「人材強国」を目指す中国、次世代の人材を担う中国の大学の実力は?

中国では次世代を担う人材の面でも国際的な競争力が高まってきています。「国力の競争とは人材の競争である」との認識の下、中国は人材育成に非常に力を入れており、人材によって国の競争力を高めようという、「人材強国」を重要な国家戦略として掲げています。今回は大学の競争力について見ていきたいと思います。


アジア大学ランキング、1位は中国の清華大学

 

大学の競争力を測る指標としてよく利用されるのが、英国の教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」が発表する世界大学ランキングです。THEの説明によると、世界の各大学のデータを「教育力」「研究力」「論文被引用数(=研究の影響力)」「国際性」「産業界からの収入」という5分野、13の指標で分析し、それぞれのスコアを算出して順位付けしたものです。


 

最新の2022年版を見ると、トップ10は米国が8大学、英国が2大学と米英の大学が独占。非英語圏の大学は「論文被引用数」や「国際性」などの面で、どうしても順位が低くなってしまう傾向があるので、今回はアジアの大学に絞ったランキングを見てみたいと思います。


  

2013年に中国でトップ10に入ったのは4位の北京大学のみでしたが、2018年には2位に清華大学、3位に北京大学と2大学がランクイン。そして直近2022年版では、1位が清華大学、2位が北京大学、10位が復旦大学と中国勢が躍進しています。このほか、香港大学、香港中文大学、香港科技大学といった香港の大学も目立ちます。日本の大学では、東京大学が唯一入っていますが、2013年の1位から順位を落としています。

 

トップ100に入った大学数を比較してみると、2014年までは日本の大学数が中国の大学数を上回っていましたが、これが2015年に逆転。直近2022年版では、中国が30大学に対して、日本が8大学となり、日本と中国の差はますます拡大しています。


 

中国は教育支出も拡大、日本との差は鮮明に

 

中国では「人材強国」戦略の下、教育への財政支出を拡大しており、2020年には中央政府による教育支出が総額4兆2900億元(約85兆8000億円)に達し、国内総生産に占める割合は4.2%に上っています。一方、日本はというと、教育支出が年々削減され、GDPに占める割合は経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最低水準。国立大学への運営交付金の予算額も減り続けています。日本では予算削減で研究が続けられなくなり、研究人材の流出も深刻です。先端技術を研究する教授が中国の大学に高額で招へいされる例も増えており、日本と中国では勢いの差が鮮明になっています。



国際特許出願件数でも中国の大学が存在感

 

政府による積極的な教育支援を背景に、大学での先端分野における研究も進んでいます。次に世界知的所有権機関(WIPO)が発表している国際特許出願件数の大学別ランキングを見てみましょう。


 

トップ10を見ると米国の大学が多いことに気づくと思いますが、中国の大学も存在感が高まってきています。2015年に清華大学が8位に入り、直近2021年には浙江大学、清華大学、華南理工大学、蘇州大学と4大学がランクインしています。浙江大学のある浙江省杭州には中国のEC最大手アリババ集団(09988)が本社を構えており、毎年多くの卒業生を採用しているようです。

 

ちなみに、中国の指導者層には伝統的に理工系出身者が多く、中国の現在の国家主席である習近平氏と前国家主席の胡錦濤氏は、いずれも理工系の名門・清華大学の出身です。国のトップが理工系ということも、科学技術を重視する中国の政策に反映されているのかもしれません。

中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

池ヶ谷 典志の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております