東京海上「15分割」の狙い――持ち合い解消後の株主をどうつくるか

東京海上ホールディングスが8月25日、1株を15株にする株式分割を発表しました。大型株としてはかなり思い切った分割です。分割後の理論株価は500円前後となり、100株を購入するために必要な資金も、現在の70万円台から5万円程度まで下がります。


同時に発表した株主優待も目を引きます。分割後の100株以上を3年間継続して保有した株主に優待を付与するかたちです。単に株を買いやすくするだけでなく、長く持つ個人株主を増やそうという意図が伝わってきます。


その背景にありそうなのが、政策保有株の縮小です。損害保険会社は取引先企業の株式を大量に保有してきましたが、現在はその売却を急いでいます。これは東京海上が他社株を売るだけの話ではありません。取引先が持つ東京海上株についても、持ち合い解消によって市場へ出てくる可能性があります。


これまで持ち合い株主が担ってきた「安定株主」の役割を、今後は誰が引き継ぐのでしょうか。今回の15分割と長期保有優待は、その答えの一つとして個人投資家を選んだ施策に見えます。


さらに東京海上には、バークシャー・ハサウェイとの関係があります。バークシャー傘下のナショナル・インデムニティーは東京海上株の2.49%を取得し、再保険や海外M&Aでも協力する方針です。こちらは個人株主とは性格が異なりますが、企業価値や事業上の利益を理由に長期保有する戦略的な株主です。


つまり東京海上は、取引関係を背景とした持ち合い株主が減るなかで、「バークシャーのような戦略株主」と「長期保有する個人株主」を組み合わせ、新しい株主構成をつくろうとしているのかもしれません。


もっとも、大幅な株式分割が株価上昇を保証するわけではありません。NTTは2023年に25分割を実施し、個人株主を大きく増やしましたが、その後の株価は伸び悩みました。投資単位が小さくなると買い手が増える一方、少し値上がりしただけで売る小口株主も増えます。分割への期待が先行すれば、実施後に材料出尽くしとなる可能性もあります。


東京海上ホールディングス<8766.T>日足チャート


ただ、NTTの株価低迷を分割だけで説明することもできません。減益予想や先行投資負担など、業績面の問題も重なっていました。東京海上についても、分割後の株価を決めるのは、結局のところ本業の利益と株主還元です。


特に注目したいのは、政策保有株の売却益が縮小した後です。海外保険事業などで利益を伸ばし、自社株買いと増配を続けられるのであれば、分割で増えた個人株主は株価の下支えになります。反対に、売却益の一巡とともに利益成長が鈍れば、優待だけで株価を支えるのは難しいでしょう。


今回の15分割は、単に東京海上株を安く買えるようにする施策ではありません。持ち合い解消後、さらには将来の単元株制度見直しまで意識した、株主構成の再設計と見ることができます。その成否は株主数ではなく、増えた個人投資家に長く持ちたいと思わせる利益成長を示せるかどうかにかかっています。


日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

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