米8月雇用統計、好結果の裏で黒人の労働指標に変化の兆し

米8月雇用統計は、非農業部門就労者数(NFP)が堅調なペースで増加し、失業率が上昇しつつも労働人口の増加に伴う労働参加率の改善が影響した格好です。


その他、性別や人種などではどうなったのか。詳細をみると、男女での労働参加率の改善ペースに違いを確認したほか、労働市場の悪化に敏感とされる黒人の労働指標に変化の兆しが表れていました。


労働参加率、改善をリードしたのは女性


〇労働参加率


労働参加率は62.4%と前月の62.1%から改善、2020年3月以来の水準を回復した3月(62.4%)に並んだ。働き盛りの男性(25~54歳)をみると、25~54歳、25~34歳ともに全米では改善も、白人層では逆に低下した。以下は全米男性が季節調整済みで、白人は季節調整前となる。


・25~54歳 88.6%、3ヵ月ぶりの水準を回復>=前月は88.4%、2月は88.8%と20年3月以来の高水準、20年2月は89.1%

・25~54歳(白人) 89.3%<前月は89.4%、3月は90.0%と20年3月(90.3%)以来の高水準、20年2月は90.6%

・25~34歳 88.7%>前月は88.3%と6ヵ月ぶりの低水準、4月は89.5%と19年11月以来の高水準だった

・25~34歳(白人) 89.2%、21年9月以来の低水準<前月は89.5%、3月は90.5%と20年2月(90.7%)以来の高水準


チャート:働き盛りの男性、全体では上昇も白人男性は低下 


男性と一線を画し、働き盛りの女性は25~54歳と25~34歳そろって大幅改善しただけでなく、後者は統計開始以来で最高を記録した。


・25~54歳 77.2%、2000年4月以来の高水準>前月は76.4%

・25~34歳 78.6%、1997年1月の統計開始以来で最高>前月は78.0%


〇男女別の労働参加率と失業率


男女別の労働参加率は、そろって上昇した。男性は21年7月以来の低水準だった前月の67.6%から67.8%と6月の水準へ戻した。女性は57.1%と、20年3月の水準を回復した。


チャート:男女別、労働参加率、直近は女性が上向き


男女の失業率は男女ともに労働参加率の改善につれ、上昇。男性は前月こそ20年2月の低水準だった3.5%から3.8%へ上向いた、女性も、20年2月の低水準だった前月の3.4%を上回り。3.5%をつけた。


チャート:男女別の失業率は、働き盛り世代で労働参加率が改善した女性で上昇

 

人種別では、黒人の労働指標で弱さが目立つ


〇人種・男女別の就業者、20年2月比

人種・男女別の就業者数を20年2月比でみると、引き続き黒人男性を始めヒスパニック系男性、ヒスパニック系女性がプラスだった。ただし、増加幅を広げたのはヒスパニック系のみで、ヒスパニック系女性のみ3.7%増と、6ヵ月間で増加したなかで最大の伸びを記録した。一方で、黒人男性は前月の6.8%増→5.9%増へ伸びを縮小、5月の9.5%増でピークアウト感が漂う。黒人女性も前月の0.4%減→1.9%減と悪化した。白人は男女ともマイナス圏で推移するが、これは早期引退の影響が大きい。


チャート:男女・人種別の就業者数、20年2月との比較 


〇人種別の労働参加率、失業率


人種別の労働参加率は、黒人を除き上昇。黒人は8ヵ月ぶりの水準に低下した。一方で、白人は前月まで4ヵ月連続で横ばいだったものの、今回は上向いた。ヒスパニック系は前月比で1.1%ポイントも急伸。アジア系も上昇が目立った。


・白人 62.1%>前月は4ヵ月連続で61.9%、3月は62.3%と2020年3月(62.6%)以来の水準を回復、20年2月は63.2%

・黒人 61.8%、8ヵ月ぶりの低水準<前月は62.1%、5月は63.0%と20年2月(63.2%)以来の高水準

・ヒスパニック系 66.8%、20年3月(66.9%)以来の水準を回復>前月は65.7%と21年10月以来の低水準、20年2月は68.0%

・アジア系 65.3%、2021年10月以来の高水準>前月は64.9%

・全米 62.4%、2020年3月(62.7%)以来の水準を回復した3月の水準に並ぶ>前月は62.1%、20年2月は63.3%


チャート:人種別の労働参加率、黒人とアジア系が上昇

 


