9月末に株式分割ラッシュ50社超 大型分割と銀行株の多さが映すもの

2026年9月末に株式分割を予定する企業は50社超に上ります。東京海上ホールディングスの15分割、ほくほくフィナンシャルグループと三井金属の10分割をはじめ、5分割以上の分割を選ぶ企業も目立ちます。従来は2分割矢3分割が中心だったことを考えると、今回は分割する企業数だけでなく、分割比率の大きさにも特徴があると感じます。


背景には、東京証券取引所による投資単位引き下げの要請があるのでしょう。東証は上場企業に対し、100株を購入するために必要な最低投資金額を50万円未満にするよう求めています。さらに近年は、個人投資家が望む水準を踏まえ、「10万円程度」も意識した少額投資環境の整備を進めています。2026年7月には、投資単位が50万円以上の企業に株式分割を改めて要請しており、今回の分割ラッシュを後押しした可能性があります。


分割予定の企業のなかでも目立つのが銀行株です。三井住友FGに加え、ほくほくFG、北日本銀行、阿波銀行、紀陽銀行、大垣共立銀行、山梨中央銀行、秋田銀行などが分割を予定しています。金利正常化による利ざや改善や増配、自社株買いへの期待から銀行株が再評価され、100株当たりの投資金額が急速に上昇したことが主因でしょう。


地域銀行にとっては、単に東証の基準を満たすだけでなく、地元の預金者や取引先にも株主になってもらいやすくする狙いがあると考えます。政策保有株式の縮減が進むなか、個人株主を増やして安定した株主基盤をつくる意味もあるでしょう。地元産品やデジタルギフトなどの株主優待と組み合わせれば、長期保有を促すこともできます。3分割から10分割まで比率に幅があるのは、各行が分割後の最低投資金額を数万円から十数万円程度に調整しているためとみられます。


三井住友FGは、2024年の3分割に続いての分割です。さらにOliveと連動した株主優待を導入しており、個人株主との接点を増やしながら、自社の金融サービス利用にもつなげる戦略と思われます。分割後は優待に必要な株数も調整されるため、優待を安く取得できるようにするものではありませんが、分割と優待を組み合わせた総合的な個人株主戦略といえます。


銀行株と並んで存在感があるのが半導体関連です。東京エレクトロンは5分割、キオクシアHDは3分割、イビデンは2分割、テラプローブは5分割を予定しています。オルガノやダイヘン、三井金属なども、半導体投資の拡大から恩恵を受ける銘柄として株価が上昇し、最低投資金額が大きくなっていました。


こうした銘柄では、東証の要請への対応に加え、NISAを使う個人投資家や、少額で複数銘柄に分散したい投資家を呼び込む狙いがあるとみています。2分割では株価上昇によって再び投資単位が高くなる可能性があるため、5分割や10分割によって一気に買いやすい水準へ引き下げる判断です。スタンダード市場の小型株では、株主数の増加や日々の売買活性化も重要な目的になるでしょう。


今回の大型分割を象徴するのが東京海上HDの15分割です。東証が求める50万円未満にするだけなら、これほど大きな分割は必要ありません。分割前に70万円台だった最低投資金額は、分割後には5万円前後まで下がります。


同社は株式分割と同時に、長期保有を条件とする株主優待も新設しました。NISAを利用する若年層などにも株主の裾野を広げ、長期保有する個人株主を増やそうという意図がうかがえます。政策保有株式の削減が進むなか、法人中心だった株主構成を、幅広い個人にも保有してもらう形へ変えていく狙いも感じられます。単なる株価の単位調整ではなく、東京海上を少額で保有できる身近な大型株に変える施策といえるでしょう。


もちろん、株式を細かく分けても企業価値や時価総額は変わりません。分割だけを理由に株価が持続的に上昇するとも限りません。ただ、最低投資金額が下がれば個人投資家が参加しやすくなり、株主数や流動性の改善は期待できます。今回の分割ラッシュは、東証の要請への形式的な対応にとどまらず、日本企業が幅広い個人に株式を保有してもらう方向へ動き始めたことを示しているのかもしれません。



日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

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