エーティー・アンド・ティー、源流はグラハム・ベル
エーティー・アンド・ティー(T)の歴史は多くの部分で電話の歴史と重なり合っています。源流は、電話を発明したグラハム・ベルが1877年に立ち上げたベル・テレフォンという会社です。1885年には、長距離電話を専門的に手掛けるアメリカン・テレフォン&テレグラフが設立されており、頭文字のAT&Tが現在の社名につながっています。
今も米国を代表する通信会社で、2024年末時点の携帯電話サービス加入件数は前年比3.6%増の1億1790万件、一般家庭のブロードバンドとデジタル加入者回線(DSL)の加入件数は1.4%増の1410万件、固定電話サービスの加入件数は17.8%減の296万3000件です。

セグメント別では携帯電話サービス部門が中核で、2024年12月期の売上高は前年比1.5%増の852億5500万ドル、営業利益は1.8%増の263億1400万ドルでした。セグメント全体に占める割合はそれぞれ72.5%、96.8%に達しています。このほかには法人向け回線部門と消費者向け回線部門があり、売上比率はそれぞれ16.0%、11.5%です。
エーティー・アンド・ティーは現在、通信ビジネスに集中していますが、過去の大型M&Aでは深手を負った経緯があります。通信とメディアの融合を旗印に掲げた取り組みでは、2015年に実現した衛星放送大手ディレクTVの買収が代表例ですが、失敗に終わっています。
買収額は負債を含めて約671億ドルに上りました。ただ、ネットフリックス(NFLX)などの動画配信サービスの台頭で、衛星放送の解約が相次ぎ、苦戦を強いられました。エーティー・アンド・ティーは2021年にディレクTVの運営会社の株式30%を手放すことで合意し、2024年には残りの70%を76億で売却することを決めています。単純計算で合計額は94億ドルにとどまっており、671億ドルという買収額とは大きな開きがあります。

さらに2018年にはメディアとエンターテインメントの複合企業、タイム・ワーナー(後にワーナーメディアに社名を変更)を買収します。買収額は約850億ドルで、ケーブルテレビ局のHBO 、ニュースチャンネルのCNN、映画のワーナーブラザーズなどを傘下に収めます。
この買収は司法省が独占禁止法に抵触するとして提訴し、すったもんだの末に連邦裁判所が承認して成立しましたが、統合は短命に終わりました。それからわずか3年後の2021年にはエーティー・アンド・ティーがワーナーメディアを分離し、ディスカバリーと統合させる計画を発表しました。2022年には実現し、ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)がナスダック市場に上場しています。
チャーター・コミュニケーションズ、インフラ投資を継続
チャーター・コミュニケーションズ(CHTR)は米国でケーブル事業を展開しています。41州に敷設した通信インフラを武器にケーブルテレビをはじめ、インターネット、動画、携帯電話、固定回線通話など多様なサービスを「スペクトラム」というブランドで提供しています。

サービスは定額課金ベースで提供します。利用者は複数のサービスを束ねた「バンドル方式」で加入することができますし、単体のサービスを選択することも可能です。2024年末時点の加入件数は一般家庭が2926万世帯、中小企業が222万社で、月間平均収入はそれぞれ121ドル、164ドルに上っています。
加入件数の内訳ではインターネットが一般家庭で2803万世帯、中小企業で205万社です。テレビ・動画は一般家庭が1233万世帯、中小企業が57万社。携帯電話サービスは一般家庭が97万世帯、中小企業が32万社です。
米国ではもともと有料のケーブルテレビに加入している世帯が多く、ケーブルを通じてインターネットにアクセスするのが王道でした。ただ、ネットフリックス(NFLX)などストリーミングを通じた動画配信サービスの台頭で「コード・カッティング(コードを切る)」、つまりケーブルテレビを解約する流れが強まっており、ケーブルテレビ各社は従来型ビジネスモデルからの変化を迫られています。
チャーター・コミュニケーションズは生き残りをかけ、動画配信サービスを排除するのではなく、取り込む方向に動いています。複数のサービスを束ねた「バンドル」の中にライバルである動画配信サービスを組み込み、自社のサービスの一環として提供するのです。

動画配信サービス各社にとってもチャーター・コミュニケーションズのインフラは魅力的で、従来型のケーブルテレビを好む顧客層に訴求できる利点もあります。
チャーター・コミュニケーションズは通信インフラに継続的に投資し、自社の強みを維持する方針です。2025年の設備投資予定額は120億ドルで、通信網の拡充に42億ドル、通信網の開発の推進に15億ドルを投入する計画です。
AST・スペースモバイル、衛星通信サービスを計画
AST・スペースモバイル(ASTS)は、低軌道の人工衛星を使って宇宙から通信するモバイルブロードバンドネットワークの構築を進めています。世界的な大手通信会社と提携し、通信会社と契約するユーザーに衛星を利用した「スペースモバイル・サービス」を提供する予定です。モバイルの基地局がない地域や災害で通信インフラが使えなくなったケースなどに威力を発揮するとみられています。

2025年の上期終了時点で商業サービスは始まっていませんが、事業計画では専用のモバイル端末は不要で、いつも使っている端末でサービスが利用できるようになる予定です。ユーザーは契約先の通信会社が提供する「追加プラン」に加入するかたちで利用が可能になる見通しです。
AST・スペースモバイルと提携する通信会社は、エーティー・アンド・ティー(T)とベライゾン・コミュニケーションズ(VZ)という米国勢に加え、欧州拠点のボーダフォン、日本の楽天モバイル、カナダのベル・カナダなどです。2025年1月には米連邦通信委員会(FCC)から周波数時限免許を取得したと発表しており、初の商業用衛星を低軌道で運行することが可能になっています。

最大のライバルといえばイーロン・マスク氏率いるスペースXが運営する衛星ブロードバンド「スターリンク」です。スペースXはこの事業でTモバイル(TMUS)と提携しており、米国の大手通信キャリアは両陣営に分かれています。
商用化ではスターリンク陣営が先行しており、2025年2月にTモバイルと共同でベータテストを始めました。一方、AST・スペースモバイルは大型の人工衛星を運行してコストを抑制する戦略で対抗するとみられています。



