中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:中国蒙牛乳業(5) 業界を揺るがした08年のメラミン事件、巨額の赤字で経営危機に

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄もたくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄をハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していきます。今回は中国の乳業大手、中国蒙牛乳業(02319)の続きです。


▼参考

中国株の銘柄選び 中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本


乳製品業界に激震、2008年のメラミン事件


絶好調の中国蒙牛乳業(02319)でしたが、2008年に業界に深刻な打撃を与える大事件がおきます。メラミン事件です。2008年と言えば、ちょうど北京で夏季五輪が開催された年です。


河北省石家荘を拠点とする大手粉ミルクメーカーの三鹿が製造した粉ミルクからメラミンが検出され、それを飲んだ子供が死亡するという事件が発生したのです。メラミンは窒素元素を大量に含む有機窒素化合物で、メラミン樹脂として主に工業用途で幅広く使われています。


しかし、食品として大量に体内に取り込むと腎不全などを引き起こし、健康被害につながる可能性が指摘されていました。食品中のタンパク質含有量は通常、窒素含有量で測定するため、メラミンを加えることで見かけのタンパク質含有量を増やすことができます。要するに水増しの偽装を行っていたのです。


死者が出たことで業界に激震が走ります。中国当局もすぐに調査に乗り出します。調査の結果は驚くべきものでした。三鹿だけでなく、他社の乳製品からも次々とメラミンが検出されたのです。そこには内蒙古伊利実業集団(600887)や蒙牛など大手も含まれていました。


蒙牛は自社で工場や物流機能を持たないアセットライト戦略を採用していたこともあり、製造や流通の過程でメラミンが混入する余地が大きかったようです。これまでの戦略が裏目に出ます。食の安全に対する信頼感が失われ、消費者離れが加速。死亡事件を起こした三鹿は倒産し、業界全体が深刻なダメージを受けます。


 

蒙牛商品の安全性を伝える張り紙 08年筆者撮影


回収・廃棄費用を巡る対応で明暗


各社は市場に流通している商品をすべて回収・廃棄することになります。大きな損失の発生は避けられません。蒙牛も対応を迫られます。ここで費用負担について各社の対応が分かれます。蒙牛は販売業者に対して折半による費用負担を求め、伊利は自社で全額負担することを選びます。蒙牛にとって費用負担は半分で済みますが、この発表が販売業者の反発を買います。蒙牛から伊利に乗り換える業者が相次ぎました。


蒙牛はメラミン事件をきっかけに安全管理体制を抜本的に見直し、24時間体制の監視システムを構築したり、すべての配送車両に全地球測位システム(GPS)を設置したりします。特別損失の計上に加え、製造コストや管理コストが膨らんで業績が急激に悪化。結局、2008年は下期の業績悪化が響いて通期で上場以降初めての赤字に転落します。


 

中糧集団が株式約20%を取得、民営企業から国有系企業に


蒙牛は巨額の赤字計上で苦境に立たされます。ここで蒙牛に助け舟を出したのが中糧集団(COFCO)でした。中糧集団は中国国務院が直轄する中央企業で、中国最大の穀物・食品企業グループです。中糧集団は2009年7月に蒙牛の株式約20%を取得。蒙牛の筆頭株主となります。


民営企業だった蒙牛は政府系資本の傘下に入り、国有系企業として生き残りを図ったのです。経営トップも交代します。創業者で会長の牛根生氏は経営の一線からは身を引き、後任の会長に中糧集団の寧高寧氏が就きます。牛根生氏はその後、徐々に個人の慈善事業に活動の軸足を移していくことになります。


 

中糧集団が株式20%を取得 出所:36Kr


次回も中国蒙牛乳業の続きです。お楽しみに。


まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄


今回紹介した銘柄は、2004年に香港証券取引所のメインボードに上場し、2014年にハンセン指数に採用された、中国の乳製品大手・中国蒙牛乳業(02319)です。なお、香港市場の銘柄ではありませんが、内蒙古伊利実業集団(600887)についても概要を掲載しておきます。


【中国の乳業大手】牛乳や乳飲料、ヨーグルト、アイスクリームなどを製造・販売する。蘭ラボバンク発表の24年世界乳業番付で9位。23年末時点で国内45カ所、豪州、NZ、インドネシア、フィリピンに生産拠点を持ち、年産能力は1404万トンに上る。国有の中糧集団(COFCO)が実質筆頭株主で、デンマークのアーラ・フーズと共同事業を展開。中国現代牧業(01117)や中国聖牧有機ダイ業(01432)、雅士利国際を傘下に抱える。


【アジア最大の乳業メーカー】乳製品と健康飲料の製造・販売が中核事業。「伊利」チーズ、「金典」低温牛乳、「金領冠」粉ミルクなどで知られる。米ニールセンによる23年小売額ベースの国内シェアは液体乳製品が31.6%、乳児用粉ミルクが16.2%。22年3月、澳優乳業(01717)を連結子会社化。海外ではニュージーランドのオセアニア・デイリーとウエストランド・デイリー、タイのチョムタナなどの子会社を抱える。


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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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