米8月CPIはタカ派Fedをサポートも、ベージュブックに景気後退の影

FF先物市場、年末までにFF金利4%超えを織り込む


米8月消費者物価指数(CPI)が市場予想超えとなり、FF先物市場では9月20~21日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)だけでなく、11月1~2日開催のFOMCでも75bp利上げ観測が強まっています。12月13~14日開催のFOMCでも50bp利上げ予想が強まり、実現すれば年末までにFF金利誘導目標は4.25~4.5%と、2007年12月以来の高水準となる見通しです。CPIは帰属家賃や食品、自動車関連などが物価を押し上げ、エネルギーの下落分を相殺するなか、市場はFedが年内、タカ派姿勢をゆるめると想定していません。


チャート:FF先物市場、年末までにFF金利4%以上への引き上げを織り込む


9月公表のベージュブック、景気後退を報告する地区連銀が半数に

 

しかし、9月公表のベージュブック(地区毎に企業にヒアリングしてまとめた地区連銀報告)では、引き続き景気後退リスクが懸念されています。米経済活動をめぐる表現は「7月初めから8月後半にかけ、概して前回と変わらず、5行がわずかから緩慢な経済拡大を報告し、別の5行はわずかから控えめな鈍化を指摘した」といいます。また、経済見通しも前回とほぼ同様で、今回は「将来の経済成長見通しは概して弱く、今後6~12カ月において一段と需要が軟化する見通しに言及した」と明記されました。

 

将来に対し楽観度が後退するなか、「景気後退」とのキーワードが登場した回数をみてみると、9月分ベージュブックでは9回。前回の11回を下回り、6月の水準へ戻しました。ただ、報告した地区連銀では6行(ボストン、フィラデルフィア、アトランタ、シカゴ、カンザスシティ、ダラス)と、前回の5行(ボストン、フィラデルフィア、リッチモンド、シカゴ、ダラス)を上回りました。半数の地区連銀にある企業が引き続き、景気後退を警戒している様子が見て取れます。なお、景気後退として数えた対象はリセッションのリスクに関する言及のみで、景気後退水準などといったものはカウントしていません。以下は、景気後退リスクを報告した地区連銀とその内容です。

 

 

・ボストン地区連銀 2回<前回は2回

→(要約)多くの企業は楽観的だったが、不動産業者の見通しは悪化し、複数の回答者は景気後退リスクの高まりを表明した。

→(総括)小売、宿泊、製造業の大半は楽観的だったが、不動産業者の見通しは悪化し一部は景気後退リスクが引き続き高いと表明した。

 

・フィラデルフィア地区連銀 3回<前回は4回

→(要約)雇用はわずかに拡大したが、景気後退の声が強まった。

→(総括)景気後退への恐れが強まるなか、雇用はわずかに拡大した。

→(労働市場)ある人材派遣業は、企業の人材派遣需要が鈍化し前回の景気後退の水準に近付いたと報告した。

 

・アトランタ地区連銀 1回>前回はゼロ

→(製造業)調査の結果、製造業の約3分の2はインフレや金利上昇、米株の乱高下、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う潜在的な景気後退について指摘した。

 

・シカゴ地区連銀 1回=前回は1回

→(総括)回答者は数カ月先の成長鈍化を予想し、多くが潜在的な景気後退への懸念を寄せた。

 

・カンザスシティ地区連銀 1回>前回はゼロ

→(地銀)銀行は向こう6カ月先の信用の質をめぐり概して安定的と予想したが、物価高と景気後退見通しに伴い懸念を示した。

 

・ダラス地区連銀 1回<前回は2回

→(総括)不確実性が高まるなかで見通しはまちまちで、回答者は価格高騰や消費者センチメントの弱まり、金利上昇を受けた需要鈍化と景気後退リスクへの懸念を表明した。

 

ベージュブックでは、約半数の地区連銀で景気後退リスクへの懸念が報告されましたが、実際にリセッションは近いのでしょうか?

 

NY地区連銀が算出する1年先の景気後退確率は、25.1%

 

NY地区連銀が米10年債利回りと3カ月物Tビルなどで算出した1年後の景気後退確率をみると、8月は25.1%と前月の17.6%を上回り、利上げを開始した3月の5.5%とは隔世の感があります。また、25%を超えた点もポイントです。1980年以降、景気後退を6回経験しましたが、リセッション入り前の6カ月以内に25%以上を超える傾向があるためです。

 

チャート:1年先の景気後退確率

 

現時点で労働市場がひっ迫しており、景気後退リスクは低いようにみえますが、9月からは保有資産縮小ペースが2倍(従来:475億ドル→950億ドル)に引き上げられました。資産縮小ペース引き上げを受けバンク・オブ・アメリカは米株を7%押し下げる効果があると試算したように、経済だけでなく金融市場への引き締め効果も懸念されます。

 

パウエルFRB議長はインフレ抑制により、景気や労働市場に「痛みを伴う」と言及しており、インフレを抑制すべく、多少の景気減速でも引き締め寄りの政策を維持するのでしょう。しかし、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が25bpの利下げの必要性を主張したように、企業から人員削減の発表が相次ぐなか、景気減速局面では「痛み」を感じた産業界から利下げ要請が高まってもおかしくありません。

 


ストリート・インサイツ

金融記者やシンクタンクのアナリストとしての経験を生かし、政治経済を軸に米国動向をウォッチ。NHKや日経CNBCなどの TV 番組に出演歴があるほか、複数のメディアでコラムを執筆中。

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