2020年の小林化工の試験結果ねつ造を発端に、サワイホールディングス、日医工と近年大手後発医薬品の不祥事が続きました。
一方で、社会保障審議会医療保険部会では「医薬品の安定的な供給を基本としつつ、後発医薬品の数量シェアを2029年度末までに全ての都道府県で80%以上」という目標が掲げられています。
個人投資家の多くは「製薬・バイオ関連企業は難しい」というイメージを抱くでしょう。
しかし、後発医薬品は既存の医薬品の特許切れの薬を扱うため今後の供給量の予測がつきやすく、国が普及施策を推進する分野で株価の上昇が見込めます。
個人投資家がジェネリック医薬品メーカーに投資したい場合、国内の後発医薬品専業メーカーの株、先発医薬品で後発医薬品も製造するメーカーの株を買う、医薬品メーカーの投資信託を購入、海外のメーカーに投資するという方法があります。
今回は2020年以降に起きた国内ジェネリック医薬品メーカーの不祥事と株価、後発医薬品に投資する方法や医薬品業界の現状などを解説していきます。
専業の後発医薬品メーカーは、東和薬品が一強?
後発医薬品は、かつて後発医薬品専業のメーカーとしては沢井製薬、日医工、東和薬品の3社が大手と言われてきましたが、沢井製薬は不正試験が発覚し日医工は上場廃止となりました。
一方で、大手3社の中で唯一不祥事を起こしていない東和薬品株式会社は株価を伸ばしています。2023年11月に同社は自主調査を行い、品質試験で不正が見つからなかったことを公表しました。
直近5年間の東和薬品の株価の推移を見ていきましょう。
後発医薬品の不祥事が続いた時期に株価は下落しましたが、その後再び上昇しています。
10年間で株価はおよそ4倍になりました。
東和薬品は2021年4~12月期の連結決算で他メーカーの代替として需要を取り込み純利益は前年同期比6割増となりましたが、2023年3月期決算は、企業買収関連のコストや原材料や電気代の値上がりにより営業利益や純利益が大幅に減少しました。
2025年3月期 決算短信(連結)では、営業利益が前年比31.7%、経常利益が6.8%プラスとなり回復しています。
相次ぐ不祥事により供給停止や限定出荷などが増加しいまだジェネリック医薬品は供給不安定な状況ですが、社会保障審議会医療保険部会では「医薬品の安定的な供給を基本としつつ、後発医薬品の数量シェアを2029年度末までに全ての都道府県で80%以上」とするという目標が掲げられています。
2020年以降に起きた後発医薬品の不祥事とは
小林化工が爪水虫薬の試験結果をねつ造、2人が死亡
沢井製薬(サワイホールディングス)の試験不正
日医工も試験不正で業務停止、上場廃止へ
1.小林化工が爪水虫薬の試験結果をねつ造
2020年12月、福井県はあわら市の製薬会社小林化工株式会社が製造する爪水虫などの治療に使う経口抗真菌剤「イトラコナゾール錠50『MEEK』」約10万錠分を自主回収すると発表しました。
イトラコナゾール錠 50「MEEK」に睡眠誘導剤の成分「リルマザホン塩酸塩水和物」が1錠あたり5mg混入しており、ふらつき、めまい、意識障害などの副作用情報が複数報告されました。また、因果関係は不明ですが2人が死亡しています。同社は調査の結果、イトラコナゾール錠も含めた医薬品全てにおいて①承認内容と異なる医薬品の製造、②二重帳簿の作成、③品質試験結果のねつ造などのコンプライアンス違反が行われていました。
同社は、医薬品の薬価削除と承認整理を行い2023年4月1日に医薬品製造販売業許可を廃止しています。
この事件はジェネリック医薬品の不祥事の発端となり、業界に大きな衝撃が走りました。
2.沢井製薬(サワイホールディングス)の試験不正
2023年10月には、ジェネリック医薬品メーカー大手の沢井製薬(サワイホールディングス)が、胃炎・胃かいよう治療薬の品質を確認するための試験で不正を行っていたと発表しました。
溶出試験(医薬品が体内でどのように溶け出すかを調べる試験)で規定値に届かない結果が出たものの、工場の担当者がカプセルの中身を入れ替えて規定値を出す不適切な方法を繰り返していたのです。
同社の株価の推移を見ていきましょう。
2023年6月22日に沢井製薬が不正試験を福岡県に報告し、株価は下落しました。
しかし、決算発表後の7月1日から株価は上昇しています。
3.日医工も試験不正で業務停止、上場廃止へ
ジェネリック医薬品大手日医工株式会社は、2011年ごろから、工場長の指示のもと出荷試験などで法令違反があったことが発覚し2021年に業務停止命令を受け、工場生産を停止しました。
2023年3月29日には東証プライムに上場していた株式が上場廃止となり、経営陣が刷新されました。
なぜ不祥事が起こったのか?
