医療人材の確保に定評がある北海道医療大学は、プロ野球の新球場を建設した札幌近郊の北広島市に移転することを決め、影響が広がっています。日本が向き合う少子化問題は、大学経営にとっても大きな課題です。
一方で大学という「賃貸経営の大原則」が撤退となれば、その地で多額の資金を投じ、賃貸経営をしていた土地オーナーにとっても一時大事です。大学移転のニュースに見る「令和の賃貸経営」を考えます。
駅名にまでなった大学が移転
北海道医療大学は、人口約15,000人の石狩郡当別町にあります。1985年にそれまでの校舎を廃止して当別町に移転しました。この地には学園都市線が敷設されており、その終着駅は「北海道医療大学駅」と大学名が採用されています。
先日、2028年を目途に当別町から札幌市の隣町である「北広島市」に校舎を移転するという発表がなされ、大きな話題になりました。その後の交渉で、一部校舎は当別町に残すことで合意されたとも報道されています。
大学移転のニュースに見る「令和の賃貸経営」
大学の移転は小売店や飲食店などに大きな影響をもたらします。そのなかで、本記事で取り上げるのは「賃貸経営への影響」です。
賃貸経営は土地オーナーが建物を建て、入居者を集めることで成立します。一定の入居率が維持できれば安定的な資産運用になるものの、想定していたよりも入居率が下落すると、不動産ローンの返済のために資金の補填をする可能性もゼロではありません。
従来から賃貸経営は「ベストの状況」を想定して意思決定します。建築会社やハウスメーカーが持ち込む事業計画書は、入居率が90%以上というケースも少なくはありません。これまでは計画書の数字が達成できていたとしても、今後の少子化において、現役世代の減少が影響する数字でもあることは確かです。
大学移転は「予測できるもの」か
入居率(=賃貸運営の成功率)を想定するときに、大学の有無や大企業の工場の存在などは意思決定を大きく動かします。現在大学に通う学生は重要な入居見込み客であることに加え、「これから大学に入って来る世代」も継続して賃貸物件への入居を検討してくれることでしょう。
一般的な住宅街だと、ワンルームの需要が高い時期とファミリータイプの需要が高い時期など、ここに「ブレ」が生じます。ところが大学の入居者は、ワンルーム寄りの入居を希望します。数年で退去してしまうリスクを補うだけの「安定的な供給」が期待できることから、大学周辺は賃貸経営が活発化してきました。これは同様に、大企業の工場周辺でもいえることです。
「令和の賃貸経営の」のあらたなリスクとは
大学経営において、昨今の日本が直面する少子化は大きな経営リスクです。JRに大学の駅名が着くなど自治体から全面的にバックアップしてもらっていたとしても、今後の受験生が減少すれば、大学経営にとって大きなリスクとなります。
北海道医療大学の移転する北広島市は、プロ野球チームの本拠地誘致に成功し、現在北海道のなかで群を抜いて活況を迎えている地域です。街自体が「教育とスポーツの一体化」を示唆しており、何かしらの大学誘致の可能性は予測されていました。
賃貸経営は、ニーズが無くなったからといって即座に撤退できるものではありません。また個人若しくは小規模の法人で運営している以上、撤退による損切りリスクを受け入れられるものでもありません。今後大学の旧地に残る賃貸物件は、学生の入居ニーズに変わるものを探していくことになりますが、そもそも自治体が13,000人のという人口規模感では、きわめて難易度の高いものと考えられます。
現在のニーズが「無くなる」可能性を考える
とはいえ、対策として確固たるものはありません。リスクヘッジとしては、賃貸経営を始めるか否かの意思決定のときに、以下の可能性を考えるべきです。
大学が撤退する可能性はあるか
大学の近くに賃貸経営を検討する土地があったとしても、その大学がいつまでもあると絶対視しないことが大切です。5年前後の志望者数、定員割れの状況などを調べたうえで、継続性を検討しましょう。社会学部や最新のテクノロジー系など、今後世の中に必要とされるジャンルか否かを確認することも効果的です。
工場が撤退する可能性はあるか
上場企業であれば、会社全体の業績は決算書や四半期報で確認することができます。全体の景況感のほかに、該当の向上で何を作っているのかも拾うことができれば、より深い分析が可能でしょう。その製造ラインが会社全体の主力なのか、それとも買収の可能性があるような「再編候補」なのかによって、工場の撤退を予測することができます。
大学や工場が撤退したあとでも、その土地が都市部などにあり、あらたな誘致が期待できる可能性もあります。このあたりは企業誘致に対する自治体の積極性から判断するようにしましょう。令和の賃貸経営は、少子化によるリスクを踏まえたうえでの安定性の高い方法です。初期投資をかけてから大前提が崩れないように、事前調査を徹底しましょう。