この数年、株式分割を行なう上場会社が増えています。株価が高くて手が届かないと思っていた銘柄でも、株式分割が行われれば株主になれるかもしれませんよ。
NISA(少額投資非課税制度)をきっかけに投資を始めるビギナーにとっては、無理のない金額で株式を買えれば、実践を通じて投資を学ぶ良い機会となります。今回は、株式分割について、わかりやすく解説しましょう。
上場会社の約9割が、50万円未満で株を買える
株式分割が増えている理由の1つに、東京証券取引所(日本取引所グループ)が、上場会社に対して最低取引金額を引き下げるよう要請していることが挙げられます。目的は、個人投資家が株式を買いやすい水準にするためです。
株式投資というと、まとまった資金が必要だと思われるかもしれません。しかし、2024年3月末時点で上場している3,573社のうち93.3%が、最低金額50万円未満で買えます。投資信託の積立やボーナス、当面使い道がない預金などでも、その気になれば株式を買えるのではないでしょうか。
確かに以前は、株式を買うには高額の資金が必要でした。けれど最近は、会社の価値が下がっているわけではないのに、株式分割によって比較的買いやすい株価になっているケースがあります。
では、株式分割とは何なのでしょうか?
株式分割とは?
株式分割とは、株式全体の実質的な価値を変えないまま、発行済株式数を増やすことです。実施される数ヵ月前に、実施する日付や分割の比率などが公表されます。
【表】は、2024年7月1日時点で株式分割を行なった主な銘柄と、今後実施予定の一部です。
株式分割は、資金集めが目的で株式を発行するわけではないので、その会社の資本の規模は変わりません。分割実施時点の株主に対して、持株数に応じて増加分の株式を無償で分配します。
ちょっとわかりにくいですね。
例えば、「1株を4株に株式分割をする」という例で説明しましょう。
1株を4株に分割すると、会社全体の発行済株式数は4倍になります。同じように、その株式を100株持っている株主も、持ち株が400株になります。200株を持っている株主は、800株です。
株主は、何の手続きもせずに、分割実施日が来たら自動的に株数が増えます。このとき、100株が400株になる株主に対し、増加する300株分の資金は求めません。
えっ? タダで4倍になってしまうの? と思うかもしれませんが、そう甘くはありません。この場合、株式数が4倍になると同時に、株価は4分の1に調整されます。一人ひとりの株主が持つ資産価値が変わらないように、調整されるのです。会社全体の時価総額も理論上は変わりません。
この例を、具体的な株価を当てはめて【図】で説明しましょう。
1株20,000円の「いまからコーポレーション」が1:4の株式分割を行うと、分割後は、理論上1株5,000円になります。分割前に100株を保有していた株主は400株の株主になり、5,000円×400株=200万円で、分割前と資産価値は同じです。
このように、株式分割が行なわれると、その会社の流通株式数が増えます。これがどのような影響をもたらすでしょうか。立場によって見ていきましょう。
元から株主だった人は、どうなる?
例えば、株式分割前に100株を保有していた株主を想定しましょう。
100株しか持ち株がない場合、売買単位1つ分(1単元)ですから、株式を売ろうかと考える場面では、売って持ち株がゼロになるか、売らずに持っているかで迷うこともあるでしょう。
株式分割によって複数の単元を持つことになれば、1単元を売っても手元にまだ株式が残ります。前述の1:4の分割の例では、100株を売っても300株が手元に残ります。半分の200株を売って、半分の200株を残すという選択肢も考えられます。
このように、株数が増えれば、売却の判断にも幅が広がります。
分割後に株を買おうと思っている投資家は?
例に挙げた「いまからコーポレーション」株の場合は、株式分割前に買おうとすると200万円の資金が必要でした。200万円をポンと出せる投資家なら良いですが、リスク分散で他の銘柄も持っておきたいとか、投資経験や資金の都合で少額ずつの投資にしておきたいという人には、なかなか高いハードルです。
しかし、株式分割が行われた後は、100株を買う必要資金が50万円になります。他の銘柄との分散投資も容易になるでしょう。
株式分割は、株価にどう影響する?
株式数が増えれば、株式市場に流通する株式数が増え、流動性が高まります。
このことが、株価の上昇につながるか下落につながるかは、個々の銘柄の状況によります。流動性が高まると、一般的には株価が安定的に動くと考えられます。また、1単元の取引金額が小さくなることで買い手が集まりやすくなります。これらの場合は、需要を集めて株価上昇につながるケースです。
一方、先の例のように売却への抵抗感が薄れると、分割前は売り注文が出にくかった銘柄でも売りを呼びやすく、状況によっては、分割後の調整株価から値下がりする可能性もあります。また、短期売買がしやすいと見られれば、値動きが荒くなることもあるかもしれません。
株式市場はオークションですから、買いたい投資家の買い注文の量と売りたい株主の売り注文の量の関係で、株価が決まります。
一般的には、株式分割が発表された時点で、「魅力的な会社の株式投資に手が届く」と思う投資家が多いか、「売り物が市場にあふれるぞ」と思う投資家が多いかで、一度株価が動きます。
その後、実際に株式分割が行われる時期にも、思い出されたように再び株価が動くこともあれば、何事もなかったように調整後の株価近辺でおとなしく値動きする場合もあります。
どちらにしても、株数が増えて株価水準が下がることを投資家が歓迎するか、嫌がるかによって株価の動きは違ってきます。これは銘柄ごとに取り巻く環境と、その銘柄の印象によるでしょう。株式市場のムードの良しあしにも左右されます。
短期的な投資判断は難しいかもしれませんが、それまで高嶺の花だった優良株が買いやすくなるという点では、株式分割は一般的には歓迎されることが多いようです。
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