自動車版サブプライムローンに暗雲

このところ、サブプライム層の自動車ローン会社が破綻したことが一部で話題となっています。サブプライムは信用力が低い、いわゆる低所得者層のことをさします。


サブプライムというワードを聞くとリーマンショックを想起しますが、今回は住宅ではなく自動車。一体何が起きているのでしょうか。分かりやすくまとめていきたいと思います。


自動車ローン会社などが相次ぎ破綻

サブプライム向けの自動車ローン会社であるトライカラー・ホールディングスが突如として破綻しました。同社には9月9日に不正疑惑の報道があったとのことですが、その数時間後に清算申請(Chapter 7)を出すといった驚きの結末を迎えています。


なぜ破綻に至ったのか、まとめると以下のようになります。

(1) トライカラーは中古車販売と自動車ローンをセットで提供する事業モデルだった。

(2) ローンをまとめて「資産担保証券(ABS)」として証券化し、投資家に売ることで資金を回収。その資金をもとにさらにローンを貸す

(3) 複数の銀行に同一担保として差し入れていた(二重担保設定) 疑いが伝わる

(4) これを受けて銀行が資金の引き締めに動き、資金繰りが悪化

(5) トライカラーが組成したABSも信用力が低下し売れなくなる

(6) 自力での資金調達ができなくなり破産申請


不正を行ったことがすべての元凶ではありますが、サブプライム向けということもあり貸し倒れのリスクが高い事業です。ここ数年で自動車価格が高騰していること、自動車の差し押さえが急増していることを踏まえると、低所得者層の厳しい状況が容易に想像できます。



なお、報道では同社の融資先の多くは不法移民とみられるようで、もともとグレーな事業だったことが伺えます。


トライカラーのほかにも、米自動車部品メーカーのファースト・ブランズ・グループが破綻しました。この会社は点火プラグやブレーキなど自動車の部品を手掛け、非上場ながら大手です。


こちらの破綻の経緯をまとめると以下のようになります。

(1) 売掛金を担保にした資金調達が「実際どう処理しているのか分かりにくい」と外部から指摘

(2) 投資家や銀行から「財務の中身を詳しく示してほしい」と言われたが、会社側は十分な返答ができず

(3) 信用力が落ちたことで、同社の社債が暴落

(4) 新たな借り入れや借り換えが困難に

(5) 資金ショートを起こし破産申請


なお、裁判所に提出された書類によれば負債総額は推計で100~500億ドルとのことで、現状でははっきりしたことは分かっていません。日本円換算だと、1ドル150円として1.5兆円~7.5兆円です。とんでもない額ですね。


MBSに比べれば市場規模は小さい

リーマンショックの引き金となったのはABSの一種であるMBS(住宅ローン担保証券)の暴落です。MBSの市場規模は非常に大きく、24年時点でおおよそ7兆ドル(1ドル150円換算で1000兆円以上)とされます。


市場規模でいうと米国債>MBS>投資適格社債であるため、日本ではマイナーかもしれませんが米国ではメジャーな金融商品。東証プライム市場の時価総額が大体1000兆円であることから、MBS市場の大きさが実感できますね。


一方で、今回のトライカラーが発行していた自動車ローン資産担保証券の市場規模は800億ドル(1ドル150円換算で12兆円)程度とされます。MBSと比べればだいぶ小さいので、これが直接的な金融危機を引き起こす可能性は小さいでしょう。


ただ、リーマンショックの引き金となったMBSは、当初は住宅ローンを証券化しただけのいわゆる債券のような商品でした。それがどんどんと複雑化していき、誰が何に投資しているのか、どれほどのリスクが存在しているのかがよくわからない状態になった経緯があります。


自働車ローン担保証券も中身は違えどMBSと似たような性質を持つ金融資産であるため、複雑化した商品がないとは言い切れません。また、自動車ローンだけでなく、クレジットカード債権、学生ローン、リース料債権など種類が豊富なので、自動車が危ない→クレジットカードも危ないかも→ほかも危ないかも…といったように連鎖反応が起こることはあり得ます。



日本も物価高や実質賃金の停滞から格差は広がる一方で、生活苦の声は強まるばかりです。ただ、米国では日本をはるかに超える物価上昇と格差であり、それによって生じた歪はとんでもなく大きいものではないかと思われます。


そういった闇の部分が表に出てくることで再び金融危機を引き起こしてしまうのか、それともうまく解消するのかは今後次第ですが、杞憂で終わることを祈ります。


日本株情報部 アナリスト

畑尾 悟

2014年に国内証券会社へ入社後、リテール営業部に在籍。個人顧客向けにコンサルティング営業に携わり、国内証券会社を経て2020年に入社。「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別銘柄を中心としたニュース配信を担当。 AFP IFTA国際検定テクニカルアナリスト(CMTA)

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