人種別の失業率は、労働参加率が改善する過程で上昇。ただし、労働参加率が低下したたにも関わらず黒人は前月に続き上昇した。


・白人 3.2%>前月は3.1%と20年2月(3.0%)以来の低水準

・黒人 6.4%、6ヵ月ぶりの水準へ切り返し>前月は6.0%、6月は5.8%と19年11月以来の低水準

・ヒスパニック系 4.5%、7ヵ月ぶりの水準へ切り返し>前月は3.9%と過去最低

・アジア系 2.8%>前月は2.6%、5月は2.4%と2019年6月以来の低水準

・全米 3.7%>前月は3.5%と20年2月の水準に並ぶ


チャート:失業率は白人を始め全て上昇、特に労働参加率が改善したヒスパニック系で目立つほか、黒人も大幅上昇 


白人と黒人の失業率格差は、拡大。白人は労働参加率が改善し失業率が上昇した一方で、黒人は2ヵ月連続で労働参加率の低下にも関わらず失業率が大幅上昇したためで、失業率格差は3.1%ポイントと、前月の2.9%から拡大し6ヵ月ぶりの水準へ拡大。6月に2.5ポイントと20年4月以来の水準に低下した水準から上昇を続け、トランプ前政権で記録した19年8月の1.9ポイント超えの水準を保つ。


チャート:黒人と白人の失業率格差、6ヵ月ぶりの水準へ拡大


黒人の労働指標の悪化、中間選挙や米大統領選に影響も


以上、米8月雇用統計の男女別、人種別の詳細のポイントは以下の通り。


①労働参加率は男女ともに改善、しかし働き盛り世代でみると白人男性は25~54歳、25~34歳そろって低下した。女性はむしろ、25~54歳、25~34歳ともに大幅に上昇し、人種や性別で違いが現れた

②男女とも失業率は上昇、特に男性で上昇が目立つ

③人種別では黒人が唯一、労働参加率が低下したにも関わらず、失業率も上昇。その他、ヒスパニック系は労働参加率の上昇に押し上げられたとはいえ、失業率が大幅上昇


このように、米8月雇用統計は堅調な労働市場の拡大を示した一方で、年齢や性別、人種など詳細をみると改善のペースはまちまちであることが分かります。黒人と白人の失業率格差も、拡大していました。


特に黒人の間での失業率の弱含みは、注意が必要です。そもそも、非営利団体のセンター・フォー・アメリカン・プログレス・ファンドによれば、過去の職業分離制度など社会的な構造が一因で黒人は他人種より職に就くことが困難だといいます。また、アメリカ労働総同盟・産業別組合会議のウィリアム・スプリッグ氏によれば、黒人の労働者の動向が労働市場の実態を表すと分析、企業が雇用ペースを鈍化する際には黒人が最初に困難に直面すると指摘します。


学生ローン返済免除の決定などもあって、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙の世論調査では、非白人や女性無党派層がけん引し民主党の支持率が改善する状況。労働市場が著しく悪化しない限り、このトレンドが暫く続く期待はあります。ただ、積極的なFedの利上げに加え、9月からは資産買入縮小ペースが2倍に引き上げられるだけに、パウエルFRB議長がジャクソンホール会合で言及したように、米経済に「いく分の痛み」をもたらすリスクに留意すべきでしょう。そして、その痛みを最初に受けるのが、民主党支持者が多い黒人であれば、中間選挙だけでなく米大統領選に影響を与えそうです。


ストリート・インサイツ

金融記者やシンクタンクのアナリストとしての経験を生かし、政治経済を軸に米国動向をウォッチ。NHKや日経CNBCなどの TV 番組に出演歴があるほか、複数のメディアでコラムを執筆中。

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