健康寿命を資産運用視点で考える

健康寿命という言葉があります。日本人は世界で最も平均寿命が長い国です。健康寿命とは、大きな病気や老化によるケガなどに罹患せず現役生活を送ることのできる年齢のこと。高齢化社会においてはQOL(生活の質)を維持する基準のひとつとして重要視されています。


国の視点から見ても、平均需要と健康寿命の差が大きい状況は医療費や傷害年金等の拠出増につながるため、決して歓迎すべき事態ではありません。ここ数年、健康寿命を延ばしましょうという言葉を、メディアなどで耳にすることも増えてきました。


老後目的の2000万円を活動費に使えないことの意味

現役世代は給与などによる収入を現時点の支出にて拠出する一方、預貯金などにより将来の支出にも備えます。今年1年の収入が1年の支出で済めば合格ではなく、長期的な計画を必要とする、いわゆるライフプランと呼ばれるものです。


ライフプランの組み立ては年々難しさを増しており、数年前に老後2000万円問題がメディアで大きく取り上げられたことも記憶に残っているのではないでしょうか。


一方で当然といえば当然ですが、この2000万円は100年時代とも称される平均寿命を全うしたときの必要最大費用であり、いわゆる途中解約、60代70代までの健康寿命ならいくら必要なのか、という議論はライフプランの専門家のあいだでもほとんどありません。


この議論はファイナンシャルプランナーとして忌避すべきかもしれませんが、老後資産の構築は現在を犠牲にするものなので、筆者としては考えなければならないテーマではないかと日頃考えていました。


せっかく老後目的の2000万円を貯めたとしても、身体の調子が悪く活動費に使えない。今後、そのような価値観が語られるようになるのではないかと筆者は考えます。


人生には「まさか」があります。たくさんの人が加入している生命保険はそもそも、このまさかに備えたものです。そのため現役世代では、毎日節制して老後資金を貯めながら、同時に自分たちが貯めたお金を使えるように、身体やメンタルのケアをし続けなければならない。これが健康寿命を重視したライフプランの考え方です。

現在の生活は健康寿命を毀損していないかという視点

一方で現役世代は大変です。いまだコロナ禍による世の中の緊急事態は続き、2022年に入ると戦争や物価高、円安の急伸によってさまざまな産業が影響を受けています。経営者から会社員・自営業に至るまで、もう疲れたという日が続き、メンタルヘルスの治療を要する人も増えているのではないでしょうか。


こんな時だからこそ、日頃のストレスは健康寿命を毀損するという視点が必要です。難しいことはわかっていますが、この視点を持つか持たないかで、老後に向けての資産形成も意味の異なるものになります。人生100年時代なので、晴れの日もあれば雨の日もある。可能な限り健康寿命を延ばして、せっかく貯蓄している老後資金を意味のあるものにしましょう。


健康寿命に向けてハイリスクハイリターンか、リスクヘッジか

資産運用視点で見ると、リスクの取り方がポイントになります。健康寿命に関しても同様です。寝る間も惜しんで働いて高いストレスのなかで成功を目指すのは、ハイリターンである一方、やはり途中で身体を壊すなどの高いリスクが潜在します。


一方で現段階と将来の健康を重視しながら日々を過ごすのは、前者に比べてリスクが低い分、リターンも抑制されるでしょう。どちらが良い悪いという話ではありません。

iDeCoのように、途中で方針を変えられるものではない人生のライフプランをかけた資産運用です。折に触れて、自分がいまどのような方針で、どのようなリスクを認識しているのか、時に立ち止まって、考えてみることをお勧めします。


時々「俺はもう今で精一杯だから老後のことを考えるなんて無理だ。短く太く生きるよ」という人を見かけますが、毎月の給料から天引きという形で老後の準備が進んでいることは他の人と変わりません。ならば、そこに行き着かないためのリスクを減らすこともまた、大切な責務ではないでしょうか。


そのための具体策として、どのような心構えが必要でしょうか。ストレスやメンタル面だけではなく、飲酒や喫煙の習慣もここに含まれます。生活習慣病のリスクも含みますし、人間ドックや健康診断を受診しないことも、ネガティブリスクとなります。きわめて忙しい毎日ながらも、どうにか時間を取って受診した人間ドックで病気を早期発見できたという話もよく耳にします。


資産運用に例えるならば、iDeCoで毎月年金保険料を拠出するだけ拠出して、評価得損益に興味を示さない投資家と一緒です。投資計画として、決して勧められるものではありません。自らの健康をヘルスケアではなく、ひとつの資産運用として考える習慣を意識しましょう。

独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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