「資産運用立国」次の一手【後編】 ~NISAの先にある国家戦略~

政府が「資産運用立国」をアップグレードしました。「強い経済」を実現するために、企業に成長投資を促すことを重点に置いています。資産運用立国というと、NISA(少額投資非課税制度)を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし今回の戦略では、家計だけではありません。


家計のお金はどこへ向かうのか


【前編】では、政府がコーポレートガバナンス改革などを通じて、企業の成長投資を促し、企業価値の向上につなげようとする動きを解説しました。【後編】の本コラムでは、国民が経済成長の成果を最大限に受けられるよう、金融機関や市場の機能を強化する動きを説明します。


政府が描いているのは「投資を始めること」ではなく、「投資したお金が企業の成長につながり、その成果が再び家計へ戻る」という大きな循環です。


資金は経済を巡っています。資産運用立国の金融戦略では、資金が家計、アセットオーナー、金融機関、企業の間で良い循環になることを目指します。その流れを支えるためには、金融インフラへの投資促進も欠かせません【図】。



政府は、主な施策の1つに「国民が経済成長の成果を最大限享受するための環境整備」を掲げています。その柱としては、以下の3つがあります。


●アセットオーナーの機能向上

●資産運用サービスの高度化

●家計の安定的な資産形成の促進


アセットオーナー改革とは


柱の1つ目に出てくる「アセットオーナー」とは、公的年金や企業年金、大学基金などです。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や公務員などの共済組合、企業年金、大学基金などは、多くの人のお金を預かって運用しています。これらアセットオーナーは、企業が成長するための資金の流れの中で、重要な役割を担っています。


政府は今回、こうした「アセットオーナー」に対し、「預かったお金をより良く運用するしくみ」を整えることを促します。それが「アセットオーナーの機能向上」です。具体的には、専門知識を持つ人材を配置し、運用方針を定期的に見直し、その結果を検証するなどして、受益者の利益を第一に考えた運用を行うよう促しています。


家計でも、「とりあえず預金しておけばいい」という時代から、「目的に合わせて資産配分を考え、定期的に見直す」時代になりました。アセットオーナー改革も考え方は似ています。年金など多くの人のお金を預かる機関にも、より専門的で継続的な運用が求められるということです。


企業型DCやiDeCo、NISAなどの家計の資産形成


アセットオーナーと並んで、家計も資金の流れには重要な役割を担っています。家計の安定的な資産形成を促すことで、企業の成長を支えます。


しかし、企業型確定拠出年金(企業型DC)や個人型確定拠出年金(iDeCo)は、重要な資産形成の方法でありながら、加入者数はNISAの口座開設者数の7分の1以下にとどまっています。政府はこれを踏まえ、企業型DCやiDeCoが加入者にとって魅力的な制度となるよう、制度の改善や認知度の向上に取り組む方針です。


企業型DCやiDeCoは、加入者自身が金融商品を選ぶしくみです。「よくわからない」「考えるのが面倒だ」と感じているような加入者の中には、元本確保型商品のみの運用となっている人もいます。このような人に対し、運用目的やリスク許容度に応じて商品を選んだり、リバランスを行ったりできるようなサポート体制を整えます。


また、企業型DCやiDeCoの手続きの簡素化やコストの低減につながるように、制度の効率化やシンプル化などを検討します。NISAについても、これまでのように利便性を高めながら、さらなる普及や定着に向けて取組みを進めるとしています。


金融リテラシーの向上へ


金融経済教育推進機構(J-FLEC)が2026年3月に公表した「金融リテラシー調査(2025年)」によると、国民の金融に関する知識や行動力(金融リテラシー)には、地域差があります。また世代によって、身につけておきたい金融リテラシーは異なります。


政府は、これらの地域差や世代の違いを踏まえて、各世代や地域に即した金融経済教育を推進していく方針を示しています。児童・生徒・学生は学校教育において、成人は職員向けの研修や地域・自治体でのセミナーを通じて、金融リテラシー向上を進めます。


これらは、単に投資や運用のノウハウを身につけるというものではありません。ファイナンシャル・ウェルビーイングを実現するために、一人ひとりがライフプランの設計・点検を行う上で、自分の金融資産や年金情報をまとめて把握できることが大切です。


金融インフラの整備


経済の中で資金をスムーズに流すために、金融インフラの役割は重要です。AIの活用によって、24時間365日の決済が可能になったり、販売や物流と決済が連携して企業の生産性が向上したりします。そのためには、決済システムがこれらに対応でき、かつ安定的で安全に利用できなければなりません。


政府は、ブロックチェーン技術を活用した決済システムの構築や、国際利用を踏まえた各国との相互理解や連携を深めます。


また、特殊詐欺やインターネット取引サービスへの不正アクセス・不正取引、サイバー攻撃への対策に取り組み、環境整備を進めるとしています。


お金の流れにも目を向けよう


企業が成長投資を行い、金融機関や市場が資金の流れを支え、アセットオーナーが受益者のために運用し、家計が配当や年金、資産形成を通じて経済成長の成果を受け取る。さらに、その流れを金融教育や安全な決済・取引環境が下支えします。


つまり、資産運用立国とは、個人に投資を促すだけの政策ではなく、家計のお金を企業の成長につなげ、その成果を再び国民へ戻す仕組みを整える政策だといえるでしょう。


私たちも、NISAやiDeCoの制度だけを見るのではなく、自分のお金がどのように経済を巡り、どのような成長につながっているのかに目を向けてみてはいかがでしょうか。


【出典】

●「成長投資を促進するための金融戦略 - 資産運用立国のアップグレード -」 

(内閣官房(日本成長戦略本部事務局) 2026 年7月21日


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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