少額投資非課税制度(NISA)への関心が高まり、投資信託の積み立てなどで長期的な資産形成を始める人が増えてきました。筆者も、「長期の分散投資が良いと聞くけど、どうやったらいいの?」「投資の勉強はどのようにしたらいいの?」という質問を受けることがよくあります。
そこで3回に分けて、公的年金の積立金の運用状況を題材に、投資ビギナーが投資について学べるような解説をしましょう。
GPIFと年金積立金
本来、公的年金は自分が納めた保険料を将来受け取るわけではありません。「賦課方式」といって、いま自分が納めている保険料は、いまの公的年金を受け取っている人に行き渡るようになっています。
ですが、保険料を納める人達から年金を受け取る人達へと、ちょうどピッタリの金額で届けられるわけではありません。今後も公的年金制度が続くように、年金財政が不足になった場合の備えとして別に資金を確保しておきます。この資金が「年金積立金」であり、長期運用されています。
この「年金積立金」を管理・運用する公的機関は、「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)といいます。
GPIFは、このほど2023年度の運用状況を公表しました。年金積立金の運用状況は、四半期ごとに公表されますが、本来、年金運用は長期的な視点で行なうものです。短期間の結果に一喜一憂してはいけません。とはいえ、公的年金の運用を任せている国民としては、その時々において、運用状況を知っていることが大切です。
GPIFの年金積立金は、2024年3月末時点で245兆9,815億円です。年金積立金は、規模の大きさから「市場のクジラ」と呼ばれることもあります。2024年3月末時点で国内販売の公募投資信託の純資産総額が227兆411億円。日本の投信全ての残高の1割増しというほどの巨大な資金です。
投資ビギナーは、バランス型の運用から学ぼう
投資ビギナーのみなさんが、投資信託などを使ってリスク分散を行ないながら資産形成をする場合、まずは特徴の違う複数の投資対象に分散する「バランス型」の運用をお勧めします。
その理由の1つは、タイプの違う投資対象は価格変動のタイミングや変動率が異なる場合があるからです。同時に違う投資対象を持ったら、時々で良いので運用状況をチェックしてみましょう。「同じタイミングなのに運用成績に差がついたのはなぜか?」「この結果になったのは、どんな環境だったからなのだろう?」などと理由を考え、実践の中で投資を学んでいきましょう。
「ほったらかし投資」という言葉がありますが、ぜひ、放ったらかしにせず運用状況を見てみてください。お金を積み立てると同時に、経験も積み立てるのです。数年後には、判断力もついているはず。資産が増えた頃には、運用の選択肢も広がっていることでしょう。
もしもご自身がまだ投資に踏み切れないという場合は、公的年金の「年金積立金」の運用状況を見て学ぶこともできます。では、見方を説明しましょう。
現在の年金積立金は「4つの資産に均等に投資」
GPIFの年金積立金は、現在、賃金上昇率を1.7%上回る運用をするという目標になっています。現役世代が納める保険料は賃金がベースになるため、年金積立金も、賃金上昇を少し上回るよう設定されているのです。
この目標の下で、現在の資産配分は各資産を4分の1ずつ均等に保有する方針です。カッコ内は、運用によって資産額が上下した場合の許容範囲です。
●国内債券 25%(±7%)
●外国債券 25%(±6%)
●国内株式 25%(±8%)
●外国株式 25%(±7%)
【グラフ】は、2024年3月末時点における4つの資産額の配分と、各資産の運用状況です。
この「年金積立金」の運用状況は、ご自身の資産形成を考える上でも参考になると思います。過去3カ月や過去1年を振り返り、「どういう環境の下でどのような結果だったのか」という見方をしてみてください。
例えば2023年度で言えば、「円安ドル高が進んだ→外国の資産価値が上昇した→ああ、だから外国株式や外国債券の収益率が高かったのだな」「安全性が高いと言われている国内債券の収益率がマイナスなのは、どうしてなのだろう?」「日経平均株価が、バブル期の高値を超えた→本当だ、国内株式の収益率が高いな」というふうに感じ取っていただきたいのです。
この4資産のバランスを真似しましょう、ということではありません。運用を取り巻く環境と、その結果を自分なりに考えてみて欲しいのです。難しいことを調べなくても結構。記憶にある出来事を踏まえて、運用状況を見て、考えるだけです。考えて分からない場合、追求したくなったら調べればよいですし、わからなかったり難しいと思ったりしたら、頭の片隅に置いておいて、ニュースなどを見聞きした機会に思い出す程度でも十分です。
いかがでしょう? とても実践的な学びだと思いませんか?
また、GPIFの運用状況報告は、ご自身の資産の運用結果と比較してみるのも良いですね。金融・経済環境によっては、運用が芳しくない期間もあります。長期の資産形成においては、短期の結果に踊らされる必要はありません。ただ、長期運用だからと言って、長い間放ったらかしにしていては、学ぶ機会を逃してしまいます。それはすごくもったいないと思います。ぜひ、ご自身の資産を積み立てるのと同時に、学びや経験も積み立ててくださいね。
【出典】
年金積立金管理運用独立行政法人「2023年度の運用状況」