中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:中国蒙牛乳業(7) 積極的な提携と買収で事業領域を拡大、再びトップに立つ日は来るか?

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄もたくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄をハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していきます。今回は中国の乳業大手、中国蒙牛乳業(02319)の最終回です。


▼参考

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積極的な提携と買収で事業領域を拡大


再び追う立場となった中国蒙牛乳業(02319)ですが、中糧集団(COFCO)の支援のもと買収や提携を積極的に進めていきます。2010年にヨーグルト事業を手掛ける石家荘君楽宝乳業を買収すると、2012年にはデンマークの乳業大手アーラ・フーズとの戦略提携を発表。アーラ・フーズから世界基準の品質管理技術を導入し、メラミン事件で傷ついた食の安全への信頼回復を進めます。


翌2013年には香港証券取引所に上場していた雅士利国際(当時の証券コードは01230)も買収。雅士利国際を足がかりに、粉ミルク事業へと領域を広げていきます。2017年には原料乳を手掛ける中国現代牧業(01117)を連結対象に加えて川上部門を強化。2019年にはオーガニック粉ミルクを手掛ける豪州のベラミーズも買収します。2021年にはチーズの国内最大手、上海妙可藍多食品科技(600882)の株式を取得して筆頭株主となり、新たにグループに組み入れます。


出所:会社発表資料を参考に筆者作成


こうして中国蒙牛乳業は中糧集団の支援のもと、提携や買収を通じて乳製品全般へと事業領域を拡大させていったのです。2017年は蘭ラボバンク発表の世界乳業番付で、悲願だったトップ10入りを実現します。


一方、2019年に石家荘君楽宝乳業を売却したり、2022年に仏ダノンと業務提携を解消したりと、すべてが順風満帆といったわけではありませんでしたが、その後も世界トップ10圏内を維持し、ライバルである内蒙古伊利実業集団(600887)としのぎを削っています。


蒙牛の社名とロゴ、あふれる「内モンゴル愛」


最後に中国蒙牛乳業の社名について触れておきます。「蒙牛(もうぎゅう)」と「猛牛(もうぎゅう)」が同じ読みなので、どうしても荒々しいイメージがつきまといますが、「蒙牛」の「蒙」は創業の地である内蒙古(内モンゴル)自治区を指しています。


そして「牛」については乳製品メーカーであることを分かりやすく示すとともに、創業者である牛根生氏の姓でもあります。創業当時、国内にさまざまなブランドが乱立していたこともあり、短くシンプルで、かつ覚えやすい社名であることを重視したようです。


ロゴについても非常にシンプルです。デザインしたのは、米アップル社のロゴデザインを手掛けたロブ・ジャノフ氏です。基調カラーの緑は蒙牛を育てた内モンゴルの大草原の色を表しており、「天然」「健康」「品質」を象徴。


右上の牛の角(つの)は強さの象徴であり、左下の川は文明を育んだ母なる大河である黄河を象徴しているそうです。「一滴一滴の栄養で、すべての生命を輝かせる」という使命を守りながら、消費者に最高の牛乳を提供し、人類と地球の健康を守るために貢献していくという決意を示しているのです。


緑を基調としたシンプルなロゴ 出所:中国蒙牛乳業HP


中糧集団の傘下になって古参幹部の多くは会社を去ってしまいましたが、いまでもこのミッションは受け継がれています。創業時のような勢いを取り戻し、再びライバルの内蒙古伊利実業集団に追いつくことはできるのか?中国蒙牛乳業の再挑戦に期待したいところです。



まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄


今回紹介した銘柄は、2004年に香港証券取引所のメインボードに上場し、2014年にハンセン指数に採用された、中国の乳製品大手・中国蒙牛乳業(02319)です。なお、香港市場の銘柄ではありませんが、ライバルである内蒙古伊利実業集団(600887)についても概要を掲載しておきます。


【中国の乳業大手】牛乳や乳飲料、ヨーグルト、アイスクリームなどを製造・販売する。蘭ラボバンク発表の24年世界乳業番付で9位。23年末時点で国内45カ所、豪州、NZ、インドネシア、フィリピンに生産拠点を持ち、年産能力は1404万トンに上る。国有の中糧集団(COFCO)が実質筆頭株主で、デンマークのアーラ・フーズと共同事業を展開。中国現代牧業(01117)や中国聖牧有機ダイ業(01432)、雅士利国際を傘下に抱える。


【アジア最大の乳業メーカー】乳製品と健康飲料の製造・販売が中核事業。「伊利」チーズ、「金典」低温牛乳、「金領冠」粉ミルクなどで知られる。米ニールセンによる23年小売額ベースの国内シェアは液体乳製品が31.6%、乳児用粉ミルクが16.2%。22年3月、澳優乳業(01717)を連結子会社化。海外ではニュージーランドのオセアニア・デイリーとウエストランド・デイリー、タイのチョムタナなどの子会社を抱える。


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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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