中国株への投資を始めてみたいけれど、どんな銘柄に投資していいか分からない――。そんな方に向け、身近にある中国株や話題の企業をご紹介する本シリーズ。今回は、世界中で空前の注目を集める「エンボディドAI(=身体を持った人工知能)」領域から、中国のロボット開発企業「宇樹科技(688836:Unitree Robotics)」を取り上げます。
同社は今年8月、上海証券取引所のハイテク企業向け市場「科創板(STAR Market)」への新規上場を果たしたばかりで、現状では日本の個人投資家が直接株を購入することはできません。しかし、将来的に香港証券取引所への重複上場が実現すれば、日本の投資家にとっても直接投資の道が開かれることになります。世界を驚かせる中国のロボティクス技術と、その進化のスピード感を支える背景について解説します。
SNSやテレビで話題の「バク転するロボット」
最近、テレビのニュースやSNSで、驚くほど滑らかに走り回り、バク転や複雑なダンスをこなす人型ロボット(ヒューマノイド)や四足ロボットの映像を目にしたことはないでしょうか。その多くを手掛けているのが、中国・杭州に本社を置く宇樹科技(Unitree Robotics)です。
CCTVの春節番組でカンフーを披露して話題を集めた
かつてロボットといえば、研究所や工場の特定のラインで動く特殊な装置というイメージが一般的でした。しかし、宇樹科技のロボットは、研究機関や大学だけでなく、災害現場の点検、商業施設のイベント、さらには一般家庭や教育の場にまで広がりを見せています。同社は四足ロボットの量産と商業化に世界で先駆けて成功し、現在では人型ロボットの出荷台数においても世界トップクラスのシェアを誇っています。

創業の原点:大学院時代の「手作りロボット」から始まった情熱
宇樹科技の歴史は、創業者でありCEOを務める王興興(ワン・シンシン)氏の個人的な情熱から始まりました。
1990年生まれの王氏は、上海大学の大学院(修士課程)に在学中、自作の四足ロボット「XDog」の開発に着手しました。当時、先進的な歩行ロボットといえば高価な油圧駆動システムが主流であり、個人の研究者が手を出せる代物ではありませんでした。そこで王氏は、低コストな電気モーターを用いてロボットを駆動させるという革新的なアプローチを独自に考案したのです。

王興興氏は大学院在学中に四足ロボットを開発した
大学院卒業後、王氏は一度ドローン大手のDJIに就職しますが、ロボット開発への情熱を捨てきれず、わずか数カ月で退職。自らの技術を社会に届けるため、2016年に宇樹科技を設立しました。資金もリソースも限られたスタートでしたが、「自分の手で新しいロボットを作り、世界を動かしたい」という愚直なエンジニアリング精神が、現在の同社を形作る原点となっています。
社名「宇樹(Unitree)」に込められたミッション
「宇樹(Unitree)」という社名には、創業者の明確なビジョンが込められています。「Unit(団結・個)」と「Tree(樹木)」を組み合わせた言葉であり、一つひとつの技術や製品の芽が力強く育ち、やがて「世界のテクノロジーの樹」となることを目指しています。
同社のミッションは「テクノロジーで人類社会の進歩を推進する」ことです。ロボットを一部の富裕層や大規模研究室だけの特権にするのではなく、オープンで手頃な製品として世界中に供給することで、産業全体を底上げしようとしています。

実用化を加速させた「内製化」と「価格設定」
宇樹科技が世界中で存在感を高めた最大の要因は、圧倒的な開発・反復スピードと、実用的な価格設定にあります。

人型ロボットや四足ロボットなどを開発している 出所:宇樹科技のHP
従来、全サイズの人型ロボットや高度な四足ロボットは、数千万円から1億円近くする高額なものが大半でした。しかし同社は、小型・中型の人型ロボット「G1」を約9万9000元(約200万円強)という水準で市場に投入し、ロボット業界に大きな衝撃を与えました。
なぜこのような展開が可能なのでしょうか。その理由は、主要部品の「フルスタック内製化(自社開発)」にあります。

出所:同社目論見書
外部から部品を調達するのではなく、自社で設計・製造までを一貫して手掛けることで、不具合の修正や新機能の追加を短期間で行える強みが生まれます。実際に同社は、数カ月単位で製品のアップデートや新機種の発表を行っており、この開発スピードこそが同社の強固な参入障壁となっています。
強力な資本背景と投資家からの評価
こうした実用化への取り組みと技術力は、多くの有力投資家からも高く評価されています。
同社の株主には美団(03690)、紅杉中国のほか、小米集団(01810)の創業者である雷軍CEOが率いる順為資本、中信証券(06030/600030)、源碼資本など有力投資家が名を連ねています。美団はグループ会社を通じて約9.6%を保有する主要株主で、テンセント(00700)やアリババ集団(09988)系の投資会社も出資しています。
単なるロボットの製造にとどまらず、将来的な物流・配送、工場での自動化、インフラ点検、サービス業など、幅広い産業への応用を見据えた戦略的提携が進められています。
まとめ:今回見つけた身近な中国株銘柄
今回見つけた身近な中国株銘柄は、上海の科創板に新規上場した宇樹科技(688836:Unitree Robotics)です。
現時点で科創板だけに上場しているため、日本の個人投資家が直接売買することはできませんが、中国のロボット産業がどのようなスピードで進化しているかを知る上で、同社は最も象徴的な企業の一つと言えます。将来、香港市場への重複上場などが実現すれば、日本の投資家にとっても、中国のAI・ロボティクス成長の波に乗る貴重な選択肢となるでしょう。今後の同社の動向とグローバル展開に引き続き注目が集まります。

【中国の高性能汎用ロボット開発企業】高性能な人型ロボットや四足ロボット、エンボディドAIモデル、ロボット部品の製造・販売を手掛ける中国の民営企業。創業者である王興興氏が実質的支配者を務める。主力製品は、一般家庭や教育向けの「Go」シリーズ、災害現場の点検や災害救助向けの「B」シリーズなどの四足ロボットに加え、世界的な出荷実績を持つ「G1」や「H1」などの汎用人型ロボット。国内外の大学や研究機関、テック企業などに幅広く導入されている。モーターや減速機、3Dレーザーレーダー、多自由度のロボットハンドなど、ロボットを構成する各種の基幹部品(コンポーネント)も自社で研究開発から量産まで一貫して手掛ける。



