GPIFの運用から分散投資を学ぶ(中)

よく「自分に合った運用で資産形成をしましょう」といわれます。けれど最初から「自分に合う運用」が分かっている人などいませんよね。どのようにして、自分に合う運用を見つけたら良いのでしょうか。


投資や運用、資産形成に関して、筆者は「実践に勝る学びはなし」と思っています。


積み立て投資で経験も積み立てる


右も左もわからない状態のビギナーさんは、NISA(少額投資非課税制度)の口座を作ったものの、何を買ったら良いのかわからないという状態だと思います。「動画サイトや投資の本などで紹介されている通りにやってみました」という声をよく耳にします。


前回記事『GPIFの運用から分散投資を学ぶ(上)』では、まずは特徴の違う複数の投資対象に分散する「バランス型」の積み立てをしながら、経験も積み立てましょうと提案しました。


バランス型の代表例が、「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の「年金積立金」です。運用状況を資料で確認し、その時期に起こった出来事などを振り返りながら、なぜ、そのような運用結果になったのかを考えましょうと提案しました。その積み重ねが、実践的な学びになるのです。


ただ、前回の記事では、2023年度という単年度の運用結果を示しただけです。老後の生活準備資金などのために資産形成をするのであれば、長期的な視点で向き合わなければなりません。


そこで今回は、同じくGPIFの「2023年度 業務概況書」を使って、長期間の運用状況を振り返ってみましょう。


GPIFの年金積立金は、長期投資を行なっています。2023年度の運用が良かったからといって、2024年度の年金支給額が増えるわけではありません。また、運用が良かった分、現役世代が納める国民年金や厚生年金の保険料負担が少なく済むわけでもありません。将来的に年金支給を補う資金として、長期運用をしています。


この点で、個人が自分の老後資金を運用する際のお手本になると思っています。


資産配分は見直される


では実際に、GPIFの公表資料から、長期間の運用状況を見ていきましょう。


GPIFでは、5年ごとに検証を行なって運用目標を立てています。リスクを考慮し、運用目標を実現する資産配分を「基本ポートフォリオ」と定めて、それに基づく運用を行ないます。


【グラフ1】は、GPIFが株式や債券などに投資をする市場運用を開始した2001年度以降の、年金積立金のポートフォリオ(運用資産)の配分の推移です。GPIFの「2023年度 業務概況書」に掲載されているデータを筆者が加工して作成しました。



2020年4月以降、各資産の配分は、前回記事『GPIFの運用から分散投資を学ぶ(上)(https://imakara.traders.co.jp/articles/3714)』でご紹介した通り、国内債券、外国債券、国内株式、外国株式がそれぞれ約4分の1ずつになるような分散投資です。


しかし、以前から4分の1ずつだったわけではありません。例えば、2006年4月から2013年6月までの基本ポートフォリオは、投資環境や市場のリスク等を考慮し、国内債券67(±8)%、外国債券8(±5)%、国内株式11(±6)%、外国株式9(±5)%、短期資産5%という配分でした。


2014年10月から2020年3月までの基本ポートフォリオは、国内債券35(±10)%、外国債券15(±4)%、国内株式25(±9)%、外国株式25(±8)%へと配分を変えています。アベノミクスによって株価が上昇した時期でした。米国など外国株式も値上がりしました。


年金積立金の資産配分は、市場動向やリスクなどを考慮して計算されています。


GPIFがどのような運用目標を立て、どのような資産配分で運用を行なっているかは「業務概況書」などの資料を見れば、誰でもわかるようになっています。個人投資家がご自身の資産配分を考える際にも参考になるでしょう。実践を通して学びながら、自分なりの運用方針が確立していくことと思います。


GPIFの各運用資産の収益率の推移


では、この資産配分の変化が、運用結果にどのように現れていたのかも見ておきましょう。


【グラフ2】は、ポートフォリオ全体と、ポートフォリオを構成する4つの資産(国内債券、外国債券、国内株式、外国株式)における各年度の収益率です。ポートフォリオ全体は棒グラフ。各資産は、折れ線グラフで示しています。



例えば、リーマン・ショック近辺の2007年度・2008年度は、国内株式、外国株式のマイナスが大きく、外国債券もマイナス運用です。けれどポートフォリオ全体の収益率は、2007年度がマイナス6.10%、2008年度がマイナス10.04%で済んでいます。


それぞれの年度末の資産配分は、以下の通りです。


≪2007年度末≫

国内債券:71.34%

外国債券: 8.06%

国内株式:11.50%

外国株式: 9.10%

短期資産: 0.00%


≪2008年度末≫

国内債券:73.94%

外国債券: 8.51%

国内株式: 9.69%

外国株式: 7.72%

短期資産: 0.14%


相場環境の良くなかった時期に、例えば現在のように4資産を均等に保有していたら、全体のマイナスは大きくなっていたことでしょう。


その後、資産配分を変えて国内外の株式と外国債券の配分を引き上げたため、世界的な株高や近年の円安外貨高の恩恵を享受できています。


今回は、GPIFが財政検証を行ない、資産の投資配分と収益率の推移を併せて見てきました。「ほったらかし投資」という言葉も聞かれますが、投資信託だからといって、まったく運用状況を見ないのは考えものです。


その都度、どのような経済環境で、自分の資産がどういう状況になっているのかぐらいは定期的に確認しましょう。確認したからといって、バタバタと売買する必要はありません。確認作業そのものが、投資経験になるのですから。


【出典】

年金積立金管理運用独立行政法人「2023年度の運用状況」


【関連記事】

GPIFの運用から分散投資を学ぶ(上)


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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