メーカーの不祥事が相次いだ背景として、①大型医薬品の特許切れ、②国の施策によるジェネリック医薬品の使用率の急増、そして③薬価引き下げがあります。
ジェネリック医薬品は、先発医薬品の主成分の特許が切れた後に同じ有効成分を使用して製造・販売されます。
国が定めた溶出試験と生物学的同等性試験(先発医薬品と後発医薬品を投与し血中濃度を比較し同等とみなす試験)をすることで、先発医薬品と臨床的に同等と考えられています。添加物は特許の関係で先発医薬品と異なるものを使っている医薬品が多いですが、先発医薬品メーカーから許諾を得て「オーソライズド・ジェネリック(AG)」と呼ばれる原薬・添加物・製法などが先発と同一のジェネリック医薬品も存在します。
日本のジェネリック医薬品の使用割合は、2010年以降急増しました。
2010年前後に、主力の大型医薬品が特許切れを迎える時期があり使用割合が急激に伸びています。国がジェネリック医薬品の普及を推進したことも使用割合が伸びた大きな要因と言えるでしょう。
しかし、急激な生産増加に加え薬価の引き下げが起きたことで後発医薬品メーカーは安価での大量生産を余儀なくされ、不祥事が続いたと推測されます。
医療費抑制として推進されるジェネリック医薬品、投資はすべき?
メーカーの不正行為は続いたものの、ジェネリック医薬品は国が医療費抑制として推奨しています。
臨床試験をしないため先発医薬品よりもコストをおさえることが可能で、適切な試験を行っていれば医療費抑制策としては有効と言えるでしょう。
高齢化社会が進む中、医療費をおさえることは喫緊の課題です。
2024年3月の社会保障審議会医療保険部会では「医薬品の安定的な供給を基本としつつ、後発医薬品の数量シェアを2029年度末までに全ての都道府県で80%以上」とするという目標が継続して掲げられています。
投資家として「ジェネリック医薬品に投資したい」という方は、選択肢として以下の4つがあります。
1 国内のジェネリック医薬品メーカーの株を買う
2 先発医薬品メーカーで後発医薬品を製造・販売している国内企業の株を買う
3 医薬品メーカーの株式型投資信託を購入する
4 海外のジェネリック医薬品の株を買う
1 は、今後も国のジェネリック医薬品施策は推進されることが見込まれますので伸びる可能性があります。しかし、今回の不祥事で患者だけではなく医師や薬剤師など医療関係者の信頼を回復するには時間がかかるかもしれません。
2 は明治ホールディングス(医薬品セグメントはグループのMeiji Seika ファルマ株式会社)、など後発医薬品を取り扱う先発医薬品の株を購入し投資する方法です。先発医薬品メーカーの中には、第一三共のように後発医薬品メーカーの株式を別の企業(クオールホールディングス)に譲渡していることがありますのであらかじめ調べておきましょう。
先発医薬品は近年国内の新薬創出が減退しているものの、エーザイのアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」の販売が好調で、住友ファーマがiPS細胞由来のパーキンソン病を対象とした医薬品の製造販売承認を申請するといったニュースもあります。
3 は投資信託を運用することでジェネリック医薬品を含めた製薬会社・バイオ企業の株に投資する方法で最もローリスク・ローリターンと言えるでしょう。④のように海外の医薬品メーカーに投資するという方法もありますが、為替リスク(為替レートの変動による価格変動)がありますので注意しましょう。
※上記は「関連銘柄」の紹介であり、購入を推奨するものではありません。企業や財務の分析は筆者個人の見解に基づくものであり、筆者が所属する組織・団体の公式見解ではありません。
まとめ
ジェネリック医薬品業界は2020年以降メーカーの不祥事が続いたものの、医療費抑制施策として今後も推進されるでしょう。
投資をする際には、あらかじめ製薬業界の現状や、企業の業績、財務などを調べ自身で分析を行うことをおすすめします。