中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄もたくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄をハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していきます。今回は中国の乳業大手、中国蒙牛乳業(02319)の続きです。
▼参考
中国株の銘柄選び 中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本
業界首位の座を4年で明け渡す
2008年のメラミン事件で経営危機に陥った中国蒙牛乳業(02319)ですが、2009年に中糧集団(COFCO)の支援を受けて国有企業の傘下として再起を図ります。中糧集団は中国蒙牛乳業への出資に当たり、当初3年間は中国蒙牛乳業の経営に干渉しないことを約束します。メラミン事件によって当局の監督・管理が強まるなか、中小メーカーの淘汰も進みます。メラミン事件の影響で2008年に通期で9億4800万元の赤字を計上しましたが、その翌年の2009年には早速黒字を回復します。
ただ、その後の業績は勢いを欠き、内蒙古伊利実業集団(600887)とも次第に差が出てきます。メラミン事件前の2007年に業界首位に立った中国蒙牛乳業ですが、事件後の回収・廃棄費用を巡る対応で短期的な利益を優先させた結果、販売業者の不信を買って販売が伸び悩みます。
2011年6月には中国蒙牛乳業の創業者で会社の支柱でもあった牛根生氏が会長を辞任。非執行取締役として会社には残りますが、経営の一線からは身を引きます。
追い打ちをかけるように食品添加剤問題も浮上。2011年には基準値を超えるカビ毒の一種であるアフラトキシンが検出されるなど、食の安全対策が後手に回ります。そして2011年通期決算で内蒙古伊利実業集団に再び首位の座を明け渡してしまいます。わずか4年間の天下でした。
スポーツ広告を巡り激しいバトル
互いに創業者が経営を退いた中国蒙牛乳業と内蒙古伊利実業集団ですが、両社の争いは続きます。特にスポーツ競技での広告合戦は熾烈を極めます。
サッカーでは、2022年FIFAワールドカップ(W杯)カタール大会のスポンサーを中国蒙牛乳業が務めましたが、内蒙古伊利実業集団は世界的なスターである元イングランド代表のデービッド・ベッカム氏やポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウド選手らとアンバサダー契約を結んで対抗。アルゼンチン、ポルトガル、スペイン、ドイツの代表チームともスポンサー契約を結び、互いに広告合戦を繰り広げました。
伊利は蒙牛に対抗してポルトガル代表とスポンサー契約を締結 出所:伊利HP
五輪はさらに激しい争いとなります。2015年には水泳の中国代表メンバーの寧沢濤選手が、代表チームとパートナー契約を結んでいた中国蒙牛乳業とは別に、個人で内蒙古伊利実業集団とアンバサダー契約を結んでしまいます。
せっかく代表チームと契約したのに、代表選手が内蒙古伊利実業集団の宣伝をしていたのでは契約した意味がありません。中国蒙牛乳業は激怒します。中国蒙牛乳業は寧選手に契約の破棄と謝罪を要求。あくまで個人契約を重視したい寧選手は中国蒙牛乳業の要求を拒否。代表からの引退を宣言して大問題となったこともありました。両社の争いに選手が巻き込まれた一例です。
2024年のパリ五輪では、中国蒙牛乳業が米コカ・コーラ社と共同で五輪スポンサーの中で最高位の「ワールドワイド・パートナー」となります。テレビを通じて「蒙牛」のロゴを見たという人も多いことでしょう。一方、内蒙古伊利実業集団は中国代表団の乳製品公式サプライヤーとなります。
これとは別に飛び込みや水泳、バトミントンなど中国代表団のパートナーとなり、卓球の樊振東選手や孫穎莎選手、水泳の張雨霏選手ら複数の有力選手と個別にアンバサダー契約を締結。五輪を舞台に両社の広告合戦が繰り広げられました。
両社の広告費を含む販売費全体の金額を比較すると、2023年は中国蒙牛乳業251億9200万元に対して、内蒙古伊利実業集団が225億7200万元。売上高に占める割合は中国蒙牛乳業が25%、内蒙古伊利実業集団が18%に達しています。スポーツ競技は自社製品の安全性をアピールするには絶好の場。シェア拡大に向けて両社は広告に多額の資金を投入しているのです。
次回も中国蒙牛乳業の続きです。お楽しみに。
まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄
今回紹介した銘柄は、2004年に香港証券取引所のメインボードに上場し、2014年にハンセン指数に採用された、中国の乳製品大手・中国蒙牛乳業(02319)です。なお、香港市場の銘柄ではありませんが、内蒙古伊利実業集団(600887)についても概要を掲載しておきます。
【中国の乳業大手】牛乳や乳飲料、ヨーグルト、アイスクリームなどを製造・販売する。蘭ラボバンク発表の24年世界乳業番付で9位。23年末時点で国内45カ所、豪州、NZ、インドネシア、フィリピンに生産拠点を持ち、年産能力は1404万トンに上る。国有の中糧集団(COFCO)が実質筆頭株主で、デンマークのアーラ・フーズと共同事業を展開。中国現代牧業(01117)や中国聖牧有機ダイ業(01432)、雅士利国際を傘下に抱える。
【アジア最大の乳業メーカー】乳製品と健康飲料の製造・販売が中核事業。「伊利」チーズ、「金典」低温牛乳、「金領冠」粉ミルクなどで知られる。米ニールセンによる23年小売額ベースの国内シェアは液体乳製品が31.6%、乳児用粉ミルクが16.2%。22年3月、澳優乳業(01717)を連結子会社化。海外ではニュージーランドのオセアニア・デイリーとウエストランド・デイリー、タイのチョムタナなどの子会社を抱える。