化しました。



セグメント別では助言サービス部門の売上高が14.0%減の84億9900万ドル、営業利益が28.6%減の13億6400万ドルと落ち込みました。売上高全体に対する割合は26.6%にすぎませんが、営業利益の割合は52.3%と過半に達しています。


この部門では不動産リースと不動産販売の仲介が主力事業です。オフィスや商工業不動産の所有者や投資家、テナントを対象に助言サービスを提供し、リースや売買を仲介します。住宅ローンサービスでは投資銀行や銀行、信販会社などと利用者を結びつける仲介業務に加え、住宅ローンの提供も手掛けています。


不動産管理はオフィスや商工業不動産のオーナーに提供するサービスです。マーケティングや建物の管理、金融サービスなどを含みます。また、査定サービスは不動産価値の評価、ディスカウントキャッシュフロー(DCF)分析、事業化調査などを請け負うと同時に助言業務も展開します。


売上高で最大のセグメントがグローバル・ワークフロー・ソリューション部門で、売上高は前年比13.4%増の225億1500万ドル、営業利益が11.9%増の10億600万ドルと2桁の増収増益です。全体に占める割合はそれぞれ70.5%、38.6%です。



この部門では商業不動産のテナント向けに施設管理を手掛けます。顧客には「フォーチュン500」にランクされるような大手企業も含まれ、オフィス管理を外部委託する企業の需要を取り込んでいます。プロジェクト管理は商業不動産やインフラ、天然資源セクターを対象に建設管理やコスト管理を手掛けてます。


不動産投資部門は売上高が14.2%減の9億5200万ドル、営業利益が53.9%減の2億3900万ドルです。全体に占める割合はそれぞれ3.0%、9.2%です。不動産投資と不動産開発に分かれ、投資事業では2023年末時点で管理する資産が1450億ドルを超えています。不動産開発は米国や欧州で住宅開発などを手掛けています。


コスター・グループ、商業用主体の不動産テック

コスター・グループは商業用に重点を置く不動産テックです。米国と英国の商業不動産を対象にオンライン・マーケットプレイスを運営しています。ユニークビジター数で最大を誇り、情報や分析、マーケティングサービスなども充実しています。


商業不動産情報を提供するオンラインプラットフォームが「コスター」です。オフィスや工業物件、小売店、ホテル、学生寮などの不動産の情報を掲載します。「コスター」は定額課金ベースのサービスです。


「コスター」では物件を賃貸または販売物件を紹介する「プロパティー」、会員にリース物件の分析ツールを提供する「リーシング」、過去の不動産取引のデータベースを載せた「セールス」、市場分析に使う「マーケット・アナリティクス」など多様な機能やツールを提供します。創業35年の実績を背景にした膨大なデータベースが強みです。


2023年12月期決算では「コスター」部門の売上高が前年比10.5%増の9億2500万ドルでした。全体の売上高は12.5%増の24億5500万ドル、純利益は1.4%増の3億7500万ドルです。「コスター」部門の売上比率は37.7%ということになります。



マルチファミリー部門はマンションの賃貸や売買を仲介する「アパートメント・ドットコム」を展開しています。不動産の管理会社やマンションのオーナーが広告を掲出し、広告料を受け取ります。部門売上高は22.6%増の9億1400万ドルで、売上比率は37.2%です。


このほか「ループネット」部門も商業不動産の販売・リースの情報を掲載するウエブサイトを運営しています。売上高は前年比14.7%増の2億6500万ドルで、売上比率は10.8%です。


コスター・グループは住宅不動産のオンライン・マーケットプレイス事業にも力を入れています。2021年には「ホームズ・ドットコム」を買収し、事業の拡張を進めているようです。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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