バフェットから株主への手紙 5大商社株が急騰も意外な落とし穴

2月22日に、バークシャーハサウェイ社のウォーレン・バフェット氏から株主への手紙が公開されました。


同日付の日本経済新聞電子版では、「バフェット氏、日本の商社株買い増し意欲 株主への手紙」として、同手紙の内容を紹介しており、日本の5大商社への投資拡大に意欲を示したと報じています。


こうした流れを受けて、連休明けの25日には株式市場でも商社株が非常に注目を集めました。バフェット氏が商社株を買い増すのでは、との期待から三菱商事<8058.T>は同日のプライム市場上昇率トップ、前日比9%高。そのほか、投資している5大商社は軒並み高と、同氏の影響力の高さを改めて知らしめる物色動向となりました。


バークシャーハサウェイは円債を発行し、円で資金を調達してNational Indemnity Companyを通じ商社株を購入したわけですが、ドルベースでみた場合、投資額138億ドルに対し、保有株式の時価総額は235億ドルにまで膨らんでいると同手紙のなかで説明しています。



バークシャーハサウェイの5大商社保有割合(2023年6月時点)

大量保有報告書よりDZHFR作成


話を戻しますが、株主への手紙をよく読むと、今後どんどんと買い増していく、と宣言しているわけではないことに注意する必要があると考えます。


前述した日本経済新聞の記事では、投資する商社の株式保有上限は10%未満としていたが「上限を適度に緩和することで5社と合意」しており「時間の経過とともに持ち分比率はいくらか上昇することになる」との訳文を掲載していました。


なるほど、たしかにバークシャーハサウェイは日本の商社に対する投資について、保有割合の上限を10%にとどめるとしていましたし、その上限に近づいていたからこそ、買い増し期待が後退していた部分もあったと思います。今回、株主への手紙でその上限を緩め、保有割合が上昇していくだろうとの見通しを記したのは、商社株の買い増しに対する期待を高める内容なのは確かでしょう。


しかし、もう一度先ほどの内容について、英語の原文を見てみましょう。こちらの内容はバークシャーハサウェイのHPで確認することができます。


Our holdings of the five are for the very long term, and we are committed to supporting

their boards of directors. From the start, we also agreed to keep Berkshire’s holdings below 10% of each company’s shares. But, as we approached this limit, the five companies agreed to moderately relax the ceiling. Over time, you will likely see Berkshire’s ownership of all five increase somewhat. 


一番最後の「Over time, you will likely see Berkshire’s ownership of all five increase somewhat」の部分が、時間の経過とともに持ち分比率はいくらか上昇することになると訳されているところですね。


重要なのはここには「Buy(買う)」という単語は出てきていないということです。あくまで保有割合が上昇すると説明しています。同じことではないのかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、必ずしもそうとは言えません。


例えば、商社各社は株主還元に注力しており、配当のほか自社株買いも実施しています。会社が自社株として取得することで、株主の保有株数が変わらなくとも保有割合が上昇するケースがあります。ソフトバンクグループが兆円単位で自社株買いを積極的進めていた時に、孫正義氏の保有割合が上昇したことがありましたが、それと同じことが商社株にも言えるわけです。


前述した英語原文の最初にも記されていますが、バフェット氏は日本株への投資を長期投資であるとしています。今後5年、10年と保有するなかで各社が自社株買いを継続して実施していけば、バークシャーハサウェイの保有割合は上昇していくことが見込まれますから、それを考慮して今のうちに上限を緩めるとことで5社と合意したということもあり得そうな話です。


もちろん、実際に買い増していく可能性もありますが、バフェット氏のニュースだけを判断材料に今から商社株を買うのがより良い選択であるかどうかは、落ち着いて今一度検討する余地があるのではないでしょうか。



日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

斎藤 裕昭の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております