GPIFの運用から分散投資を学ぶ(下)

NISA(少額投資非課税制度)の口座は作ったけれど、何を買ったらよいかわからない、どんな運用が自分に合うかわからない、という方がいらっしゃいます。そこで、3回に分けて、公的年金の積立金の運用状況を題材にして、資産形成ビギナーが学べるポイントを解説しています。


・『GPIFの運用から分散投資を学ぶ(上)

・『GPIFの運用から分散投資を学ぶ(中)


最終回(下)は、リスクについて見ていきましょう。


年金積立金のリスク管理


「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」の年金積立金は、長期的な視点で運用されるため、リスク管理がなされています。「2023年度 業務概況書」にも、運用リスク管理の「基本方針」が示されています。


基本方針を要約してみました。


(1)必要な運用利回りを最低限のリスクで確保する「基本ポートフォリオ」を定め、適切に管理

(2)リスク管理の基本は、リターン・リスク等の特性が異なる複数の資産に分散投資

(3)資産全体、各資産、運用する金融機関等の各段階でリスク管理を行ないつつ、各資産およびポートフォリオ全体の利回りは市場平均を保つ

(4)合理的な根拠の下、基本ポートフォリオの配分の範囲内で機動的に運用

(5)長期運用で、より安定的に、より効率的に、そして流動性も確保

(6)専門性の向上、責任体制の明確化を図り、受託者責任を徹底


GPIFでは、この基本方針を踏まえて、市場リスク、流動性リスク、信用リスク、カントリーリスクを適切に管理し、国内外の経済動向や金融市場の状況、地政学リスクなどを考慮しながら、リスク指標を使って把握し、適切な措置を講じています。



1年の利益率、どこまでブレるかを推定


このシリーズの(上)では、投資ビギナーのみなさんが、資金を積み立てながら経験も積み立てるには、特徴の違う複数の投資対象に分散する「バランス型」が良いとお伝えしました。


それは、同じ環境下でも、資産ごとに運用結果が異なることを学べるからです。また、値動きが異なる資産を併せ持つため、リスク分散にもなります。と、このことはよく耳にする話だと思います。では、国内外の債券や株式には、どの程度のリスクがあり、実際にどのような運用状況になったのでしょうか。


運用の世界で「リスクの大きさ」は、「想定する利益率(期待リターン)を中心にして、1年の間に、上下どの程度の幅でブレると想定されるか」で表現します。


すでに(上)(中)で説明している通り、現在の年金積立金は、国内債券、外国債券、国内株式、外国株式の各資産を4分の1ずつ均等に保有する方針です。この4つの資産タイプごとに、現在、年金積立金が想定しているリスクを、【グラフ】に示しました。GPIF「2023年度 業務概況書」に掲載されているデータから、筆者が加工して作成しています。



4つの資産を比べると、期待リターン(黄色の丸)が「国内債券<海外債券<国内株式<海外株式」の順に高くなっています。そうなると期待リターンが高い海外株式に投資したくなりそうですが、想定される値動きの上下幅は、最も大きくなっています。なお、期待リターンは、実質的なリターンに賃金上昇率を加えた名目リターンです。


「国内債券」の期待リターンは0.70%。つまり1年で0.70%の運用利回りと想定されています。同じように、「外国債券」は年利2.60%の運用利回りが想定されています。しかし、必ずしも想定通りになるわけではありません。青色や白色で示した範囲での値動きがあるかもしれない、と考えられています。国内株式、海外株式も同様です。


【グラフ】中の各資産の値動きを示した青と白は、起こる可能性の確率の違いです。青色は「かなりの確率で起こるだろう」、白色は「もしかしたらここまで上下するかもしれない」という幅で、以下のように解釈します。


「かなりの確率で、青色で示した上下動があるだろう。もしかすると白色ゾーンまで上下することもあるかもしれない。それを上回ったり下回ったりすることは、めったにないと推定される」


「かなりの確率」ってどの程度なのよ? と思うかもしれませんね。青色のゾーンに収まる可能性は68.26%、白色のゾーンまで動く可能性は95.44%。上側の白ゾーン以上の利回りになるのは2.28%(「100%-95.44%」の半分)です。


「100年に1度の大暴落」などという表現をすることがありますね。白ゾーンより下がる可能性も上側と同じ2.28%で、100年のうちに2、3回は白ゾーンを外れる暴落があると推定されています。


2023年度は想定外の運用結果


グラフの見方が分かったところで、次は、2023年度の収益率を確認してみましょう。グラフ中の緑色のマークが、2023年度の運用実績です。


≪国内債券≫

期待リターン0.70%、ブレは-1.86%~3.26%と推定。結果は-2.00%だった

≪海外債券≫

期待リターン2.60%、ブレは-9.27%~14.47%と推定。結果は14.83%だった

≪国内株式≫

期待リターン5.60%、ブレは-17.54%~28.74%と推定。結果は41.41%だった

≪海外株式≫

期待リターン7.20%、ブレは-17.65%~32.05%と推定。結果は40.06%だった


2023年度は、国内債券が珍しいほどの値下がり率となり、ほかの3つの資産は逆に珍しいほどの値上がりをしたといえるでしょう。来年も、再来年も同じ状況が続くとは考えにくいことがわかります。


また、2023年度は日本株や全世界株式型の投資信託が好調で、多くの個人投資家の資金が集まりました。年金積立金の「国内株式」や「外国株式」は、年間18%弱の値下がりも想定内であることを知っておくと良いでしょう。「18%ぐらいの値下がりをすることもある資産だ」と分かっていれば、今後、積立投資をしていく中で、上下動があったとしても「想定内だ」と落ち着いていられると思います。


ここまで3回にわたってみてきたように、「年金積立金」の運用状況は、ご自身の資産形成を考える上でも参考になります。ぜひ、ご自身の資産を積み立てるのと同時に、学びや経験も積み立ててくださいね。


【出典】

年金積立金管理運用独立行政法人「2023年度の運用状況



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ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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