日常生活やビジネスに欠かせない存在となった「クラウドサービス」。スマートフォンで撮影した写真の自動保存からオフィスでの文書作成、大企業の基盤システムの運用にいたるまで、現代のデータは雲(クラウド)の向こう側にある巨大なデータセンターに蓄積されています。この利便性の背後では、テクノロジー業界をけん引するメガテックによるライバル対決が繰り広げられています。
前編では普段使いのサービスをご紹介しました。後編では仕事で使うサービスを取り上げます。
企業向けクラウドの覇権争い
個人向けの「身近なストレージ」の戦いから、企業の基幹システムや社会インフラを支える「巨大なインフラ」に視点を移すと、競争のスケールは一気に大きくなります。
現在のパブリッククラウド市場では、アマゾン・ドットコム(AMZN)の「アマゾンウェブサービス(AWS)」、マイクロソフト(MSFT)の「Microsoft Azure(アジュール)」、アルファベット(GOOGL)の「Google Cloud」の3社が主要プレーヤーとして激しく競争しています。

一方、IBM(IBM)はAWSやAzureと同じ土俵で規模を競うというよりも、長年培ってきたエンタープライズ向けITの知見と技術を生かした「ハイブリッドクラウド」に強みを持っています。
クラウド市場の先駆者と独自のハイブリッドクラウド
アマゾンは2006年にAWSを本格的に立ち上げ、クラウドインフラサービスの提供を開始しました。自社の電子商取引(EC)サイトを運営する中で培ったITインフラの技術やノウハウを外部に提供するかたちでAWSは発展し、今も世界のクラウドインフラ市場で首位を維持しています。シナジー・リサーチ・グループによると、2026年4-6月期の世界のクラウドインフラサービス市場におけるシェアはアマゾンが28%、マイクロソフトが20%、アルファベット(Google)が15%です。
このパブリッククラウドの巨人たちとは異なるアプローチで存在感を示しているのがIBMです。IBMは、金融機関や政府機関などセキュリティーやコンプライアンスへの要求が高い企業・組織の基幹システムを長年支えてきた信頼のブランドです。

IBMが注力しているのが、自社内のサーバー(オンプレミス)とクラウドを組み合わせて運用する「ハイブリッドクラウド」戦略です。買収した「レッドハット(Red Hat)」の技術を基盤に、異なるIT環境でもアプリケーションを運用しやすくする仕組みを提供しています。特に金融や公共分野など、既存システムを抱えながらクラウド活用を進めたい企業にとって、ハイブリッドクラウドは重要な選択肢となっています。
一方、猛烈な勢いで追い上げているのが、前述のマイクロソフトが展開する「Microsoft Azure」です。Azureは、すでに世界中の大企業に導入されているWindows Serverや法人向けシステムとの親和性を武器に、エンタープライズ市場でAWSのシェアを脅かす存在へと成長しています。
■企業概要:アマゾン・ドットコム(AMZN)
ECの世界最大手として知られるが、営業利益の大部分をクラウド部門である「AWS」が稼ぎ出すという収益構造を持つ。生活に密着した小売事業と、現代社会のデジタル基盤であるクラウド事業を併せ持つことで、景気変動に対して 強固なディフェンシブ性と成長性を両立させている。

■企業概要:IBM(IBM)
「ビッグブルー」の愛称で知られるIT業界の老舗。ハードウエア製造から、クラウドとAI(Watsonx)を中心としたソフトウエア・コンサルティング企業へと変革を遂げた。Red Hatの買収以降、オープンなハイブリッドクラウド環境の提供において独自の地位を確立している。

ビジネス最前線:生産性向上のライバル
これまで紹介してきたインフラやストレージの銘柄とは異なり、ビジネスの生産性を高める「アプリケーション」の領域に特化したプレミアムなブランドも存在します。
アルファベットが提供する「Google ワークスペース」は、ブラウザさえあればどこでも共同編集ができる「Google ドキュメント」や「Google スプレッドシート」を内包し、スタートアップや教育機関、IT企業を中心に洗練されたワークスタイルを提供しています。

一方、これに対抗するマイクロソフトの「Microsoft 365」は、ビジネスの世界におけるディファクトスタンダード(事実上の業界標準)です。共同編集機能を取り込みつつ、長年培われた高度なマクロ機能やセキュリティー、そしてビジネスコミュニティーにおける「信頼ブランド」として、世界中の大企業や官公庁のデスクを独占しています。
私たちが何気なくスマートフォンをタップして写真を保存したり、仕事でファイルを共有したりする瞬間には、これらメガテック企業が何兆円もの投資を行い、ライバルに負けじと繰り広げてきたテクノロジーとマーケティングの結晶が詰まっています。その背景にある巨大なデータセンターと世界規模の覇権争いに目を向けてみると、米国株投資の新しいヒントが見えてくるかもしれません。



