香港証券取引所、世界7位の取引所に上場する日本企業の正体とは?

今回から香港証券取引所とそこに上場している主要銘柄などを順次紹介していきたいと思います。香港証券取引所は2021年末時点の時価総額で5兆4300億米ドル(約776兆4900億円)、世界7位の規模を誇ります。上海市場や深セン市場と同じく、香港市場も大型企業向けの「メインボード」と、中・小型企業向けの「GEM」に分けられ、取引の中心は「メインボード」の方です。東京証券取引所でいうところの「プライム市場」や「スタンダード市場」に相当するような位置付けです。



香港市場に上場する企業のほぼ半分は中国系企業


香港市場は、もともと旧宗主国である英国系もしくは香港地場銘柄が中心でしたが、1993年に中国本土登記のH株銘柄の第1号として青島ビール(00168)が香港市場への上場を果たします。その後、2000年代に入ってからはさらに多くの中国系企業が上場先として香港市場を選ぶようになり、2021年末時点で中国系企業(H株、レッドチップ、本土民営企業)は企業数で全体の約5割、時価総額で全体の約8割を占めるに至っています。いまや中国系企業が香港市場の中心となっているのです。



香港市場にはさまざまな国・地域の企業が上場している


中国系以外では、どういった国・地域の銘柄が多いのでしょうか。香港証券取引所が公表している資料によると、以下のようになっています。



最も多いのはケイマン諸島やバミューダ諸島といったタックスヘイブンに登記した企業で、中国の民営企業の多くはこれらの地域に登記して上場しています。タックスヘイブンを除くと、中国・香港以外で最も多いのはシンガポールの11社が最多です。そして、カナダが5社、豪州・英国が3社と続き、日本企業も3社が上場しています。東京証券取引所に単独上場する外国企業は4社しかありませんので、それに比べると香港市場はさまざまな国・地域の企業を受け入れていることが分かります。


外国企業が香港に上場する理由はさまざまで、単に中国企業が外国で登記しただけのケースもありますし、主に中国市場で事業展開をしているからというケースもあります。香港を窓口に中国市場を開拓しようとする企業もありますし、香港ドルでの資金調達が必要だったからというケースもあるようです。


香港市場に上場している日本企業の正体とは?


ちなみに、日本の3社はどんな企業かというと、パチンコホール運営会社のダイナムジャパン(06889)とニラク(01245)、そして「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング(06288)の3社です。このうちファーストリテイリングは、東京証券取引所との重複上場で、香港市場には香港預託証券(HDR)という特殊な形で上場しています。


実はあと1社、パチンコホール運営会社が上場しています。九州地盤のオークラ・ホールディングス(01655)ですが、こちらは上場会社を香港に登記しているため、香港企業という扱いになっています。


パチンコホール運営会社は、風俗営業法の規定により、「現金又は有価証券を賞品として提供すること」が禁止されているので、パチンコホールが自ら出した景品を現金で買い取ると違法になってしまいます。そのため、パチンコホール運営会社は、第三者が運営する「景品交換所」と「景品卸問屋」を間に介在させることで、実質的に出玉を現金と交換できるようにしているのですが(いわゆる「三店方式」)、この方法は必ずしも合法とは言い切れないグレーゾーンです。


東京証券取引所は「換金行為に違法性がある可能性がある」として、投資家保護の観点から上場を認めない立場を取っていますので、現状で上場しようと思ったら、海外に出て行かざる得ないのです。香港市場には形態の似ているカジノ企業が複数上場しているので、投資家に認知されやすいという狙いもあって香港市場を選んだようです。



香港市場はITと金融が中心


香港市場に上場する企業の業種別の内訳も見てみましょう。2021年末時点の時価総額はITが30%、金融が17%となっています。ITと金融の2業種だけで5割近くを占めているのです。



2017年末時点では金融が28%を占めていましたが、2021年末時点では17%に縮小しています。一方、ITのウエートはこの4年で2倍に拡大しています。中国の有力IT企業の多くが香港市場に上場して時価総額を押し上げてきたのです。


中国を代表するIT企業であるBAT(百度、アリババ、テンセント)のほか、スマホやIoT家電の小米集団(01810)、出前アプリの美団(03690)といった新聞でよく名前を見かける企業も、上海や深センではなく、香港市場に上場しているのです。成長が期待されるIT銘柄を手っ取り早く探そうと思ったら、香港市場の銘柄から探してみるとよいかもしれません。



中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

池ヶ谷 典志の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております